2012年5月31日木曜日

新約聖書原典「マタイによる福音書」6章の翻訳(私訳)

マタイによる福音書

6章


1.人々に見てもらおうと、あなたがたの義を人々の前で行わないように気をつけなさい。そうでないと、天におられるあなたがたの父の御前で、報いを得ることができなくなる。
2.だから、施しをする時は、偽善者たちが人々からの賞讃を得る為、諸会堂や、人の行き交う通りでしているように、あなたの前でラッパを吹きならしてはならない。よく言っておくが、彼らは自分たちの報いを受けてしまっているのだ。3.あなたが施しをする時、あなたの右の手がしていることを、あなたの左の手に知らせてはならない。4.それは、あなたの施しが隠れるようになるためである。そうすれば、隠れた所で見ておられるあなたの父は、あなたに報いてくださるだろう。
5.また、あなたがたが祈る時、偽善者たちのようであってはならない。なぜなら、彼らは人々にわかるように、会堂や大通りの街角に立って祈ることを好む。よく言っておくが、彼らは自分たちの報いを受けてしまっているのだ。6.だから、あなたが祈る時、あなたの奥まった部屋に入り、扉を閉め、隠れた所におられるあなたの父に祈りなさい。そうすれば、隠れた所で見ておられるあなたの父は、あなたに報いてくださるだろう。
7.また祈る時、異邦人たちのようにくどくどと祈ってはならない。彼らは自分たちの言葉数が多ければ聞かれるものと思っている。8.だから彼らの真似をしてはならない。あなたがたの父は、あなたがたが願う前から、あなたがたの必要をご存知なのだから。
9.だから、あなたがたはこのように祈りなさい。
『天におられる、わたしたちの父よ。
あなたの御名があがめられますように。
10.あなたの御国が来ますように。
あなたの御心が、天でなされるとおり、
地の上でもなされますように。
11.わたしたちの必要とする食物を、
今日、わたしたちに与えてください。
12.わたしたちに負債がある人々を、わたしたちも赦しましたように、
わたしたちの負債をもお赦しください。
13.わたしたちを試みにあわせず、
悪い者からわたしたちを救ってください。』
14.もし、あなたがたが人々の過ちを赦すなら、あなたがたの天の父もあなたがたを赦してくださる。15.しかし、あなたがたが人々を赦さないなら、あなたがたの父も、あなたがたの過ちを赦してはくださらない。
16.また、あなたがたが断食する時は、偽善者たちのように暗い顔つきになってはならない。彼らは断食しているのを人々に見られようとして、自分たちの顔を陰気にする。よくあなたがたに言っておくが、彼らは自分たちの報いを受けてしまっているのだ。17.あなたが断食する時、頭に油をぬり、あなたの顔を洗いなさい。18.それは断食しているのを人々に気づかれず、隠れた所におられるあなたの父に知られるためである。そうすれば、隠れた所で見ておられるあなたの父は、あなたに報いてくださる。
19.あなたがたは、この地上に宝をたくわえてはならない。そこではしみや錆がそれらを駄目にし、また盗賊どもが押し入って盗んだりする。20.あなたがたは宝を天にたくわえなさい。そこではしみや錆がついて駄目になることもなく、また盗賊どもが押し入って盗むこともない。21.あなたの宝がある所には、あなたの心もそこにあるからだ。22.体の明かりは目である。だから、あなたの目が健康なら、あなたの全身も明るい。23.しかし、あなたの目が悪ければ、あなたの全身も暗い。だから、あなたの中にある光が暗ければ、その暗さはどれほどだろう。
24.誰も二人の主人に兼ね仕えることはできない。なぜなら一方を憎み、他方を愛するか、あるいは一方を親しみ、他方を軽んじるからである。あなたがたは神と富とに兼ね仕えることはできない。

