2013年8月23日金曜日

新約聖書原典「ルカによる福音書」12章の翻訳(私訳)

ルカによる福音書 

12章


1.数えきれないほどの大勢の群衆が集まって来て、互いに足を踏み合うほどになったので、イエスは初めに、ご自分の弟子たちに対して話し始められた。「パン種に気をつけなさい。それはファリサイ派の人々の偽善である。
2.覆い隠されているもので、明らかにされないものはなく、隠されているもので、知られないものはない。3.だから、あなたがたが暗闇で言ったことは、すべて明るみで聞かれ、密室でささやいたことは、屋根の上で言い広められるだろう。
4.しかし、わたしは友であるあなたがたに言う。体を殺すことができても、そのあとそれ以上何もできない人々を恐れてはならない。5.わたしはあなたがたに、誰を恐れるべきかを示そう。殺した後で、ゲヘナに投げ込む権威を持つ方を恐れなさい。そうだ、わたしは言う。その方を恐れなさい。6.五羽の雀は二アサリオン(デナリオンの1/16=500円位)で売られているではないか。しかし、それらの内、一羽も神の御前に忘れられてはいない。7.それどころか、あなたがたの髪の毛さえも全て数えられている。恐れてはならない。あなたがたは、多くの雀より優れている。
8.わたしはあなたがたに言う。だれでも、人々の前でわたしを(信じると)言い表す人は、人の子も、神の天使たちの前で、その人を言い表す。9.しかし、人々の前でわたしを知らないと言う者は、神の天使たちの前で知らないと言われる。
10.人の子に対して言い逆らう者は、誰でも赦される。しかし、聖霊を冒涜する者は赦されない。
11.人々があなたがたを会堂や、支配者たち、権力者たちのところへ連れて行く時には、どう弁明しようか、何を言おうかなどと心配してはならない。12.聖霊がその時、言うべきことをあなたがたに教えてくださるのだから」。
13.ところが、群衆の中のある者がイエスに言った。「先生、わたしの兄弟に、わたしの相続分を分けてくれるように言ってください」。14.イエスはその人に言われた。「人よ、誰がわたしを、あなたがたの裁判官また分配者に任命したのか」。15.そこで彼らに言われた。「あらゆる貪欲には注意を払って警戒しなさい。いかに多くの財産があっても、その人の命は持ち物にはよらないからである」。
16.そこで、イエスは彼らに譬えを語って言われた。「ある金持ちの畑が豊作であった。17.そこで、心の内で思いめぐらして言った。『どうしようか。わたしの穀物を貯蔵しておく場所がないのだが』。18.そして言った。『こうしよう。わたしの倉を取り壊し、もっと大きい倉を建てよう。そして、穀物や財産をすべてそこにしまい込もう。19.そして、わたしの魂に言おう。魂よ、お前には長年分の多くの財産が貯えられている。休養せよ、食え、飲め、楽しめ』。20.しかし、神が彼に言われた。『愚か者よ、今夜、お前の命はお前から取り去られる。そうしたら、お前が準備した物は、誰のものになるのか』。21.自分のために蓄えて、神に対して富まない者はこれと同じである」。
22.また[ご自分の]弟子たちに言われた。「だから、わたしはあなたがたに言う。何を食べようかと命のことで思い煩い、何を着ようかと体のことで思い煩ってはならない。23.命は食物にまさり、体は衣服にまさる。24.カラスたちをよく見なさい。まくことも刈り入れることもしない。彼らには納屋も倉もない。しかし、神は彼らを養っていてくださる。あなたがたは鳥たちよりどれほど優れていることか。25.あなたがたのうち誰が心配したところで、自分の寿命を僅かでも延ばすことができようか。26.だから、そんなごく小さなこともできないのに、どうしてほかの事まで心配するのか。27.野のゆりがどのように育っているか、よく観察しなさい。労することもなく紡ぐこともしない。しかし、あなたがたに言うが、栄華を極めたソロモンでさえ、この様には着飾っていなかった。