2012年9月24日月曜日

新約聖書原典「マタイによる福音書」14章の翻訳(私訳)

マタイによる福音書 

14章


1.その頃、領主ヘロデはイエスの噂を聞き、2.自分の僕たちに言った。「これはバプテスマのヨハネだ。死人たちの中から生き返ったのだ。だから、不思議な力が彼の内に働いているのだ」。
3.ヘロデは、彼の兄弟フィリポの妻ヘロディアのことでヨハネを捕えて縛り、牢につないだ。4.それは、ヨハネがヘロデに、「彼女を自分の妻とするのは(律法で)許されていない」と言ったからである。5.ヘロデはヨハネを殺そうと思っていたが、民衆を恐れていた。民衆はヨハネを預言者だと思っていたからである。
6.さて、ヘロデの誕生祝いが行われて、ヘロディアの娘が真ん中で踊りを踊って、ヘロデを喜ばせた。7.そこでヘロデは彼女に、「欲しい物は何でもあげよう」と誓って約束した。8.しかし、娘はその母親にそそのかされて、「バプテスマのヨハネの首を盆にのせて、ここに頂きたいのです」と言った。9.王は誓ったことを非常に悩んだが、列席者の手前もあり、それを与えるように命じた。10.そして、首を切る者を獄中のヨハネに送り、11.彼の首を盆にのせて持って来させ、少女に与えた。少女はそれを母に持って行った。12.それからヨハネの弟子たちがやって来て遺体を引き取り埋葬して、イエスのところに行って報告した。
13.そこで、イエスはそれを聞いてその場所から舟に乗って、ひとり寂しい所に退かれた。群衆はそのことを聞き、町々から徒歩でイエスについて行った。14.そこでイエスは出て来られ、数多くの群衆をご覧になり、彼らに深い同情を寄せられ、彼らの中の病んでいる人々をいやされた。
15.さて、夕方となり、弟子たちがイエスのもとに近寄って来て、「ここは人里離れた所で、既に時間もだいぶ過ぎました。群衆を解散させ、自分たちのために食物を買いに村々へ行かせてください」と言った。16.しかし、[イエスは]弟子たちに言われた。「彼らが買いに行く必要はない。あなたがたが彼らに食べ物を与えなさい」。17.弟子たちはイエスに言った。「ここには五つのパンと二匹の魚以外には何もありません」。18.イエスは言われた。「それらをここに持って来なさい」。19.それからイエスは群衆を草むらの上に座るよう指図し、五つのパンと二匹の魚をとり、天を見上げて祝福の祈りをささげ、パンを裂いて弟子たちに渡し、弟子たちは群衆に配った。20.皆は食べて満腹した。彼らが、裂いたかけらの余りを寄せ集めたところ、十二のかごが一杯になった。21.食べた男の人は女たちと子供たちを除き、およそ五千人ほどであった。
22.それからイエスはすぐに、強いて弟子たちを舟に乗せ、群衆を解散させている間に、ご自分より先に(湖の)向こう岸へおやりになった。23.群衆を解散させてから、イエスは祈る為に一人で山に登られた。夕方になっても一人そこにおられた。24.舟は既に陸から何スタディオン1スタディオン=185m》も離れていて、波に悩まされていた。逆風が吹いていたからである。25.夜明け前、イエスは湖の上を歩いて弟子たちの所に来られた。26.しかし、弟子たちは湖の上を歩かれるイエスを見て心を乱し、「幽霊だ」と言って恐ろしさの余り、叫び声を上げた。27.しかしすぐに[イエスは]弟子たちに語りかけて、「勇気を出しなさい。わたしだ、怖がることはない」と言われた。28.そこで、ペトロがイエスに答えて言った。「主よ、もしあなたならわたしに命じて、水の上を歩いてあなたのもとへ行かせてください」。29.そこで、イエスが「来なさい」と言われたので、ペトロは舟から降り、水の上を歩いてイエスのもとへ行った。30.しかし、[強い]風を見て怖くなり沈みかけたので、「主よ、助けてください」と言って叫んだ。31.イエスはすぐにご自分の手を伸ばしてつかみ、ペトロに言われた。「信仰のうすい者よ、なぜ疑ったのか」。32.二人が舟に乗り込むと、風はやんだ。33.舟にいた弟子たちは、「本当にあなたは神の子です」と言ってイエスにひれ伏して拝した。

