2013年3月25日月曜日

新約聖書原典「マタイによる福音書」28章の翻訳(私訳)

マタイによる福音書 

28章


1.安息日が終わり、週の初めの日の明け方、マグダラのマリアとほかのマリアとが墓を見に行くと、2.見よ、大きな地震が起こり、主の使いが天から降りて来て近づき、石をわきへ転がしてその上に座った。3.その姿は稲妻のようで、その衣は雪のように白かった。4.(墓の)番をしていた者たちは、その恐ろしさの余り震えて死人のようになった。5.すると天使が答えて婦人たちに言った。「恐れるな、あなたがたが、十字架にかけられたイエスを探していることは分かっている。6.彼はここにはおられない。かねてから言われていたように復活されたからである。来て、(遺体が)置かれてあった場所を見なさい。7.そして急いで行ってイエスの弟子たちに『彼は死者たちの中から復活させられた。そして見よ、彼はあなたがたより先にガリラヤへ行かれる。そこで彼に会えるだろう』と言いなさい。確かにわたしはあなたがたに伝えました」。
8.そこで彼女たちは恐れと大きな喜びを抱いて、急いで墓から立ち去り、イエスの弟子たちに知らせるために走った。9.すると見よ、イエスが彼女たちに出会われ、「喜べ」と言われた。彼女たちは(イエスに)近寄り、その両足を抱いてイエスにひれ伏した。10.そのときイエスは彼女たちに言われた。「恐れるな、行ってわたしの兄弟たちにガリラヤへ行くようにと伝えなさい。そこでわたしに会えるだろう」。
11.しかし、彼女たちがまだ途上にあるとき、番兵のある者たちが町へ行き、祭司長たちにそのすべての出来事を知らせた。12.そこで祭司長たちは長老たちと共に集まって協議し、兵卒たちに多額の銀貨を与えて、13.「『イエスの弟子たちが夜来て、遺体を我々が寝ている間に盗んだ』と言え。14.そしてもし、総督にこの事を知られても、我々が[総督を]説き伏せ、お前たちには心配をかけないようにしよう」と言った。15.そこで兵卒たちは銀貨を受け取り、教えられたとおりにした。そしてこの話は今日に至るまで、ユダヤ人たちの間に広まっている。

16.十一人の弟子たちはガリラヤへ行き、イエスが彼らに指示された山に登った。17.そしてイエスを見て拝した。しかし、彼らは疑った。18.イエスは彼らに近づいて来て言われた。「わたしは天においても地においても、全ての権威を授かった。19.だからあなたがたは行って、すべての諸国民を弟子とし、父と子と聖霊との名によって彼らにバプテスマを施し、20.わたしがあなたがたに命じたすべてのことを守るように教えなさい。見よ、わたしは世の終わりまで、いつもあなたがたと共にいるのである」。

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●「自然の中で聴く聖書」マタイによる福音書  28章


★「その両足を抱いてイエスにひれ伏した」(9)
  「抱いて」は、「ぎゅっと捕まえて」の意。イエスが離れていかないように、両足を引き留めて歩いて行かせないようにする彼女たちのただならぬ思いが込められている。
  οἱ δὲ ἐδίστασαν (17)
「しかし、彼ら(弟子たち)は疑った」
イエスが復活された後、ガリラヤ地方のある山上で弟子たちとイエスが再会をするこの場面は、弟子たちにとって夢心地のような理解しがたい心境であったに違いない。ほとんどの訳では、「弟子たちのある者は~」と訳していて、一部の者が疑っていた、とあるが、原文はそのようには表現していない。 οἱ は「弟子たち」を指し、一部の者か全部の者かをこれだけで判断することはできない。そのままの意味は、あくまで 「弟子たちは(複数)」 なのである。




2013年3月22日金曜日

新約聖書原典「マタイによる福音書」27章の翻訳(私訳)