28.今日は生えていて、明日は炉に投げ入れられる野の草でさえ、神はこのように装って下さるのなら、わたしたちにはなおさらのことである。ああ、信仰の薄い者たちよ。29.あなたがたも、何を食べようか、何を飲もうかと追い求めるな。また、あくせくするな。30.これらのことはみな、世の異邦人たちが追い求めていることである。あなたがたの父は、これらのものがあなたがたに必要なのを、ご存知なのだ。31.ただ、神の国を求めなさい。そうすれば、これらのものは加えてあなたがたに与えられるだろう。32.小さな群よ、恐れるな。あなたがたの父は喜んで御国をあなたがたにくださるからである。
33.あなたがたの持ち物を売って、施し与えなさい。自分のために古びてしまわない財布を作り、尽きることのない宝を天に積みなさい。そこには盗人が近づかず、虫も害すことはない。34.あなたがたの宝がある所には、あなたがたの心もあるからである。
35.あなたがたの腰に帯を締め、ともし火を灯していなさい。36.あなたがたは、自分の主人が婚宴から帰って来る時、来て戸をたたいたならすぐに開けようと待っている人々のようなものである。37.主人が帰って来た時、目を覚ましているのを見られる、このような僕たちは幸いである。良く言っておくが、主人は帯を締め、彼らを食事の席に着かせ、彼らの傍らに来て給仕をしてくれるだろう。38.主人が夜中に戻って来ようと、夜明け前に戻って来ようと、このように見られる僕たちは幸いである。39.しかし、この事を知っていなさい。家の主人は、盗人がどの時間に来るか知っていれば、自分の家に押し入るのを許さない。40.あなたがたも、用意をしていなさい。思いもよらない時に、人の子が来るからである」。
41.ペトロが言った。「主よ、この譬えは、わたしたちに対して話しておられるのですか、それとも、みんなに対してですか」。42.主は言われた。「主人がその召使いたちの上に任命し、時に応じて(僕仲間に)食糧を割り当てる、忠実で思慮深い家令はいったい誰か。43.彼の主人が帰って来て、この様に行っているのを見られるこの僕は幸いである。44.まことにあなたがたに言うが、主人は全財産を管理させるために彼を任命するだろう。45.しかし、もし、この僕が自分の心の中で『わたしの主人は帰りが遅い』と言って、息子や娘たちをたたいて、食べたり飲んだり酔ったりし始めるなら、46.この僕の主人は、思いがけない日、気がつかない時にやって来て僕を厳罰に処し、不忠実な者たちと一緒に同じ目にあわせるだろう。
47.この僕は、主人の思いを知りながら用意もせず、主人の意志に従って行わなかったので、ひどく鞭打たれるだろう。48.しかし、知らずに鞭打たれるようなことを行った者は、打たれ方も少ないだろう。すべて多く与えられた者は多く求められ、多く任された者は、いっそう多くのものを要求されるだろう。
49.わたしは地の上に火を投じるために来た。火が既に燃えていたらと、どんなに願っていることか。50.しかし、わたしには受けるべきバプテスマがある。それが成し遂げられるまで、わたしはどんなに苦しめられることか。51.あなたがたは、わたしが地の上に平和をもたらす為に来たと思うか。そうではなく、あなたがたに言うが、むしろ分裂をもたらす為である。52.今から後、一つの家に五人がいれば、三人は二人と、二人は三人と分裂するだろう。53.父は子と、子は父と、母は娘と、娘は母と、姑はその嫁と、嫁は姑と分裂するだろう」。
54.そして、群衆に対しても言われた。「あなたがたは、西に雲が起こるのを見ると、すぐに『にわか雨が来る』と言う。するとそのようになる。55.また、南風が吹くと『熱くなる』と言う。すると、そのようになる。56.偽善者たちよ、地と空の様子を見分けることを知りながら、どうして、この時代を見分けることを知らないのか。