25.だからわたしはあなたがたに言う。何を食べようか、[あるいは、何を飲もうか]と、あなたがたの命のことで、また、何を着ようかと、あなたがたの体のことで心配してはならない。命は食物にまさり、体は衣服にまさるではないか。26.空の鳥たちを見なさい。蒔くことも、刈り取ることも、倉に取り入れることもしない。それなのに、あなたがたの天の父は、それらを養っていてくださる。あなたがたはそれらよりはるかに優れた者ではないか。27.あなたがたのうち、誰が心配したところで、自分の寿命をわずかでも延ばすことができようか。28.衣服のことでなぜ心配するのか。野のユリがどのように育っているかよく観察してみなさい。労苦もせず紡ぎもしない。29.しかし、わたしはあなたがたに言う。栄華を極めたソロモンでさえ、これらの花の一つほどにも身につけてはいなかった。30.今日は生えていて、明日は炉に投げ入れられる野の草でさえ、神はこのように装ってくださるのなら、あなたがたにそれ以上に装ってくださらないことがあろうか。信仰のうすい者たちよ。31.だから何を食べようか、何を飲もうか、何を着ようかと言って心配してはならない。32.これらのことは全て、異邦人たちが求めていることで、あなたがたの天の父は、これらのものが皆あなたがたに必要なのをご存知なのだから。33.だから先ず、[神の]国と神の義とを求めなさい。そうすれば、これらのものは全てあなたがたに追加して与えられるだろう。34.だから、明日のことを心配してはならない。明日のことは明日自らが心配するからである。その日の苦労は、その日だけで充分である。


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●「自然の中で聴く聖書」マタイによる福音書 6章
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 Προσέχετε [δὲ] τὴν δικαιοσύνην ὑμῶν μὴ ποιεῖν ἔμπροσθεν τῶν ἀνθρώπων πρὸς τὸ θεαθῆναι αὐτοῖς (1)
「人々に見てもらうために、あなた方の義を人々の前で行わないように注意しなさい。」

1節のδικαιοσύνην(義) は 2節の ἐλεημοσύνην (施し)を指す言葉とほとんど同義で使われている。故に(善き行い)と訳すこともできる。
 
★ ὡς καὶ ἡμεῖς ἀφήκαμεν τοῖς ὀφειλέταις ἡμῶν (12)

「私たちの負債者たちを、わたしたちも赦しましたように…」
 
12節の言葉は重要な意味をもつ。12節全体を直訳すると、「私たちの数ある負債をお赦しください。私たちの負債者たちを、私たちも赦しましたように」 となる。 ἀφήκαμεν (私たちが赦した)とアオリスト時制(過去の一回的行為)が使われているのは、自分の負債を赦していただく、そのような祈りをする前に、先ず私たちの負債者を私たちが赦すことが条件ではなく、すでに赦していることが前提となる、ということを教えている。このことは次に続く14、15節の文脈の中で読むと一層明白になる。
 
★ οἶδεν γὰρ ὁ πατὴρ ὑμῶν ὁ οὐράνιος ὅτι χρῄζετε τούτων ἁπάντων. (32)

「あなた方の天の父は、あなた方がこれら全てを必要としていることを、ご存知なのだから

οἶδεν (オイデン・彼は知った)は完了形が使われている。この形は行為は過去に終わっているが、その結果が現在にも及んでいることを表している。故にその意味は 「あなた方の天の父はあなた方の必要をご存知だったし、今もご存知である」。




2012年5月22日火曜日

新約聖書原典「マタイによる福音書」5章の翻訳(私訳)

