2015年7月29日水曜日

新約聖書原典「コリントの人々への手紙一」 3章の翻訳(私訳)


コリントの人々への手紙  

3章


1.兄弟たちよ、わたしもあなたがたに、霊の人たちに対するようには話すことができず、むしろ、肉の人たちに対するように、キリストにある幼子たちに対するように話しました。2.わたしはあなたがたに、固い食物ではなく、乳を飲ませました。あなたがたには、まだ食べる力がなかったからです。今でもまだその力がありません。3.あなたがたが、まだ肉の人たちだからです。あなたがたの内にねたみや争いがあるのは、あなたがたが肉の人たちであって、世のならわしに従って歩いているからではありませんか。4.ある人は「わたしはパウロにつく」と言い、ほかの人は「わたしはアポロにつく」と言っているとすれば、あなたがたは世のならわしに従う人ではありませんか。5.では、アポロとは誰ですか。また、パウロとは誰ですか。二人は、あなたがたが彼らによって信じることとなった僕たちであって、主がおのおのに授けられたとおりのことをしただけです。6.わたしが植え、アポロが水を注ぎました。しかし、神が成長させてくださったのです。7.ですから、大切なのは、植える者でも水を注ぐ者でもなく、成長させてくださる神なのです。8.しかし、植える者と水を注ぐ者とは一つです。それぞれは、その働きに応じて自分の報酬を受けることになるでしょう。9.わたしたちは神の同労者であり、あなたがたは神の耕された畑であり、神の建物です。
10.わたしは、わたしに与えられた神の恵みによって、熟練した賢い建築士のように土台を据えました。そして、ほかの人がその上に家を建てています。しかし、各自は、ほかの人がどのように家を建てるかを注意していなさい。11.据えられている土台以外には、だれもほかの土台を据えることはできないからです。この土台とは、イエス・キリストです。12.もしだれかが、この土台の上に、金、銀、宝石、木、草、わらで家を建てるとすれば、13.おのおのの結果はやがて明らかになります。その日がそれを明らかにしてくれるからです。というのは、(その日に)各々のわざがどんなものであったか、火が[そのことを]確かめ、火によって明らかにされるからです。14.もし、だれかの築き上げたわざが残れば、その人は報いを受けるでしょう。15.もし、だれかの築き上げたわざが焼き尽くされれば、損害をこうむりますが、その人自身は、火をくぐり抜けるようにして救われるでしょう。
16.あなたがたは神の神殿であって、神の霊があなたがたの内に住んでおられることを知らないのですか。17.もしだれかが、神の神殿を破壊するなら、神がその人を滅ぼされるでしょう。神の神殿は聖なるものだからです。あなたがた一人ひとりがその神殿なのです。

18.だれでも自分自身を欺いてはいけません。もしあなたがたの中で、自分はこの世で知者だと思う人がいれば、知者となるために愚か者になりなさい。19.この世の知恵は、神にとっては愚かだからです。こう書かれています。「神は知者たちを、彼らの悪知恵によって捕らえられる」。20.また、こうも書かれています。「主は、知者たちの考えが無益なものであることを知っておられる」。21.ですから、だれも人を誇ってはいけません。すべてはあなたがたに属することだからです。22.パウロであれ、アポロであれ、ケファであれ、世であれ、生きることであれ、死ぬことであれ、現在起きていることであれ、これから起ころうとすることであれ、すべてはあなたがたに属することです。23.あなたがたはキリストに属する者、キリストは神に属する方です。




2015年7月16日木曜日

新約聖書原典「コリントの人々への手紙一」2章の翻訳(私訳)


コリントの人々への手紙  

2章


1.さて、兄弟たちよ、わたしもあなたがたのところへ行ったとき、神の奥義をあなたがたに告げ知らせるのに、すぐれた言葉や知恵を用いませんでした。2.なぜなら、わたしは、イエス・キリスト、それも、十字架につけられたキリスト以外、あなたがたの間では何も知るまいと決めたからです。3.わたしも、弱さと恐れと非常な不安の中で、あなたがたのところに行きました。4.わたしの言葉も、わたしの宣教も、知恵による説得や[言葉]ではなく、霊と力との証明によったのです。5.それは、あなたがたの信仰が、人々の知恵によらず、神の力によるためでした。
6.わたしたちは、成熟した人々の間では知恵を語りますが、それはこの世の知恵でも、滅びゆくこの世の支配者たちの知恵でもありません。7.そうではなく、わたしたちは、奥義の中に隠されている神の知恵を語るのです。その知恵を、神は、わたしたちを栄光にあずからせるために、世界の(創造)以前から、あらかじめ定めてくださったのです。8.この世の支配者たちは誰も、その知恵を知りませんでした。もし、彼らが知っていたら、栄光の主を十字架にはつけなかったでしょうに。9.むしろ、このように書かれています。
『目も見ず、耳も聞かず、
人の心にも思いつかなかったことを、
神は、ご自分を愛する者たちのために用意された。』