57.なぜ、あなたがたは、自分で正しいことを判断しないのか。58.あなたを訴える者と共に役人のところへ行く時は、途中でその人から解放されるよう努力しなさい。そうでないと、その人はあなたを裁判官のところへ引っ張って連れて行き、裁判官はあなたを獄吏に引き渡し、獄吏はあなたを牢に投げ込む。59.あなたに言っておく。最後のレプトン一枚を支払うまでは、決してあなたはそこから出られない」。






Ἔστωσαν ὑμῶν αἱ ὀσφύες περιεζωσμέναι καὶ οἱ λύχνοι καιόμενοι
「あなたがたの腰に帯を締め、ともし火を灯していなさい」(35)

上記をより正確に訳せば、「あなたがたの腰に帯を締め、ともし火を灯し続けなさい」 となる。これは、καιόμενοι (灯す)が現在形、分詞が使われ、Ἔστωσαν (いなさい)が現在形、命令法が使われていることによる。新約聖書ギリシア語において、現在形は現在における動作の進行、継続、反復を意味している。




2013年8月12日月曜日

新約聖書原典「ルカによる福音書」11章の翻訳(私訳)

ルカによる福音書 

11章


1.イエスがある所にいて祈っておられた。イエスが祈り終えると、弟子たちのある者がイエスに言った。「主よ、ヨハネが自分の弟子たちに教えた様に、わたしたちに祈ることを教えてください」。2.そこで、イエスは彼らに言われた。「祈る時にはこう言いなさい。
『父よ、あなたの御名があがめられますように。
あなたの御国が来ますように。
3.わたしたちに必要な食物を、
日々お与えください。
4.わたしたちに負債のある人たちをすべて赦しますから、
わたしたちの罪をもお赦しください。
わたしたちを試みにあわせないでください』」。
5.また、彼らに言われた。「あなたがたの中の誰かに友がいて、真夜中に彼がその人の所にやって来てこう言ったとする。『友よ、パンを三つ貸してください。6.わたしの友人が、たった今、旅からわたしのところに着いたのですが、何も出すものがないのです』。7.すると、その人は内側から、こう返事をするとする。『迷惑をかけないでくれ。すでに戸は閉まっているし、子供達もわたしと一緒に床にいる。起きて差し上げる訳にはいかない』。8.あなたがたに言うが、友だからと言うのでは起きて彼に与えないが、しつこく頼むので、起き上がって必要なだけ与えるだろう。9.わたしもあなたがたに言う。求めなさい。そうすれば与えられるだろう。探しなさい。そうすれば見つかるだろう。門をたたきなさい。そうすれば開けてもらえるだろう。10.誰でも、求める者はそれを得、探す者は見出し、門をたたく者には、開けてもらえるからである。11.あなたがたの中の誰かに、子供が魚を求めるのに、魚の代わりに蛇を与える父親がいるだろうか。12.卵を求めるのに、サソリを与える父親がいるだろうか。13.だから、あなたがたは悪い者であっても、自分の子供たちには、良い贈り物を与えることを知っているとすれば、天の父はなおさら、ご自分を求める者たちに聖霊をくださるのである」。
14.イエスは悪霊[すなわち口の利けなくなる霊]を追い出しておられた。悪霊が出て行くと、口の利けない人が話し始めたので、人々は驚いた。15.そこで、彼らの中のある者たちは、「彼は悪霊どもの頭ベルゼブルによって、悪霊どもを追い出しているのだ」と言い、16.別の者たちは、天からのしるしを求めて、イエスを試そうとしていた。17.イエスは彼らの考えを見抜いて言われた。「どんな国でも、内部で分裂すれば荒廃する。また、どんな家でも、家の中でもめれば家庭崩壊する。18.そこで、サタンも自分で分裂すれば、どうしてその国は立ち行くだろうか。あなたがたは、わたしがベルゼブルによって悪霊どもを追い出していると言っているのだから。19.もし、わたしがベルゼブルによって悪霊どもを追い出しているのなら、あなたがたの子らは何によって追い出しているのか。だから、彼ら自身があなたがたの裁き手となるだろう。20.もし、[このわたしが]、神の指で悪霊どもを追い出しているのなら、それゆえに、神の国はあなたがたの上にすでに来たのである。21.充分に武装した強い人が、自分の屋敷を守っている時は、その財産は安全である。22.しかし、自分より強い人が押し入って、その人を打ち負かすなら、彼はその人が頼りにしていた武具を取り上げ、略奪品を分配する。23.わたしに味方しない者は、わたしに逆らう者であり、わたしと共に集めない者は、散らしているのである。