マタイによる福音書

5章


1.イエスは群衆を見て山に登られ、腰を下ろされると、その弟子たちがイエスのところに近寄って来た。2.そこでイエスは口を開き、彼らを教えて言われた。
3.「心の貧しい人々は幸いだ。
天の国は彼らのものだからである。
4.悲しんでいる人々は幸いだ。
彼らは慰められるからである。
5.柔和な人々は幸いだ。
彼らは地を受け継ぐからである。
6.義に飢え渇いている人々は幸いだ。
彼らは満たされるからである。
7.慈悲深い人々は幸いだ。
彼らは憐みを受けるからである。
8.心の清い人々は幸いだ。
彼らは神を見るからである。
9.平和を作り出す人々は幸いだ。
彼らは神の子と呼ばれるからである。
10.義のために迫害を受けている人々は幸いだ。
天の国は彼らのものだからである。
11.わたしのために、人々があなたがたをののしって迫害し、あなたがたに逆らい[偽って]さまざまな悪口を言う時、あなたがたは幸いだ。
12.喜べ、大いに喜べ。
天に於いてあなたがたの(受ける)報いは大きいからである。彼らは、あなたがたより前の預言者たちをも、同じように迫害したのである。
13.あなたがたは地の塩である。もし塩の効き目が無くなったら、何によって塩味をつけるのだろうか。もはや何の役にも立たず、外に投げ捨てられ、人々によって踏みつけられるだけである。
14.あなたがたは世の光である。山の上にある町は隠れることが出来ない。15.誰も明かりをともして、それを升の下に置く者はいない。むしろ燭台の上に置いて、家の中の全てのものを照らすのである。16.そのように、あなたがたの光を人々の前に輝かせなさい。人々があなたがたの良い行いを見て、天におられるあなたがたの父をほめたたえることができるように。
17.わたしが、律法や預言者たちを廃するために来たと考えてはならない。廃するために来たのではなく、むしろ成就するために来たのである。18.だから、あなたがたによく言っておくが、天と地が過ぎ去り、全てが実現するまでは、律法の一点一画も決してすたれることはない。19.だからもし、これらの最も小さな戒めの一つでも破り、また、そうするように人々に教える者は、天の国で最も小さい者と呼ばれるだろう。しかし、これを行い、またそうするように教える者は、天の国で最も大いなる者と呼ばれるだろう。
20.だからわたしはあなたがたに言う。あなたがたの義が律法学者たちや、ファリサイ派の人たちの義よりさらに優っていなければ、決してあなたがたは天の国に入ることはできない。
21.昔の人々に、『殺してはならない。殺した者は裁きを受けねばならない』と言われたのを、あなたがたは聞いた。22.しかし、わたしはあなたがたに言う。自分の兄弟に対して怒る者は、だれでも裁きを受けねばならない。自分の兄弟に対して『ばか者』と言う者は、最高法廷に引き渡されねばならない。『愚か者』と言う者は、火のゲヘナに投げ込まれねばならない。23.もしあなたが、祭壇に自分の供え物を捧げようとして、そこで、あなたの兄弟があなたに対して何か(恨みを)抱いているのを思い出したなら、24.あなたの供え物を祭壇の前のその場所に残しておき、先ず行ってあなたの兄弟と和解し、それから戻って来て、あなたの供え物を捧げなさい。25.あなたの訴訟相手と道の途中にあるうちに、早くその人と仲直りしなさい。そうでないと、その訴訟相手はあなたを裁判官に引き渡し、裁判官も下役に引き渡し、あなたは監獄に投げ込まれることになる。26.よくあなたに言っておくが、最後の一クァドランスを返済するまでは、決してあなたはそこから出られない。
27.『姦淫してはならない』と言われたのを、あなたがたは聞いた。28.しかし、わたしはあなたがたに言う。誰でも情欲を抱いて女を見る者は、すでにその心の中で彼女と姦淫を犯したのである。29.もしあなたの右の目が、あなたに罪を犯させるなら、それをえぐり出して、捨ててしまいなさい。なぜなら、あなたの肢体の一部を失っても、あなたの全身がゲヘナへ投げ込まれない方が、あなたにとって得だから。30.もしあなたの右の手が、あなたに罪を犯させるなら、それを切り取って捨ててしまいなさい。なぜなら、あなたの肢体の一部を失っても、全身がゲヘナへ行ってしまわない方が、あなたにとって得だから。
31.『自分の妻を離縁しようとする者は、妻に離縁状を渡せ』と言われている。32.しかし、わたしはあなたがたに言う。誰でも不貞以外の理由で自分の妻を離縁する者は、彼女に姦淫の罪を犯させるのである。また離縁された女と結婚する者も、姦淫の罪を犯すのである。
33.さらに、昔の人々に、『偽りの誓いをしてはならない。あなたの誓いは主に対して果たせ』と言われたのを、あなたがたは聞いた。34.しかしわたしはあなたがたに言う。一切誓ってはならない。天を指して誓ってはならない。そこは神の御座だから。35.地を指して誓ってもならない。そこは主の足台だから。エルサレムを指して誓ってもならない。そこは大いなる王の都だから。36.あなたの頭を指して誓ってもならない。あなたは髪の毛一本でさえ、白くも黒くもできないのだから。37.あなたがたの言葉はただ『然り、然り』『否、否』でありなさい。それ以上のことは悪い者から出るのである。
38.『目には目を、歯には歯を』と言われたのを、あなたがたは聞いた。39.しかし、わたしはあなたがたに言う。悪い者に立ち向かわないで、かえって、[あなたの]右のほおを打つ者には、他のほおも彼に向けてあげなさい。40.また、あなたを訴えて、あなたの下着を取ろうとする者には、上着をも彼に与えなさい。41.また、あなたに一マイル強いて行かせる者がいるなら、その人と一緒に二マイル行きなさい。42.あなたに求める者には与え、あなたから借りようとする者を断ってはならない。

