2015年4月30日木曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」22章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

22章


1.「兄弟たち、また父たちである皆さん。わたしが今から、あなたがたに申し上げる弁明をお聞きください」。2.パウロがヘブライ語で彼らに語りかけるのを聞いて、人々はますます静かになった。そして彼は言った。3.「わたしはキリキアのタルソス生まれのユダヤ人です。そしてこの都で育ち、ガマリエルのひざもとで先祖たちの律法についての厳格な教えを受け、今日のあなたがた一同と同じように神に熱心な者でありました。4.そのわたしがこの道を迫害し、男たちも女たちも縛り上げて獄に引き渡し、死に至らしめたのです。5.大祭司も、また長老会全体もわたしについて証言しているように、わたしはその人々から兄弟たちへの書面を受け取り、ダマスコに向かって旅をしていました。そこにいる人々を縛り上げ罰を受けさせるために、エルサレムへ引っぱって来るためでした。
6.わたしが旅を続けてダマスコに近づいたとき、真昼ごろに突然、天からの強い光がわたしをめぐり照らしました。7.わたしは地に倒れ、わたしに語りかける声を聞きました。『サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害するのか』。8.そこでわたしは答えました。『主よ、あなたはどなたですか』。すると、その方がわたしに言われました。『わたしはあなたが迫害しているナザレ人イエスである』。9.わたしと一緒にいた人たちは、その光は見ましたが、わたしに語りかけた方の声は聞きませんでした。10.そこで、わたしは言いました。『主よ、わたしは何をすればよいのでしょうか』。すると、主がわたしに言われました。『立ち上がってダマスコに入って行きなさい。あなたが行うために用意されたことはすべて、そこで告げられるだろう』。11.わたしはその光の輝きによって(何も)見ることができなくなっていましたので、わたしに同行していた人たちに手を引かれて、ダマスコ(の町)に入りました。
12.すると、ユダヤの全住民に評判がよく、律法に従う忠実なアナニアという人が、13.わたしのもとに来て、そばに立って言いました。『兄弟サウロよ、見えるようになれ』。するとその時、わたしはその人が見えるようになったのです。14.そして、その人は言いました。『わたしたちの先祖たちの神が、(あなたに)その御心を悟らせ、義なる方を見させ、その口から出る声を聞かせるためにあなたを選ばれたのです。15.あなたが主のために、全ての人に対して、あなたが見たこと、聞いたことの証人となるためです。16.さあ、今、何をためらっているのですか。立ち上がってバプテスマを受けなさい。そしてその方の名を呼んで、自分の罪を洗い落しなさい』。
17.さて、わたしがエルサレムに戻って来て、神殿の庭で祈っていますと、夢心地になりました。18.すると、その方がわたしにこう言われるのを見ました。『急いで、すぐにエルサレムから出なさい。人々が、わたしについてのあなたの証しを受け入れないから』。19.わたしも言いました。『主よ、彼らは、わたしがかつて会堂ごとに、あなたを信じる人々を投獄したり、鞭打ったりしていた者であることを知っています。20.また、あなたの証人ステファノの血が流されていた時、わたしもそこにいて、座って(それに)賛成し、彼を殺そうとしている者たちの上着の番をしていたのです』。21.するとその方がわたしに言われました。『行きなさい。わたしがあなたを遠く異邦人たちへ遣わすのだ』と」。
22.人々はパウロの言葉をここまで聞くと、自分たちの声を張り上げて言った。「こんな者は地上から除いてしまえ。生かしておくべきではないからだ」。23.彼らは叫びながら(自分たちの)上着を放り投げ、埃を空に撒き散らすので、24.千人隊長はパウロを兵営に連れて行くように命じ、人々がどうしてこのようにパウロに対してわめきたてるのかを知ろうと、彼を鞭打って調べるようにと言った。25.そこで彼らが(鞭打ちのために)パウロ(の体)を引き伸ばして革ひもで縛りつけたとき、パウロは(そばに)立っていた百人隊長に言った。「あなたがたは、ローマ人を裁判にもかけずに鞭打ってもよいのですか」。26.百人隊長はこれを聞き、千人隊長のところへ行って報告して言った。「どうなさいますか。この人はローマ人です」。27.そこで千人隊長はパウロのところへ来て言った。言ってくれ、「あなたはローマ人なのか」。パウロが言った。「そうです」。28.千人隊長が言った。「わたしは多額の金でこの市民権を手に入れたのだ」。パウロが言った。「わたしは生まれながらの(ローマ人)です」。29.そこで、パウロを取り調べようとしていた人々はただちにパウロから身を引いた。千人隊長も、パウロがローマ人であって、その彼を縛っていたことを知って恐ろしくなった。