10.神は、御霊を通してわたしたちに(そのことを)明らかにしてくださいました。御霊は全てのものを極め、神の深みまでも極められるからです。11.人間のことは、人間の中にある霊のほか、誰が知り得るでしょうか。同じように、神のことも神の霊のほか誰もにわからないのです。12.わたしたちは、この世の霊を受けたのではなく、神からの霊を受けたのです。それによってわたしたちは、神がわたしたちに賜ったことがらを、理解するようになるのです。13.わたしたちが語っていることは、人の知恵によって教えられた言葉によってではなく、御霊によって教えられた言葉によってであって、御霊の働きによって霊のことがらを解釈するのです。14.生まれながらの人間は、神の御霊のことを受け入れません。それは彼には愚かなことで、理解することもできません。それは霊的に判断されるものだからです。15.御霊に導かれている人は、すべて[のこと]を(御霊によって)判断しますが、その人自身はだれからも判断されません。16.『まことに、だれが主の思いを知って、主を教えるだろうか』。わたしたちこそ、キリストの思いを抱いているのです。





οὐ καθʼ ὑπεροχὴν λόγου(1)
「優れた言葉を用いないで」は、「大げさな言葉を用いないで」「仰々しい言葉を用いないで」と訳すほうが原文の意味に近いかもしれない。

★2章には、古代ギリシア哲学の影響と思える言葉が、いくつも現れ、この手紙の読み手が、ギリシア哲学の影響下にあることをうかがわせる。例えば、奥義(μυστήριον・ミュステーリオン)、言葉( λόγος・ロゴス )、知恵(σοφία・ソフィア )、霊(πνεῦμα・プニューマ )などです。とくにσοφία(ソフィア・知恵)は非常に多く出てきて、神の知恵とこの世の知恵とが比較されて現れます。



2015年7月14日火曜日

新約聖書原典「コリントの人々への手紙一」1章の翻訳(私訳)