34.さて一行は(湖を)渡ってゲネサレトという地に行った。35.すると、その地の男たちがイエスだと気づいて、そこの付近一帯にふれ回ったので、人々は病気の人たちを皆イエスのもとに連れて来た。36.そして、人々はイエスに、せめてイエスの衣のふさにでも触れさせてほしいと願い、そして触れた者はみな救われた。

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●「自然の中で聴く聖書」マタイによる福音書  14章
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μόνον ἅψωνται τοῦ κρασπέδου τοῦ ἱματίου αὐτοῦ
「ただイエスの衣の裾にさわるだけで…」36


イエスのもとに集まって来た人々の信仰は μόνον ἅψωνται (ただ触れるだけで)に現わされている。この一途な信仰が彼らを癒したのである。




2012年9月18日火曜日

新約聖書原典「マタイによる福音書」13章の翻訳(私訳)


マタイによる福音書 

13章


1.その日、イエスは家を出て湖のほとりに座っておられた。2.すると、大勢の群衆がイエスのもとに集まって来たので、イエスは舟に乗り込んで座られ、群衆はみな岸辺に立っていた。
3.イエスは彼らに多くの事がらを譬えで語って言われた。「見よ、種をまく人が種まきに出掛けた。4.彼がまいていると、ある種は道端に落ちた。すると鳥たちが来て、それらを食べつくした。5.また別の種は土の少ない石地に落ちた。すぐに芽を出したが、土が深くないので、6.太陽が昇ると焼けて、根がない為に枯れた。7.他の種は茨の地に落ちた。すると茨が伸びてこれらを窒息させた。8.他の種は良い地に落ちて実を結び、あるものは百倍、あるものは六十倍、あるものは三十倍になった。9.耳のある者は聞きなさい」。
10.すると弟子たちが近寄って来てイエスに言った。「どうして譬えで彼らに話されるのですか」。11.そこでイエスは答えて弟子たちに言われた。「あなたがたには天の国の奥義を悟ることが許されているが、この人々には許されていないからである。12.持っている人はだれでも与えられて、ますます豊かになるが、持っていない人はだれでも持っているものまでも彼から取り上げられるだろう。13.わたしが譬えによって彼らに語るのは、彼らが見ても見ず、聞いても聞かず、悟らないからである。14.イザヤが言った預言が彼らに成就するのである。
『彼らは聞くには聞くが、決して理解せず、
見るには見るが、決して悟らない。
15.この民の心は鈍く、
耳も聞くに遠く、彼らの目は閉じてしまった。
目で見ることも、耳で聞くことも、心で悟ることも、立ち返ることも決してしない。
わたしは彼らを癒さない。』
16.しかし、あなたがたの目は幸いだ。なぜなら、あなたがたは見ており、あなたがたの耳も聞いているからである。17.あなたがたによく言っておくが、多くの預言者や義人たちは、あなたがたが見ている事を見ようと望んだが、見ることができなかった。また、あなたがたが聞いている事を聞こうと望んだが、聞くことができなかった。
18.だから、あなたがたは種をまく人の譬えを聞きなさい。19.誰でも御国の言葉を聞いても悟らないなら、悪い者が来て、その人の心にまかれたものを奪い取る。道端にまかれたものとは、こういう人のことである。20.また、石地にまかれたものとは、御言葉を聞くとすぐに喜んでそれを受け入れる人のことである。21.しかし自分の内に根がないので、それは一時的であって、御言葉の為に困難や迫害がやってくると、すぐにつまずいてしまう。22.また、茨の中にまかれたものとは、御言葉を聞くが、この世の心配ごとや富の享楽が御言葉を窒息させ、実を結ばない人のことである。23.また、良い地にまかれたものとは、御言葉を聞いて悟る人のことである。こういう人こそ実を結び、あるものは百倍、あるものは六十倍、あるものは三十倍にもなる」。