24.汚れた霊が人から出て行くと、休み場を求めて水のない所を行きめぐるが見つからない。[そこで]彼は言う。『出て来た自分の家に戻ろう』と。25.そして戻って見ると、掃除がしてあり、飾りつけがされていた。26.そこで出掛けて行き、自分より悪い別の七つの霊どもを連れて来て、そこに入り込んで住みつく。そうすれば、その人の後の状態は、初めよりさらに悪くなる」。
27.イエスがこれらの事を話しておられると、ある婦人が、群衆の中から声を上げてイエスに言った。「あなたを身ごもった胎と、あなたが吸った乳房とは、なんと幸いなことでしょう」。28.イエスは言われた。「むしろ、幸いなのは、神の言葉を聞いて守る人々である」。
29.群衆がさらに集まってきたので、イエスは話し始められた。「この時代は悪い時代で、しるしを求める。しかしヨナのしるし以外には、この時代にしるしは与えられない。30.ヨナが、ニネベの人々にしるしとなったように、人の子もこの時代にはしるしとなる。31.南の女王が裁きの時に、この時代の人々と共に立ち上がり、彼らを罪に定めるだろう。なぜなら、彼女はソロモンの知恵を聞くために地の果てから来たからである。しかし、見よ、ソロモンにまさる者がここにいる。32.ニネベの人々が裁きの時に、この時代の人々と共に立ち上がり、この時代を罪に定めるだろう。なぜなら、彼らはヨナの宣教によって悔い改めたからである。しかし、見よ、ヨナにまさる者がここにいる。
33.誰も、ともし火をともして、隠れた場所[や枡の下]に置く人はいない。むしろ、(部屋に)入ってくる人たちに光が見えるように、燭台の上に置くのである。
34.体のあかりは、あなたの目である。あなたの目が健やかなら、あなたのからだ全体も明るい。しかし、悪ければ、あなたの体も暗い。35.だから、あなたの中にある光が暗くならないように気をつけなさい。36.だからもし、あなたのからだ全体が明るく、何も暗い部分がなければ、ともし火が明るくあなたを照らす時のように、全身が明るいだろう」。
37.イエスが話しておられると、ファリサイ派の人が、イエスと一緒に食事をしたいと願ったので、(家に)入って食事の席に着かれた。38.ところが、このファリサイ派の人は、イエスが食事の前に、最初に(手を)洗わないのを見て不思議に思った。39.そこで、主は彼に言われた。「実にあなたがたファリサイ派の人々は、杯や皿の外側は清めるが、あなたがたの内側は強欲と邪悪で満ちている。40.愚かな者たちよ、外側を造られた方は、内側をも造られたではないか。41.ただ内側にあるものを施し与えなさい。そうすれば見よ、全てがあなたがたには清いものとなる。
42.しかし、ああ、悲しいかな、あなたがたファリサイ派の人たちは。あなたがたは、はっか、うん香、またすべての野菜などの十分の一を納めておきながら、神の公平と愛をなおざりにしているからだ。それもしなければならないが、これもなおざりにはできない。
43.ああ、悲しいかな、あなたがたファリサイ派の人たちは。あなたがたは、会堂では上席を好み、広場では挨拶されることを好むからだ。
44.ああ、悲しいかな、あなたがたは見分けがつかない墓のようなものだ。人々がその上を歩いても気づかないからだ」。
45.すると、ある律法の専門家が答えてイエスに言った。「先生、あなたはそう言って、わたしどもを侮辱しておられるのです」。
46.イエスは言われた。「ああ、悲しいかな、あなたがた律法の専門家たちは。あなたがたは人々に負い切れない重荷を負わせて、自分では指一本もその重荷に触れようとしないからだ。
47.ああ、悲しいかな、あなたがたは預言者たちの墓を建てているからだ。しかし、あなたがたの先祖たちが彼らを殺したのだ。48.それゆえに、あなたがたは証人となって、あなたがたの先祖たちの行ったことに同意しきっているのだ。なぜなら、先祖たちが彼らを殺したのに、あなたがたが(彼らの墓を)建てているからだ。49だから、神の知恵もこう言っている。『わたしは彼らに預言者たちと使徒たちとを遣わす。しかし、人々は彼らのある者を殺し、ある者を迫害するだろう』。50.そのために,世界の初めから流されたすべての預言者たちの血の代償を、この時代は求められるだろう。51それはアベルの血から、祭壇と(神の)家の間で殺されたザカリアの血に至るまでである。そうだ、あなたがたに言っておくが、この時代は代償を求められるだろう。
52ああ、悲しいかな、あなたがた律法の専門家たちは。あなたがたは、知恵の鍵を取り上げて、自分たちが入らなかったばかりか、入ろうとする人たちをも阻止したからだ」。
53イエスがそこから出て行こうとすると、律法学者たちとファリサイ派の人々は激しく詰め寄り、さらに多くの質問をあびせかけた。54彼らは、イエスの口から出る言葉尻を捕らえようと、陰謀をめぐらしていたのである。