30.翌日、千人隊長は、なぜパウロがユダヤ人たちに訴えられているのか、確かなことを知りたいと思い、パウロを解放した上で、祭司長たちと全議会を召集するよう命じた。そして、パウロを連れて来て彼らの前に立たせた。


●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 22章






ἑώρακας καὶ ἤκουσας (あなたが見たこと、聞いたこと)15
ここで ἑώρακας は完了、 ἤκουσας は不定過去が使われている。ゆえに、正しくは、「あなたが見て知っていること、聞いたこと」と訳すべき。

τὰς ἁμαρτίας σου (自分の罪を)16
ここでτὰς ἁμαρτίας  (罪)が複数になっていることに注意。ゆえに、「あなたの数々の罪深い行い」を意味する。

2015年4月21日火曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」21章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

21章


1.わたしたちは彼らに別れを告げてから船出してコスへ直航し、それから次の日にロドスへ、そこからパタラへ行った。2.そして(そこで)フェニキア行きの船を見つけたので、それに乗って船出した。3.そしてキプロス島が見えてきたが、わたしたちはそれを左に見て通り過ぎ、シリアへ向かって船を走らせ、ティルス(の港)に到着した。ここで船が荷物を陸揚げすることになっていたからである。4.わたしたちは弟子たちを探し出して、その家に七日間泊まった。弟子たちは霊によって、「エルサレムには行かないように」と何度もパウロに言った。5.しかし、滞在期間が過ぎたとき、わたしたちが旅立とうとしていると、弟子たちは皆、婦人たちや子供たちも連れて(ティルスの)町の外までわたしたちを見送りに来てくれた。そして共に海岸でひざまずいて祈り、6.互いに別れの挨拶をしてから、わたしたちは船に乗り込み、その人たちは自分の家に帰って行った。
7.わたしたちはティルスから航海を続けプトレマイスに着いた。そして兄弟たちに挨拶をして、彼らのところに一日滞在した。8.翌日、わたしたちはそこを出てカイサリアに行き、七人の中の一人である伝道者フィリポの家に行ってそこに泊まった。9.この人には四人の未婚の娘たちがいたが、彼女たちは預言をしていた。10.幾日も滞在していたが、ユダヤからアガボという名の預言者が下ってきて、11.わたしたちのもとに来て、パウロの帯を取り上げ自分の両足と両手を縛って言った。「聖霊がこう言っておられます。『この帯を締めている人を、ユダヤ人たちがエルサレムでこのように縛って、異邦人たちの手に引き渡そうとしています』」。12.わたしたちはこれを聞き、わたしたちも地元の人々も、パウロにエルサレムには上っていかないようにとしきりに頼んだ。13.そのときパウロが答えて言った。「どうしてあなたがたは、泣いたりわたしの心をくじいたりするのですか。わたしは主イエスの名のためなら、エルサレムで縛られるだけでなく、死ぬことも覚悟しているのです」。14.彼が聞き入れようとしなかったので、わたしたちは「主の御心がなりますように」と言って黙ってしまった。
15.数日後、わたしたちは旅の準備をしてエルサレムへ上って行った。16.カイサリアから、弟子たちもわたしたちに同行して、キプロス出身の早くからの弟子で、ムナソンという人の家に泊まれるように案内してくれた。