24.イエスは、ほかの譬えを彼らに示して言われた。天の御国は良い種を自分の畑にまく人に似ている。25.人々が寝ていると彼らの敵がやって来て、麦の間に毒麦をまいて立ち去った。26.さて、芽が出て実がなると、毒麦も現れた。27.そこで、この家の主人に仕える僕たちが来て言った。「ご主人様、あなたはご自分の畑に良い種をおまきになられたではありませんか。なのに、どうして毒麦が生えたのでしょう」。28.主人は僕たちに言った。「それは敵がやったのだ」。そこで僕たちが主人に言った。「では行って、毒麦を抜き集めましょうか」。29.しかし主人は言った。「それはいけない。毒麦を抜き集めようとして、ひょっとすると麦までも一緒に抜くかもしれない。30.収穫まで両方とも育つままにさせなさい。収穫の時、刈る者たちに『最初に毒麦を抜き集めて、それらを焼却するため束にして縛り、麦はわたしの倉に集めなさい』と言うことにしよう」。
31.イエスは、ほかの譬えを彼らに示して言われた。「天の御国はからし種の粒に似ている。人がそれを取って自分の畑にまくと、32.それはあらゆる種の中で一番小さいが、成長すると野菜の中で最も大きくなって木となる。そうなると空の鳥たちが来て、それらの枝に巣を作るようになる」。
33.またほかの譬えを彼らに話された。「天の御国はパン種に似ている。女がそれを取って三サトン《約38リットル》の麦粉に混ぜると、やがて全体をふくらませる」。34.イエスはこれらのことを全て譬えで群衆に話された。譬えによらないでは、何も彼らにお話しにならなかった。35.これは、預言者を通して言われたことが成就されるためで、こう言われている。
『わたしは、わたしの口を開き、譬えによって、
[世界の]始めから隠されていたことを述べるであろう。』
36.イエスは群衆を解散させてから家に入られると、弟子たちがイエスに近寄って来て、「わたしたちに畑の毒麦の譬えを説明してください」と言った。37.そこでイエスは答えて言われた。「良い種をまく人とは、人の子のことである。38.畑とは世界である。良い種とは御国の子たちで、毒麦とは悪い者の子たちである。39.また、これら(毒麦)をまいた敵とは悪魔である。また、収穫とはこの世の終りのことで、刈る者たちとは天使たちである。40.だから、毒麦は集められて火で焼き尽くされる。世の終りに於いても、ちょうどそれと同じである。41.人の子は彼の天使たちを遣わし、彼の御国から全てのつまずきとなるもの、不法を行う者たちを集め、42.『彼らを火の燃える炉に投げ込ませる』。そこで泣き叫んだり、歯ぎしりしたりするだろう。43.その時、正しい者たちは、彼らの父の御国で太陽のように輝くだろう。耳のある者は聞きなさい。
44.天の御国は、畑に隠された宝物に似ている。人がそれを見つけると隠しておき、その喜びのあまり行って持ち物をみな売り払い、その畑を買うのである。
45.また、天の御国は、良い真珠を探している商人に似ている。46.高価な真珠一個を見つけると、彼は行って持ち物をみな売り払い、それを買うのである。
47.また、天の御国は、海に投げて、あらゆる種類の魚を集める引き網に似ている。48.網がいっぱいになると、人々はそれを岸に引き揚げ、腰をおろし、良い魚は器に集め、役に立たない魚は外に捨てる。49.世の終りもこれと同じである。天使たちが出て来て、正しい人たちの中から悪い者たちをより分け、50.『彼らを火の燃える炉に投げ込むだろう』。そこで泣き叫んだり、歯ぎしりしたりするだろう。
51.あなたがたは、これらのことが全てわかったか」。彼らはイエスに、「わかりました」と言った。52.イエスは彼らに言われた。「だから、天の御国の弟子とされた学徒はみな、自分の倉から新しいものと古いものを取り出す家の主人に似ている」。
53.イエスはこれらの譬えを話し終え、そこから立ち去られた。54.そして、ご自分の故郷に行かれ、彼らの会堂で教え始められた。すると人々は驚いて言った。「この人はこの知恵と数々の力をどこで得たのだろう。55.これは大工の息子ではないか。彼の母はマリアと言い、彼の兄弟たちはヤコブ、ヨセフ、シモン、ユダではないか。56また、彼の姉妹たちは皆わたしたちのもとにいるではないか。なのに、この人は全てこれらのことをどこで得たのだろうか」。57こうして人々はイエスにつまずいていた。しかしイエスは彼らに言われた。「預言者は、自分の故郷と家以外では軽んじられたことはない」。58イエスは彼らが不信仰なため、そこでは多くの力あるわざを行われなかった。

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●「自然の中で聴く聖書」マタイによる福音書  13章