コリントの人々への手紙 一 


1章


1.神の御旨によって、キリスト・イエスの使徒として召されたパウロと、兄弟ソステネから、2.あらゆるところで、わたしたちの主イエス・キリストの名を呼び求めているすべての人々と共に、キリスト・イエスにあって聖別され、召され、聖とされたコリントにある神の教会へ。(このイエス・キリストは)彼らとわたしたちの(主であられます)。
3.わたしたちの父であられる神と、主イエス・キリストから、恵みと平安があなたがたにあるように。
4.わたしは、キリスト・イエスにあって、あなたがたが受けた神の恵みについて、あなたがたのことをいつもわたしの神に感謝しています。5.というのは、あなたがたはキリストにあって全てのことにおいて、あらゆる言葉にも、あらゆる知識にも豊かにされたからです。6.このようにキリストの証しが、あなたがたの間で確かなものとなり、7.こうして、あなたがたが恵みの賜物に何一つ欠けることなく、わたしたちの主イエス・キリストの現れるのを待ち望んでいるのです。8.主も、あなたがたを、わたしたちの主イエス・[キリスト]の日に非難されるところのない者として、最後までしっかりと支えてくださるでしょう。9.神は真実です。この方によって、あなたがたは、その子、わたしたちの主イエス・キリストとの交わりに招き入れられたのです。
10.さて、兄弟たちよ、わたしたちの主イエス・キリストの名によってあなたがたに勧めます。皆、語ることを同じにし、あなたがたの間で分裂がなく、同じ考え、同じ意見になるようにしっかり努めなさい。11.わたしの兄弟たちよ、実は、あなたがたについて、クロエの家の人たちから、あなたがたの間に争いがあると聞かされました。12.それによると、あなたがたそれぞれが、「わたしはパウロ(の教え)に」「わたしはアポロ(の教え)に」「わたしはケファ(の教え)に」「わたしはキリスト(の教え)に」と言っている、ということです。13.キリストは(いくつにも)分けられたのですか。パウロはあなたがたのために十字架に架けられたのですか。それとも、あなたがたはパウロの名によってバプテスマを受けたのですか。14.わたしは、クリスポとガイオ以外に、あなたがたの内の誰にもバプテスマを授けなかったことを神に感謝しています。15.それは、わたしの名によってバプテスマを受けたのだと、誰も言うことのないためです。16.もっとも、ステファナの家の者にもバプテスマを授けましたが、それ以外のほかの誰にもバプテスマを授けた覚えはありません。17.キリストがわたしを遣わされたのは、バプテスマを授けるためではなく、知恵の言葉によらないで福音を宣べ伝えるためなのです。それは、キリストの十字架が無意味になってしまわないためでした。
18.十字架の言葉は、滅びゆく人々には愚かですが、わたしたち救われる者たちには神の力です。19.こう書かれているからです。
『わたしは、知恵ある者たちの知恵を滅ぼし、
賢い者たちの賢さをむなしくする。』
20.賢者はどこにいますか。学者はどこにいますか。この世の論者はどこにいますか。神は、この世の知恵を愚かにされたではありませんか。21.この世が(自分の)知恵によって神を知らなかったのは、実に神の知恵によったからです。神は喜んで、宣教の愚かさによって信じる者たちを救おうとされました。22.ユダヤ人たちはしるしを求め、ギリシア人たちは知恵を要求します。23.しかし、わたしたちは、十字架につけられたキリストを宣べ伝えているのです。このキリストは、ユダヤ人たちにとっては躓きになるもの、異邦人たちにとっては愚かなものです。24.しかし、ユダヤ人であれ、異邦人であれ、召された者たちにとっては、神の力、神の知恵たるキリストなのです。25.なぜなら、神の愚かさは人間よりも賢く、神の弱さは人間よりも強いからです。

26.兄弟たちよ、あなたがたの召しのことを考えてみてください。人間的に見て、知恵のある者は多くはなく、力のある者や、身分の高い者が多かったわけでもありません。27.むしろ、神は、知恵のある者たちをはずかしめるため、この世の愚かな者たちを選び、強い者たちをはずかしめるため、この世の弱い者たちを選ばれたのです。28.また、神は、有力な者たちを無力にするため、世の卑しい者たち、無きに等しい者たちを選ばれたのです。29.それは、すべて肉なる者が、神の御前に誇ることがないためです。30.あなたがたは、神から出て、キリスト・イエスにあって生きているのです。このキリストは、あなたがたにとって神からの知恵となり、義となり、聖となり、(罪からの)解放となられました。31.『誇る者は主にあって誇れ』と書かれてあるとおりです。





τῇ ἐκκλησίᾳ τοῦ θεοῦ τῇ οὔσῃ ἐν Κορίνθῳ (2)
「コリントにある神の教会へ」

この手紙は、パウロの第三回の伝道旅行の途中、エフェソからコリントの教会に書き送られた。コリントの教会は、パウロが第二回目の伝道旅行中につくったものだった。2節でパウロが述べているように、この手紙の宛先は、コリントにある教会(単数)であること、そして、手紙の読み手は、コリント教会を構成するクリスチャンたちであった。パウロがこの手紙を書く動機となったのは、パウロがエフェソ滞在中に、コリントからの予期せぬ噂が耳に入ったことだった(10~)


2015年7月7日火曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」28章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