17.わたしたちがエルサレムに着くと、兄弟たちはわたしたちを喜んで迎えてくれた。18.翌日、パウロはわたしたちと一緒にヤコブのところへ行くと、長老たちが皆集まっていた。19.パウロは彼らに挨拶をしてから、自分の働きを通して神が異邦人たちの間でなさったことを逐一報告した。20.長老たちはこれを聞いて神を賛美してパウロに言った。「兄弟よ、ご存知のように、ユダヤ人の中には信者となっている者が幾万もいて、みな律法を熱心に守っています。21.しかし、彼らがあなたについて聞かされていることは、あなたは、異邦人たちと一緒に(住んで)いる全てのユダヤ人たちに対して、『子供たちには割礼を施すな、慣例には従うな』と言って、モーセ(の律法)に反したことを教えているということです。22.それで、どうでしょうか。あなたが来ておられることは、みんなの者にいずれ知れわたるでしょう。23.ですから、わたしたちの言うとおりにおこなってください。わたしたちのところには、誓願を立てた者が四人います。24.この人たちを連れて、彼らと一緒に清めを受け、彼らのために頭をそるための費用を払ってやってください。そうすれば、全ての者たちが、あなたについて聞かされていることが根も葉もないことで、あなたが律法を守って模範的な生活をしていることを知るでしょう。25.しかし、異邦人で信者となった人たちについては、偶像に捧げられたものと、血と、絞め殺した動物の肉と、不品行とを避けるようにと決められていますので、(それを守るようにと)彼らに手紙を書き送りました」。26.そこでパウロはその四人を連れて、次の日、彼らと一緒に清めを受けて神殿に入り、清めの期間が満ちる日、すなわち彼ら各自のために捧げものを捧げる日がいつであるかを告げた。
27.さて、七日の期間が満ちようとしていた時、アジアから来たユダヤ人たちが神殿の庭でパウロを見つけ、全ての群衆を扇動し、彼に手をかけて、28.叫んだ。「イスラエルの諸君、手伝ってくれ。この男は民衆と律法とこの場所に反することを、いたるところで皆に教えている者だ。その上、ギリシア人たちをも神殿に連れ込んで、この聖なる場所を汚している」。29.彼らは前に、エフェソ人のトロフィモが都でパウロと一緒にいるのを目撃していて、その彼を、パウロが神殿に連れ込んだと思ったからである。30.それで、都全体が大混乱となり、群衆が駆け寄りパウロを捕らえて彼を神殿の外に引きずり出した。そしてすぐに門が閉められた。31.彼らがパウロを殺そうともくろんでいたとき、エルサレム中が混乱状態に陥っていることがローマ歩兵隊の千人隊長のもとに届いた。32.千人隊長はただちに、兵隊たちと百人隊長たちを率いて彼らのところへ駆けつけた。ところが、人々は千人隊長と兵隊たちを見て、パウロを打ちたたくのをやめた。33.千人隊長はパウロに近寄って捕らえ、二本の鎖で縛るよう命じた。そして彼が誰で、何をしたのかを尋ねた。34.しかし、群衆の中のある者たちはこのことを、他の者はあのことを叫んでわめきたてたため、彼について正確なことを知ることができなかったので、千人隊長はパウロを兵営に連れて行くように命じた。35.しかし、パウロが(兵営の)階段にさしかかったとき、群衆の暴力から(身を守るために)パウロは兵卒たちによって担がれて行くという始末であった。36.大勢の群衆が、「彼を上げてしまえ」と叫びながらついて来ていたからである。

37.兵営の中に連れ込まれようとしたとき、パウロが千人隊長に、「ひと言お話してもよろしいでしょうか」と言った。すると千人隊長が言った。「お前はギリシア語を知っているのか。38.それなら、お前は近ごろ謀反を起こして、四千人の刺客を連れて荒野に逃げたあのエジプト人ではないのか」。39.しかし、パウロは言った。「わたしはユダヤ人で、キリキアのタルソス出身のれっきとした町の市民です。お願いしますが、わたしが民衆に話をするのをお許しください」。40.千人隊長がそれを許したので、パウロは階段の上に立ち、民衆に(静まるよう)手で合図をした。民衆が静まり返ったので、パウロはヘブライ語で呼びかけて言った。