τὸν ἄρτον ἡμῶν τὸν ἐπιούσιον δίδου ἡμῖν τὸ καθʼ ἡμέραν (3)
「私たちに必要な食物を、日々お与えください」(3)

上記の一文をマタイのそれと比べてみると興味深い。マタイ(6:11)では「今日お与えください」となっているのに対し、ルカでは(καθʼ ἡμέραν・カタ ヘーメラン)「日々(毎日)お与えください」である。マタイの食物受給の緊急性(今日)に対し、ルカの方は、日々(毎日)の変わらぬ受給を願っているのである。

εἰ δὲ ἐγὼ ἐν Βεελζεβοὺλ ἐκβάλλω τὰ δαιμόνια, οἱ υἱοὶ ὑμῶν ἐν τίνι ἐκβάλλουσιν; (19)
「もしも、わたしがベルゼベルによって悪霊どもを追い出しているのなら、あなたがたの子らは、何によって追い出しているのか」(19)

あなたがたの子ら」(οἱ υἱοὶ ὑμῶν)は文脈からして、「同僚又は仲間たち」を意味する。






2013年8月7日水曜日

新約聖書原典「ルカによる福音書」10章の翻訳(私訳)

ルカによる福音書 

10章


1.さてその後、主は別の七十[二]人を任命し、ご自分が行こうとされていた全ての町や場所へ、ご自分より先に彼らを二人ずつお遣わしになった。2.そして彼らに言われた。「収穫するものは多いが、働き人たちが少ない。だから、主の収穫のために働き人たちを送り出してもらうよう、収穫の主に願いなさい。3.行きなさい。見よ、わたしはあなたがたを遣わす。ちょうど小羊たちを狼どもの中へ遣わすように。4.財布も旅の袋も履物も持って行くな。途中で誰にも挨拶するな。5.誰かの家に入ったなら、先ずその家に『平安があるように』と言いなさい。6.そして、もしそこに『平安の子』がいれば、あなたがたの平安はその人の上にとどまるだろう。しかし、もしいなければ(その平安は)あなたがたの上に戻ってくるだろう。7.その家に滞在して、彼らが出してくれるものを飲み食いしなさい。働き人がその報酬を得るのは当然である。家から家へと渡り歩くな。8.もしどこかの町へ入り、人々があなたがたを歓迎してくれるときは、あなたがたに出されるものを食べなさい。9.そして、その家にいる病気の人たちを治してあげなさい。そして彼らに、『神の国はあなたがたの上に近づいている』と言いなさい。10.しかしもし、どこかの町へ入っても、人々があなたがたを歓迎しないときは、町の大通りに出て言いなさい。11.『わたしたちの足にへばりついたあなたがたの町から出たほこりを、あなたがたに払い落す。それでもなお、神の国が近づいていることを知れ』。12.わたしはあなたがたに言うが、その日には、その町よりもソドムの方がまだ容易に耐える。
13.悲しいかな、コラジンよ。悲しいかな、ベトサイダよ。もし、お前たちの間で行われた力ある業が、ティルスとシドンで行われたなら、とうの昔に彼らは粗布をまとい、灰をかぶって座して悔い改めたことだろう。14.裁きの日には、お前たちよりむしろティルスとシドンの方がまだ容易に耐える。15.カファルナウムよ、お前は天にまで上げられるとでも思うのか。ハデスに下るだろう。
16.あなたがたの言うことを聞く者は、わたしの言うことを聞くのである。あなたがたを拒む者は、わたしを拒むのである。そして、わたしを拒む者は、わたしをお遣わしになった方を拒むのである」。
17.七十[二]人は喜びに満たされて戻って来て、「主よ、あなたの名によって、悪霊どももわたしたちに服従しました」と言った。18.そこでイエスは彼らに言われた。「わたしはサタンが稲妻のように天から落ちるのを見た。19.見よ、わたしはあなたがたに蛇やサソリを踏みつけ、敵のあらゆる力に対抗する権能を授けた。だから、誰も決してあなたがたを害さない。20.ただ、霊どもがあなたがたに服従するからと言って、そのことで喜んではいけない。むしろ、あなたがたの名が天において記録されたことを喜びなさい」。
21.その時、イエスは聖霊によって大喜びして言われた。「父よ、天と地の主よ、あなたをほめたたえます。これらのことを知者や賢者たちから隠し、これらのおさな子たちに現わしてくださったからです。そうです、父よ、これは、あなたの御前に御心にかなったことでした。22.すべてのことは、わたしの父からわたしに委ねられています。子が誰であるか、父のほかに知る者はなく、父が誰であるか、子と子が示そうと望む者のほかに知る者はいません」。
23.イエスは弟子たちの方を振り向き、秘かに言われた。「あなたがたが見ている事を見る目は幸いだ。24.だからあなたがたに言うが、多くの預言者たちや王たちも、あなたがたが見ている事を見ようと願ったが、見ることができなかった。あなたがたが聞いている事を聞こうと願ったが、聞くことができなかった」。
25.すると見よ、ある律法の専門家が立ち上がって、イエスを試みようとして言った。「先生、永遠の命を受け継ぐには、何をすれば良いのですか」。26.そこでイエスは彼に言われた。「律法には何と書かれているか。あなたはどう読むか」。27.彼は答えて言った。『心の限り、精神の限り、力の限り、思いの限りを尽くして、あなたの神であられる主を愛しなさい。また、自分を愛するように、あなたの隣人を愛しなさい』。28.イエスは彼に言われた。「あなたは正しく答えた。そのように行いなさい。そうすれば命が得られる」。29.しかし、彼は自分を正しく見せようとしてイエスに言った。「わたしの隣人とは誰のことですか」。
30.イエスは(その言葉を)取り上げて言われた。「ある人がエルサレムからエリコに向かって下っていたが、強盗どもに襲われた。強盗どもは彼のものをはぎ取り、けがを負わせ、半殺しにしたまま立ち去った。31.ところがちょうどその時、ある祭司がその道を下ってきたが、彼を見ると向こう側を通って行ってしまった。32.同じように、レビ人も[現われて]この場所にやって来たが、彼を見ると向こう側を通って行ってしまった。33.しかし、あるサマリア人が旅をして彼のそばにやって来ると、彼を見てかわいそうに思い、34.そばに来て、その傷口にオリーブ油とぶどう酒を注いで包帯をし、彼を自分の家畜に乗せて宿屋まで運んで介抱した。35.次の日、二デナリオンを取り出し、宿屋の主人に渡して言った。『この人の面倒を見てあげてください。費用が余計にかかるようでしたら、わたしが帰りに払いますから』。36.この三人の内、誰が強盗どもに襲われた人の隣人になったと思うか」。37.彼は言った。「その人に憐れみをかけた人です」。そこでイエスは彼に言われた。「あなたも行って、同じようにしなさい」。