43.『あなたの隣人を愛し、敵を憎め』と言われたのを、あなたがたは聞いた。44.しかし、わたしはあなたがたに言う。あなたがたの敵を愛し、あなたがたを迫害する者たちのために祈りなさい。45.それによってあなたがたが、天におられるあなたがたの父の子となるためである。なぜなら父は、悪い者たちの上にも、良い者たちの上にも太陽を昇らせ、正しい者たちの上にも、正しくない者たちの上にも雨を降らせてくださる。46.あなたがたを愛してくれる人々を愛したからとて、どんな報いがあるだろうか。徴税人たちでも、同じことをしているではないか。47.自分の兄弟たちにだけ挨拶したところで、何の優れたことをしていることになるだろうか。異邦人たちでも、同じことをしているではないか。48.それだから、あなたがたの天の父が完全であられるように、あなたがたも完全な者でありなさい」。


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●「自然の中で聴く聖書」マタイによる福音書  5章

★ Μὴ νομίσητε ὅτι ἦλθον καταλῦσαι τὸν νόμοντοὺς προφήτας (17)
「わたしが、律法や預言者たちを廃止するために来たと考えてはなりません」
★ ἰῶτα ἓν ἢ μία κεραία οὐ μὴ παρέλθῃ ἀπὸ τοῦ νόμου(18)
「律法から、一点一画も決して損なわれることはない」
★ λύσῃ μίαν τῶν ἐντολῶν τούτων τῶν ἐλαχίστων(19)
「これらの最も小さな戒めの一つでも破り」

上記の三つのテキストに現れる「律法」、「戒め」の使われ方の違いに注目する必要がある。
「律法」と訳した17と18の τὸν νόμον(トン ノモン)  は単数で律法全体(律法の全体の総称)を意味し、「戒め」と訳した τῶν ἐντολῶν(トーン エントローン) は複数で、律法の中身である個々の条文を意味すると考えられる。だから19では「これらの最も小さな戒めの一つでも」という言い回しで、読者の注意を個々の戒めに向けさせ、変更のないことを強調。この強調を更に強めで使われているのが、18の ἰῶτα ἓν ἢ μία κεραία (一点または一画)である。 ἰῶτα(イオータ) はギリシア語アルファベットの最も簡単な一語(  )であり、κεραία(ケライア)は一筆を意味する

★ ἴσθι εὐνοῶν τῷ ἀντιδίκῳ σου ταχύ, ἕως ὅτου εἶ μετʼ αὐτοῦ ἐν τῇ ὁδῷ(25)
「あなたの訴訟相手と道の途上にあるなら、途中で早くその訴訟相手と和解しなさい」