●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 21章



今日の、エルサレム神殿跡

2015年4月13日月曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」20章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

20章


1.騒動がおさまった後、パウロは弟子たちを呼んで励まし、別れの挨拶をしてからマケドニアに向けて旅立った。2.そしてその地方を巡り歩き、彼らを多くの言葉をもって励まし、ギリシアへ行った。3.そこで三か月過ごしてから、シリアに向けて出帆しようとしていたとき、ユダヤ人たちによるパウロへの陰謀が起きたので、彼はマケドニアを通って帰ることに決めた。4.ピロの子でベレア人のソパトロ、テサロニケ出身のアリスタルコとセクンド、デルベ人ガイオ、テモテ、アジア人のティキコとトロフィモがパウロに同行していた。5.彼らは先に出発していてトロアスでわたしたちを待っていた。6.除酵祭の日の後、わたしたちはフィリピから船出し、五日かけて彼らの待つトロアスへ行き、そこに七日間滞在した。
7.週の初めの日に、わたしたちがパンを裂くために集まったとき、パウロは翌日に出発しようとしていたので彼らに話をしていたが、その話が夜中まで長引いていた。8.わたしたちが集まっていた二階の間には、たくさんの明かりが灯されていた。9.エウティコという名の若者が窓に腰掛けていたが、パウロの話が長くなったため深い眠気に襲われ、ついに寝入ってしまい、三階から下に落ちてしまった。若者は起こされたが(すでに)死んでいた。10.しかしパウロは(二階から)降りて来て若者の上に身を伏し抱いて言った。「心配ない。まだ息がある」。11.それから(二階に)上がってパンを裂いて食べ、また夜明けまで長い間話し合ってから出発した。12.人々は生き返った少年を連れて帰り、計り知れぬほど慰められた。
13.さて、わたしたちは先に船に乗り込んでアソスに向けて出帆した。そのところでパウロを船に乗せることにしていた。それはパウロが徒歩で行くことにしていて、彼がそのように指示していたからである。14.パウロがアソスでわたしたちと落ち合ったので、わたしたちは彼を船に乗せてミティレネへ行った。15.翌日、そこから出帆しキオスの沖に達し、それから次の日にサモスに寄港し、次の日にミレトスに着いた。16.パウロは、アジアで時間を費やさないようエフェソを通過することに決めていたからである。できればペンテコステの日にはエルサレムに着いていたかったので、(旅を)急いでいたのである。
17.さて、パウロはミレトスからエフェソに(人を)遣わして、教会の長老たちを(ミレトスに)呼び寄せた。18.彼らがパウロのもとに来たとき、パウロが彼らに言った。「わたしがアジアに足を踏み入れた最初の日から、わたしがどのようにいつもあなたがたと共に過ごしてきたか、あなたがたはよくご存知です。19.わたしはユダヤ人たちによる陰謀によって自分にふりかかる数々の涙と試練の中でも、謙遜の限りを尽くして主に仕えてきました。20.益となることは、ひるむことなく、公衆の面前でも家々でもあなたがたに知らせ、また教えてきました。21.わたしはユダヤ人にもギリシア人にも、神への悔い改めと、わたしたちの主イエスに対する信仰とを力強く証ししたのです。22.そして今、わたしは霊に強いられてエルサレムへ行きます。そこでわたし(の身)に何が起こるか、わたしにはわかりません。23.ただ、聖霊がこの町についてわたしにはっきり告げていることは、『投獄と苦難とがわたしを待ち受けている』ということです。24.しかし、わたしの(定められた)道のりを走り終え、わたしが主イエスから受けた務め、すなわち、神の恵みの福音を力強く証しする務めを果たし終えさえすれば、わたしにとってこの命は少しも惜しいとは思いません。25.そして今、御国を宣べ伝えるためにあなたがたの間を行き巡ったわたしの顔を、あなたがたみんなはもう二度と見ることはないと、わたしには分かっています。26.ですから今日という日に、あなたがたに宣言しておきますが、全ての人の血(の責任)からわたしは潔白なのです。27.わたしは神の御心を全てひるむことなく、あなたがたに知らせておいたからです。28.あなたがた自身と全ての群れに気を配りなさい。聖霊は(キリストが)ご自身の血によって買い取られた神の教会を牧させるために、あなたがたを群れの中の監督者に任命されたのです。29.わたしが去って行った後、狂暴な狼どもがあなたがたの中に入りこんで、群れを容赦なく荒らすことをわたしは知っています。30.また、あなたがたの中からも曲がったことを言って、弟子たちを自分たちの側に引き込もうとする者たちが現れるでしょう。31.だから目を覚まして、わたしが三年の間、夜も昼も涙をもって一人ひとりに絶え間なく諭し続けたことを思い出してほしい。32.そして今、わたしは神とその恵みの言葉にあなたがたを委ねます。御言葉には、あなたがたを建てあげ、聖別された全ての人々とともに、(御国を)相続する力があります。33.わたしは(他人の)銀も金も衣服も欲しがったことはありません。34.彼ら自身が知っているとおり、この両手はわたしの必要のため、またわたしと共にいる人々のためにも仕えてきたのです。35.こうしてわたしは、よく働いて弱い人々を助けなければならないこと、また、『受けるよりは与えるほうが幸いである』と言われた主イエスの言葉を思い起こすよう、すべてをあなたがたに示したのです」。