38.さて、一行が旅を続けている時、イエスはある村へ入って行かれた。するとマルタという名の婦人が、イエスを自分の家に迎え入れた。39.彼女にはマリアという妹がいた。彼女は主の足もとに座ってその言葉を聞いていた。40.しかし、マルタはいろいろと給仕のことで取り乱していた。そこで彼女はそこに来て言った。「主よ、私の妹が私だけに給仕をさせておいて、なんともお思いになりませんか。だから彼女に手伝う様に言ってください」。41.しかし主は答えて彼女に言われた。「マルタよ、マルタよ、あなたは多くの事に心配をし、心を取り乱している。42.しかし、必要なものは一つだけである。マリアはその良い方を選んだのだ。だれも彼女からそれを取り上げてはならない」。






δεήθητε οὖν τοῦ κυρίου τοῦ θερισμοῦ ὅπως ἐργάτας ἐκβάλῃ εἰς τὸν θερισμὸν αὐτοῦ (2)
「だから、収穫のために働き人たちを送り出してもらうよう、収穫の主に願いなさい」(2)

上記は七十[二]人弟子派遣において、イエスが彼らを派遣するに当たり言われた命令である。この命令は、収穫物が多いのに比べて、働き人たちが少ないという背景の中で出された命令である。七十[二]人という数が、イエスが思い描いた「異邦人宣教」の規模からして、余りにも少ないことは容易に想像できるが、ここで言う「収穫の為の働き人たち」とは、何を意味するのであろうか。その原意は何か。文字通りの労働者なのか、あるいは別の表象的な何かなのか。それを解くカギは、ἐκβάλῃ(エクバレー・送り出す)の原語にあるように思われる。ἐκ は「~から、または外へ」の意味で、βάλῃ は「投げる」を意味する。つまり  ἐκβάλῃ は「~から投げる、外へ投げる」である。つまり、「働き人たち」は、天から、または神から遣わされて送られてくる「聖霊」、またはἐργάτας 「働き人たち」と複数男性になっていることから、「天使たち」を意味するとも考えられる。ちなみに「天使」は ἄγγελοςで男性名詞。

★「容易に耐える」(12)  ανεκτότερον(アネクトテロン)は「程度の軽い罰で済む」を意味する。