 「途中で」と訳される ἕως ὅτου (ヘオース ホトゥー)は本来の意味は、「そこへ行くまでに」である。「そこ」とは25の後半にあるように、明らかに裁判官の所である。「裁判官のところに行くまでに」早く相手と仲直りしなさい。そうしないと、ついにあなたは監獄に投げ込まれることになる。26から推測できることは、この二人の間には金銭トラブル(負債)があって、最後の一クァドランス(ローマ貨幣で1/4アサリオンの価値しかない・125円程度)を返済し終わるまでは、監獄から出てこれないのである。

★ ὁ ἀπολύων τὴν γυναῖκα αὐτοῦ παρεκτὸς λόγου πορνείας ποιεῖ αὐτὴν μοιχευθῆναι(32)
妻の)不貞以外の理由で、自分の妻を離縁する者は、彼女に姦淫の罪を犯させるのです」

  πορνείας (不貞) は女性名詞(男性はπόρνοςであることから、これは妻の不貞であることがわかる。故に夫が妻と離縁できるただ一つの理由として赦されているのは、「妻の行った不貞」だけ。それ以外の理由で妻を離縁した場合、つまり、妻が不貞をしていないにも拘わらず、夫が妻を離縁した場合、離縁された妻はどうなるのか。 ποιεῖ αὐτὴν μοιχευθῆναι (彼女に姦淫の罪を犯させる)。μοιχευθῆναι に受動態が使われており、彼女は夫から姦淫の罪を負わされることになるのである。その女と結婚する者も、姦淫の罪を犯すことになり、こうして罪の連鎖が続くのだという。

★ ἔσεσθε οὖν ὑμεῖς τέλειοι ὡς ὁ πατὴρ ὑμῶν ὁ οὐράνιος τέλειός ἐστιν (48)
「だから、あなた方の天の父が完全であられるように、あなた方も完全な者となるであろう
ἔσεσθε οὖν ὑμεῖς τέλειοι の ἔσεσθε(エセステェ)は直説法の未来形。ほとんどの訳は、『あなた方も完全な者となりなさい』というように命令形のように訳しているが、ここは『あなた方も完全な者となるであろう』または『あなた方も完全であれ』(shall be)と訳すのがより正しいように思われる。なぜなら、新約聖書ギリシア語で命令法の未来形の用例はないからである。イエスが罪深い人間に完全を課すということは考えられず、それは神の恵み、恩寵だけが人を完全なものとするからである。




2012年5月15日火曜日

新約聖書原典「マタイによる福音書」4章の翻訳(私訳)

マタイによる福音書

4章


1.それからイエスは御霊によって、荒野へ導きのぼられた。悪魔によって試みを受ける為である。2.そして、四十日と四十夜、断食をされた後、空腹を覚えられた。3.すると、試みる者が近づいて来てイエスに言った。「もしあなたが神の子なら、これらの石がパンになるように、命じてごらんなさい」。4.しかし、イエスは答えて言われた。「『人はパンだけで生きるのではなく、神の口から出て来る一つひとつの言葉で生きる』と書かれている」。5.それから悪魔はイエスを聖なる都へ連れて行き、彼を神殿の一番高い場所に立たせて、6.言った。「もしあなたが神の子なら、飛び降りてごらんなさい。
『神はあなたのためにご自分の天使たちに命じて、手であなたを支え、あなたの足を決して石に打ちつけないようにされる』
と書かれていますから」。
7.イエスは悪魔に言われた。「『あなたの神である主を試みてはならない』と、再び書かれている」。
8.再び悪魔はイエスを非常に高い山へ連れて行き、イエスにこの世界のあらゆる王国と、それらの繁栄ぶりを示して、9.イエスに言った。「もし、あなたがひれ伏してわたしを拝むなら、これらの全てをあなたに与えましょう」。10.その時、イエスは悪魔に言われた。「離れ去れ、サタンよ。『あなたは、あなたの神である主を礼拝し、主にのみ仕えよ』と書かれているから」。
11.その時、悪魔はイエスを離れ去った。すると見よ、天使たちが近寄って来てイエスに仕えた。
12.さて、ヨハネが捕らえられたと聞いて、イエスはガリラヤへ退かれた。13.そして、ナザレを去り、ゼブルンとナフタリの境にある海辺の町カファルナウムへ行って住まわれた。14.それは預言者イザヤによって言われたことが成就するためで、こう言われている。
15.『ゼブルンの地、ナフタリの地、
海沿いの道、ヨルダンの向こう側、
異邦人たちのガリラヤ。
16.暗闇の中に置かれている民は、
大いなる光を見、
死の陰の地域に置かれている人々に、
光が昇った。』
17.この時から、イエスは宣べ伝え始めて言われた。「悔い改めなさい。天の国が近づいたから」。
18.イエスはガリラヤ湖のほとりを歩いておられるとき、二人の兄弟、ペトロと呼ばれるシモンと、彼の兄弟アンデレが湖に網を打っているのをご覧になった。彼らは漁師であったからである。19.イエスは彼らに言われた。「わたしに従って来なさい。あなたがたを、人間をとる漁師にしてあげよう」。20.すると彼らはすぐに網を捨てて、イエスに従った。21.そこからまた進んで行かれると、イエスは他の二人の兄弟、ゼベダイの子ヤコブと、彼の兄弟ヨハネが、舟の中で彼らの父ゼベダイと一緒に網をつくろっているのをご覧になった。そして彼らを呼ばれると、22.二人もすぐに舟と彼らの父を残してイエスに従った。
23.イエスはガリラヤ中を回られて諸会堂で教え、御国の福音を宣べ伝え、民衆の間のあらゆる病気やあらゆる病弱をお癒しになった。