36.こう言ってから、パウロは彼ら一同と共にひざまずいて祈った。37.みんなは激しく泣き、パウロの首を抱いて接吻した。38.彼らは、「もう二度と自分の顔を見ることはない」と言った(パウロの)言葉に特に心を痛めた。それから彼らはパウロを船まで見送った。


●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 20章


                                               ミレトス遺跡

2015年4月6日月曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」19章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

19章


1.さて、アポロがコリントにいた時、パウロは奥地を通ってエフェソに[下って]来た。そこである弟子たちに会い、2.彼らに、「あなたがたが信仰を持ったとき、聖霊を受けましたか」と言った。彼らはパウロに対して言った。「わたしたちは聖霊が存在するかどうかも聞いたことがありません」。3.パウロが言った。「ではどんなバプテスマを受けたのですか」。彼らは言った。「ヨハネのバプテスマです」。4.パウロが言った。「ヨハネは、『自分の後に来られる方、すなわち、イエスを信じるように』と言って、民衆に悔い改めのバプテスマを授けたのです」。5.そこで彼らはこれを聞いて、主イエスの名によってバプテスマを受けた。6.パウロが彼らに手を置くと、聖霊が彼らの上に臨み、彼らは異言を語ったり預言をしたりし始めた。7.その人たちは皆で十二人ほどであった。
8.さて、パウロは三か月の間、会堂に入っては大胆に語り、神の国[のこと]について論じまた説得していた。9.しかし、ある者たちは頑固で従おうとはせず、大勢の面前でこの道をののしったので、パウロは彼らから遠ざかり、弟子たちを避けてティラノの講堂で毎日論じていた。10.このことが二年にも及んだので、アジアに住む人々、ユダヤ人もギリシア人も、全ての人々が主の言葉を聞くこととなった。
11.神はパウロの手によって並々ならぬ力ある業を行われ、12.彼が身に着けていたハンカチやエプロンを持って行って病気の人たちの上に掛けると、彼らから病気が去り、悪霊どもも出て行った。
13.そこで、各地を巡り歩いているあるユダヤ人祈祷師たちが、悪霊に取りつかれた者たちに主イエスの名を唱え、「パウロが伝えているイエスによってお前たちに命じる」と言って試してみた。14.ユダヤ人の祭司長でスケワという者に七人の息子たちがいたが、彼らがこんなことをしていたのである。15.ところが、悪霊がこたえて彼らに言った。「イエスなら我々は知っている。パウロのことも分かっている。だが、お前たちはいったい何者か」。16.そして、悪霊に取りつかれていた人が彼らに飛びかかり、全員を抑えつけ打ち負かしたので、彼らは裸にされ、傷を負ってそこの家から逃げ出した。17.このことがエフェソに住む全てのユダヤ人とギリシア人に知れわたり、彼ら全員に恐れの念が生じ、キリスト・イエスの名があがめられた。18.信じた者たちの多くは、自分たちの行いを告白し、また知らせるために(パウロのもとに)やって来た。19.魔術を行う者たちの多くは、その魔術の本を持ってきてみんなの前で燃やした。それらの金額を計算すると、銀貨五万枚にもなった。20.こうして主の言葉は力強く成長し、また力を増して行った。