28章


1.わたしたちが助かったとき、そこがマルタと呼ばれる島であることがわかった。2.地元の人たちは、わたしたちに並々ならぬ親切を示してくれた。すでに降り出していた雨に打たれて寒さに凍えていたとき、火をおこして、わたしたちすべての者を歓迎してくれたのである。3.パウロはひと束の枯れ枝を集めて火にくべた。すると、熱気の中から一匹の毒ヘビが出てきて、パウロの手にかみついた。4.地元の人たちは彼の手からその生き物がぶら下がっているのを見て、互いに言った。「この人はきっと人殺しに違いない。海からは助かったが、正義の女神はこの人を許してはおかないのだ。」5.そこでパウロはその生き物を火の中に払い落としたが、何の害も受けなかった。6.人々は、パウロがやがて(体が)腫れ上がるか、すぐに倒れて死んでしまうのではないかと待っていたが、いくら待っていても彼の身に何の害も及ばないのを見て、(考えを)変え、「この人は神だ」と言い出した。
7.さて、この場所の近くに、この島の首長でポプリウスという名の人が所有していた土地があった。この人は、わたしたちを歓迎してくれて、三日間、親切にもてなしてくれた。8.ところが、ポプリウスの父親が、熱病と赤痢に見舞われ床についていた。パウロはその人の家に入って行き、両手を彼の上に置いて祈り、その人を癒した。9.こんなことがあって、病気を抱えてこの島に住んでいる他の人々も(パウロのもとに)来て、癒してもらっていた。10.人々は多大な敬意をわたしたちに払い、出航の際には、わたしたちのために必要なものを荷積みしてくれた。
11.さて、三か月後、この島で冬を過ごしていたアレクサンドリアの船に乗って船出した。(船首)にディオスクロイの印があった。12.そして、シラクサへ寄港し三日間そこに留まった。13.そこから進み、レギオンに着いた。一日後、南風が吹いてきたので、わたしたちは二日でプテオリに着いた。14.わたしたちは、その所で兄弟たちを見つけ、彼らに請われて七日間そこに留まった。こうしてわたしたちはローマに到着した。15.そしてそれから、わたしたちのことについて聞いた兄弟たちが、アピイフォルムとトレス・タベルネに至るまで、わたしたちに会うために来てくれた。パウロは彼らを見て神に感謝し、勇気づけられた。
16.さて、わたしたちがローマに着くと、パウロは一人の番兵に守られて、一人で住むことが許された。
17.三日が経ち、パウロはユダヤ人のおもだった人々を招いた。そして彼らが集まって来たとき、パウロは彼らに言った。「兄弟がた、わたしは同胞に対しても、先祖たちの習慣に対しても違反することは何もしていないのに、エルサレムで囚人としてローマ人たちの手に引き渡されてしまいました。18.彼らはわたしを取り調べましたが、わたしのうちには死に当たる理由が何もないので、釈放しようとしたのです。19.しかし、ユダヤ人たちが反対したので、わたしは皇帝に敢えて上訴することにしました。わたしの同胞を非難しようというのではありません。20.さて、そのような訳で、わたしはあなたがたにお会いし、その理由をお話しするためにお招きしたのです。なぜならわたしは、イスラエルの希望のために、このような鎖につながれているのですから」。21.しかし、彼らはパウロに対して言った。「わたしたちは、あなたのことについて、ユダヤから何の書面も受け取っていないし、(ローマに)来た兄弟たちの誰ひとり、あなたの悪行について(わたしたちに)知らせたり話をしたこともありません。22.そこで、わたしたちは、あなたが考えておられることを、あなたから(直接)聞くのが一番良いように思われます。この分派については、到る所で反対意見があるのを耳にしているからです」。
23.そして日を決め、大勢の人々が宿舎にいるパウロのもとにやって来た。パウロは彼らに神の国のことを、力を込めて立証し説き聞かせた。彼は、朝から晩まで、モーセの律法や預言者たちの書からイエスについて彼らを説き伏せた。24.ある者たちはパウロの言うことに納得したが、ある者たちは信じようとはしなかった。25.互いに(意見が)合わないまま彼らが立ち去ろうとしたとき、パウロは一言、「聖霊は、預言者イザヤを通してあなたがたの先祖たちによくぞ言ったものだ」と言った。26.「こう言っておられる。
『この民のところへ行って言いなさい。
あなたがたは聞くには聞くが、決して理解せず、
見るには見るが、決して認めない。
27.この民の心は鈍くなり、
耳は聞こえづらくなり、
彼らの目は閉じてしまったからである。
彼らは決して目で見ず、耳で聞かず、
心で理解せず、立ち返らない。
わたしは彼らを癒さない。』
28.だから、このことを知っていただきたい。神のこの救いは、異邦人たちへ届けられたのです。彼らこそ聞き従うようになるでしょう」。

30.パウロは丸二年の間、自分で借りていた家に住んで、訪ねて来る人々を皆、歓迎し、31.神の国を宣べ伝え、何の妨げもなく大胆に、イエス・キリストのことついて教え続けた。



●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 28章



★パウロのローマに着いてからの二年間は、一人の番兵を付けられ、鎖につながれながらも(16、20)自分で家を借り、家賃を払って、何の妨げもなく自由に生活ができ、かつ思いのままに宣教ができたようである。(30、31)


古代ローマ遺跡群