24.イエスの評判はシリア中に広まり、人々は、いろいろな悪い病気や苦しみを抱えて苦しめられている人たち、悪霊に取りつかれている人たち、てんかん、中風の人たちなどをイエスの所に連れて来たので、イエスは彼らを癒された。25.そして大勢の群衆が、ガリラヤから、またデカポリス、エルサレム、ユダヤ、ヨルダンの向こう側からも来て、イエスに従った。


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●「自然の中で聴く聖書」マタイによる福音書  4章

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★ καὶ λέγει αὐτοῖς· δεῦτε ὀπίσω μου(19)
 「そしてイエスは彼らに言われた。『わたしに従って来なさい』」
 
上記はイエスが、最初の弟子ペトロとアンデレを弟子としてお召しになった時の招きの言葉である。δεῦτε ὀπίσω μου (デウテ オピソー ムウ) の直訳は、「わたしの後に来なさい」である。イエスの弟子になるということは、イエスの後について行く者のことである。
 
★ οἱ δὲ εὐθέως ἀφέντες τὰ δίκτυα ἠκολούθησαν αὐτῷ. (20)
 「すると彼らはすぐに網を捨てて(残して)、イエスに従った」
★ οἱ δὲ εὐθέως ἀφέντες τὸ πλοῖον καὶ τὸν πατέρα αὐτῶν ἠκολούθησαν αὐτῷ. (22)
 「すると彼らはすぐに舟と、彼らの父を捨てて(残して)、イエスに従った」

20と22はイエスの招きに対する彼らの応答。どちらも全く同じ文型。マタイは εὐθέως (エウテェオース・すぐに) という言葉を使って、彼らがどのようにイエスの招きに応答したかを示そうとした。しかも ἠκολούθησαν(エーコルーテェーサン)と併用することで 「彼らはすぐに(弟子として)従った」 と記録したのである。 ἠκολούθησαν  は単に従うのではなく、「弟子として~に従う」の意味。この言葉は25節の「大勢の群衆がガリラヤから~も来て、イエスに従った」においても使われている事にも注意。



 

2012年5月10日木曜日

新約聖書原典「マタイによる福音書」3章の翻訳(私訳)