21.このようなことがあってから、パウロはマケドニアとアカイアを経てエルサレムへ行こうと心に決め、「わたしがそこへ行った後、ローマをも見なくてはならない」と言った。22.パウロは、自分に仕える者たちの中からテモテとエラストの二人をマケドニアへ派遣し、彼自身はしばらくの間アジアにとどまった。
23.そのころ、この道についてただならぬ騒動が起きた。24.デメトリオという名の銀細工師の男が、アルテミスの銀の神殿の模型を作り、それを職人たちに提供して少なからぬ利益を得させていた。25.彼はその人たちや、そのような仕事をしている人々を集めて言った。「諸君、我々はこの仕事のお陰で繁栄していることは、みなさんの承知しているところだ。26.諸君も見たり聞いたりしているとおり、このパウロは『手で造ったものは神ではない』と言って、エフェソのみならずアジアのほぼ全域で、大勢の人々を説き伏せ邪道に導いている。27.これは我々のもうけに悪評がたつ危険があるばかりでなく、この偉大な女神アルテミスの神殿も顧みられなくなり、ひいては全アジアと世界が拝んでいるこの女神の尊厳さえも損なわれることになりかねない」。

28.人々はこれを聞いて大いに怒り、「エフェソ人たちの偉大なるアルテミス」と言って叫んだ。29.そして町が混乱に満ちてしまい、人々はパウロの同行者であるマケドニア人のガイオとアリスタルコを捕らえて、一斉に劇場になだれ込んだ。30.パウロは群衆の中へ入って行こうとしたが、弟子たちがそれを止めた。31.パウロの友人であったアジア地域のある高官たちも、パウロに(人を)送って劇場へは行かないようにと頼んだ。32.さて、ある者たちはこのことを、ほかの者はあのことを叫び、集会は大混乱に陥っていたので、多くの者は何のために集まっているのかさえわからなかった。33.そこでユダヤ人たちは群衆の中からアレクサンドロに指図し、彼を前に押し出した。アレクサンドロは手を振りながら群衆に対して弁明しようとした。34.しかし、群衆は彼がユダヤ人だと知って、一斉に声を上げ、「エフェソ人たちの偉大なアルテミス」と言って二時間ほど叫び続けた。35.しかし、町の書記官が群衆をしずめて言った。「エフェソの諸君、このエフェソの町が、偉大なアルテミスと天から降りて来たそのご神体との守護者であることを知らない者がいるだろうか。36.このことは否定できないことだから、あなたがたは静かにしているべきで、軽率なことをしてはならない。37.あなたがたはこの人たちを連れて来たが、この人たちは神殿を冒涜したのでも我々の神を冒涜したのでもない。38.そこでもし、デメトリオと仲間の職人たちが誰かに言い分があるなら、裁判の日も開かれるし総督もいるのだから、そこで互いに訴えなさい。39.もしそれ以外の要求があるなら、正式な議会で解決してもらうがよい。40.今日のことについて、我々は反乱罪に問われる恐れがある。この騒動については、言い訳ができるような何の理由もないからだ」。こう言って彼はその集会を解散させた。


●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 19章



                                                古代都市エフェソスの野外劇場