マタイによる福音書

3章


1.その頃、バプテスマのヨハネがユダヤの荒野に現れ、叫んで、2.言った。「悔い改めなさい、天の国が近づいたから」。3.これは預言者イザヤを通して言われた人であって、このように言われている。
『荒野で叫ぶ声がする。
主の道を備えよ。
その道筋をまっすぐにせよ。
4.このヨハネは、ラクダの毛衣を着、腰に皮の帯を締め、その食物はいなごと野蜜であった。5.そのとき、エルサレムと全ユダヤとヨルダンの一帯から人々がヨハネのもとに出て来て、6.自分たちの罪を告白し、ヨルダン川でヨハネからバプテスマを受けていた。
7.大勢のファリサイ派の人々や、サドカイ派の人々もヨハネのバプテスマを受けるために来たのを見て、ヨハネは彼らに言った。「まむしの子らよ、来るべき怒りから逃れられると、誰がおまえたちに教えたのか。8.だから悔い改めにふさわしい実を結べ。9.自分たちには父アブラハムがいるなどと思っても見るな。わたしはおまえたちに言う。神はこれらの石からでも、アブラハムの子らを興すことがお出来になるのだ。10.すでに斧が木々の根元に置かれている。だから良い実を結ばない木は全て切り倒されて、火に投げ込まれる。
11.わたしはおまえたちが悔い改めるようにと、水でバプテスマを授けているが、わたしの後に来られる方は、わたしより力のある方で、わたしはその方の履物を脱がせる資格もない者。その方はおまえたちに、聖霊と火でバプテスマをお授けになるだろう。12.その方は、その手にある箕をもって、ご自分の脱穀場を徹底的にきれいになさる。そして、ご自分の麦を倉に集め、もみ殻を燃え尽きる事のない火で焼かれるだろう」。

13.その頃、イエスは、ガリラヤからヨルダン川のヨハネのもとに来られた。彼からバプテスマを受ける為であった。14.しかし、ヨハネはイエスを思いとどまらせようとして言った。「わたしこそ、あなたからバプテスマを受けるべきなのに、あなたがわたしのもとに来られるのですか」。15.しかしイエスは答えて彼に言われた。「今はそうしてもらいたい。このように、全て正しいことを成し遂げるのは、わたしたちにふさわしいことなのだから」。そこで、ヨハネはイエスの言われるとおりにした。16.イエスがバプテスマを受けて水から上がられるとすぐ、見よ、天が[イエスのために]開かれ、神の御霊が鳩のように下って、ご自分の上に現れるのをご覧になられた。17.そして、見よ、天から声がして言った。「これはわたしの愛する子、わたしの心にかなう者」。


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●「自然の中で聴く聖書」マタイによる福音書 3章

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★ φωνὴ βοῶντος ἐν τῇ ἐρήμῳ·  (3)
  「荒野で叫ぶ声」
  
 βοῶντος     「叫ぶ」は分詞・男性の形を取っていて、叫ぶ人が(男性)であること、つまりヨハネであることを意味している。
 
★ ἤδη δὲ ἡ ἀξίνη πρὸς τὴν ῥίζαν τῶν δένδρων (10)
  「しかし、すでに斧が木々の根元に(置かれている)」
 
10節は緊迫した恐ろしい言葉である。「今まさに斧が…」 τῶν δένδρων (木々/複数形)は人々を意味する表象的表現。故に「すでに斧が人々の足元に置かれている」の意。

★ οὗ τὸ πτύον ἐν τῇ χειρὶ αὐτοῦ καὶ διακαθαριεῖ τὴν ἅλωνα αὐτοῦ (12)
「そのお方の手にある箕で、ご自分の脱穀場を隅々まできれいになさる」

τὸ πτύον  は、脱穀した後のもみ殻を吹き分ける道具。昔の農夫は箕を使ってこの作業をした。上記は終末論的出来事で、神が最終的にこの世界(脱穀場)をお清めになることを表象的に描いている。




 

2012年5月3日木曜日

新約聖書原典「マタイによる福音書」2章の翻訳(私訳)

マタイによる福音書

2章 


1.イエスはヘロデ王の時代に、ユダヤのベツレヘムでお生まれになった。見よ、東方からの博士たちがエルサレムに到着して、2.言った。「ユダヤ人たちの王としてお生まれになった方はどこにおられますか。わたしたちは東の方でその星を見たので、その方を拝みに来たのです」。3.しかし、ヘロデ王はこれを聞いて心が乱された。エルサレム中もみな王と同様であった。4.王は全ての祭司長たちと民の律法学者たちとを招集して、キリストはどこで生まれるかを彼らに尋ねた。5.そこで彼らは王に言った。「ユダヤのベツレヘムです。預言者を通してこのように書かれているからです。
6.『そして、ユダの地ベツレヘムよ、
あなたはユダの支配者たちの中で、
決して一番小さい者ではない。
あなたから一人の指導者が現れ、
彼はわたしの民イスラエルを牧者として導くからである』」。
7.そこで、ヘロデは秘かに博士たちを呼んで、星の現れた時刻を彼らに詳しく問いただした。8.そして彼らをベツレヘムへ遣わして言った。「行って幼子について詳しく調べて、見つかったらわたしに知らせよ。そうすれば、わたしも行って幼子を拝むから」。9.博士たちは王の言葉を聞いて旅をしていると、見よ、東方で見た星が彼らの前を進み、幼子のいる所まで来ると、その上でとどまった。10.彼らはその星を見て非常に大きな喜びにあふれた。11.そして彼らは家の中へ入り、母マリアに抱かれた幼子を見て、ひれ伏して拝した。そして、彼らの宝物の箱を開けて、黄金、乳香、没薬の贈り物を幼子に捧げた。12.そして、夢でヘロデの所へ戻ってはならないと御告げを受けたので、彼らは他の道を通って自分たちの村へ帰って行った。
13.博士たちが帰って行くと、見よ、主の使いが夢でヨセフに現れて言った。「あなたは起きて、幼子とその母を連れてエジプトへ逃げなさい。そしてわたしが言うまでそこにいなさい。ヘロデが幼子を探して殺そうとしているからです」。14.そこでヨセフは起きて、夜の内に幼子とその母を連れてエジプトへ退き、15.ヘロデが死ぬまでそこにいた。それは預言者を通して、
『わたしは、わたしの子をエジプトから呼び出した』
と、主が言われた言葉が成就するためである。
16.ヘロデは博士たちに欺かれたことを知って非常に怒り、人を遣わし、博士たちから詳しく問いただして確かめておいた時期に従って、ベツレヘムとその地方全域にいる二歳以下の全ての男の子を殺させた。17.こうして、預言者エレミヤを通して言われた言葉が成就した。こう言われている。
18.『ラマで声が聞こえた、
多くの泣き悲しむ声が。
ラケルはその子供たちのために泣くが、
慰められるのを欲しない。
子供たちがいないからだ。』
19.さて、ヘロデが死んだので、見よ、主の使いが夢でエジプトにいるヨセフに現れて、20.言った。「起きて、幼子とその母を連れて、イスラエルの地へ行きなさい。幼子の命を狙っている者たちが死んだからです」。21.そこでヨセフは起きて、幼子とその母を連れて、イスラエルの地に入って行った。

22.しかし、アルケラオがその父ヘロデに代わって、ユダヤを治めていると聞いたので、そこへ行くことを恐れ、夢で示されたのでガリラヤ地方へ退き、23.ナザレと呼ばれる町へ行って住んだ。それは、「彼はナザレ人と呼ばれるであろう」と、預言者たちを通して言われた言葉が成就されるためであった。

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  ●「自然の中で聴く聖書」マタイによる福音書  2章

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★ μάγοι ἀπὸ ἀνατολῶν
  「東方からの博士たち」 (1)
 
  古代の占星術者。彼らは星を見て将来を予測できる人達であった。だから彼らは星を見てイエスの誕生を知ったのである。
 
★ ἵνα πληρωθῇ τὸ ῥηθὲν ὑπὸ κυρίου διὰ τοῦ προφήτου
  「預言者を通して主によって言われた事が成就するためである」 
  マタイはイエスの誕生にかかわる出来事の全てが、旧約聖書に記された預言の成就として描いている。「預言者を通して、主によって言われた事が成就するためである」という、この言い回しは多少の違いはあるものの、2章だけでも4回現れる(5、15、17、23)

5月の石神井公園