マタイによる福音書 

27章


1.夜が明けると、祭司長たちと民の長老たちはみな、イエスに敵対し彼を殺そうと相談した。2.彼らはイエスを縛り、総督ピラトのところへ連れて行って引き渡した。
3.そのとき、イエスを引き渡したユダは、イエスが有罪と宣言されたのを見て後悔し、銀貨三十枚を祭司長たちと長老たちに返して、4.「わたしは罪のない人の血を売り渡して罪を犯しました」と言うと、彼らは言った。「何しに来たのか、それはお前の問題だ」。5.そして彼は銀貨を神殿に投げ入れて立ち去り、首を吊って死んだ。6.しかし祭司長たちは銀貨を拾って言った。「その銀貨を神殿の金庫に入れるのは良くない。血の代価なのだから」。7.そこで彼らは相談して、外国人たちを葬るためとして、その代金で陶器師の畑を買った。8.そのため、その畑は今日まで『血の畑』と呼ばれている。9.このとき、預言者エレミヤによって語られた言葉が成就された。こう言われている。『彼らは銀貨三十枚を得た。それはイスラエルの子らが値づけした方、その値づけされた方の代価である。10.彼らは陶器師の畑を得るためにこの代価を支払った。主がわたしに命じられたように』。
11.さて、イエスは総督の前に立たれた。総督がイエスに質問して言った。「あなたはユダヤ人たちの王なのか」。イエスは言われた。「あなたの言うとおりである」。12.祭司長たちや長老たちから告発されている間、イエスは何もお答えにならなかった。13.そこでピラトがイエスに言った。「彼らがこんなにも多くの不利な証言をしているのに聞こえないのか」。14.イエスがピラトに一言もお答えにならなかったので、総督を大いに驚かせた。
15.ところで、総督は祭りの度に、民衆の希望する囚人一人を解放するのを慣例としていた。16.さてその頃、人々は[イエス]バラバという札付きの囚人を捕らえていた。17.そこでピラトは集まって来ている人々に言った。「どちらを釈放して欲しいか、[イエス]バラバか、それともキリストと呼ばれるイエスか」。18.(こう言ったのは)ピラトには、民衆がイエスを引き渡したのが、ねたみによるものであることが分かっていたからである。
19.さて、ピラトが裁判の席についていると、彼の妻が使いをピラトのところに遣わし、「あの義しい人には関わらないでください。私は今日、夢であの人のことでとても苦しみましたから」と言った。
20.しかし、祭司長たちと長老たちとは、バラバを釈放してイエスを殺すよう民衆を説き伏せた。21.総督は続けて彼らに言った。「二人のうち、どちらを釈放して欲しいのか」。民衆は言った。「バラバの方を」。22.ピラトは彼らに言った。「ではキリストと呼ばれるイエスはどうして欲しいのか」。みんなの者が言った。「十字架にかけよ」。23.しかしピラトが言った。「では、彼がどんな悪事を働いたのか」。しかし彼らますます叫んで「十字架にかけよ」と言った。
24.ピラトは、これ以上(何を言っても)無駄であるばかりか、ますます騒ぎが大きくなるのを見て、水を取って民衆の面前で両手を洗って言った。「この人の血について、わたしには罪がない。これはあなたがたの問題だ」。25.全民衆は答えて言った。「彼の血(の責任)は、我々と我々の子孫たちとの上に」。26.それからピラトは彼らのためにバラバを釈放し、イエスを鞭打ってから十字架にかけるために引き渡した。
27.総督の兵士たちはイエスを総督の官邸に連れて行き、イエスの周りに一部隊全員を集めた。28.そして、イエスを裸にさせ、赤い外套を着せて、29.いばらで編んだ冠をその頭にかぶらせ、右手に葦の棒を持たせ、イエスの前にひざまずき、あざけって、「ユダヤ人たちの王よ、ようこそ」と言った。30.そして、イエスに唾をかけ、葦の棒を取ってその頭をたたいていた。31.こうして彼らはイエスをあざけってから外套を脱がせ、イエスの衣服を着せて十字架にかけるために連れて行った。
32.彼らが出て行った時、シモンという名のキレネ人を見つけ、この人にイエスの十字架を無理やり負わせた。33.そしてゴルゴタ、すなわち「されこうべ(頭蓋骨)」と呼ばれている所へ行った。34.彼らはイエスに、苦味を混ぜたぶどう酒を飲ませようと与えたが、イエスはなめただけで、飲もうとはされなかった。35.彼らはイエスを十字架にかけてから『くじを引いてその衣服を分け合い』、36.そこに座ってイエスを見張っていた。37.また、イエスの頭より上の部分に罪状書きを掲げた。それにはこう書かれてあった。
「これはユダヤ人たちの王、イエスである」
38.その時、イエスと一緒に二人の強盗が、一人は右に、一人は左に十字架にかけられていた。39.そばを通り過ぎる人々は、彼らの頭を振りながらイエスをののしって、40.言った。「神殿を壊して三日で建て直す者よ、もしお前が神の子なら自分自身を救って、十字架から降りて来い」。41.祭司長たちも、律法学者たち長老たちと一緒になって同じようにあざけりながら言った。42.「他人を救ったが、自分を救えない。これがイスラエルの王なのだ。今、十字架から降りて来い。そうすれば信じよう。43.彼は神を頼りにしている。神の御心なら今すぐ救ってもらえ。『わたしは神の子だ』と言ったのだから」。44.共に十字架にかけられている強盗たちまでが一緒になってイエスをののしった。
45.さて、昼の十二時から地の全面が暗くなって、三時まで続いた。46.三時近くになって、イエスは大声で叫んで言われた。
「エリ エリ レマ サバクタニ」
これは「わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか」という意味である。47.そこに立っていたある者たちはこれを聞いて、「この人はエリヤを呼んでいるのだ」と言った。48.するとすぐ彼らの中の一人が駆け寄って、海綿を取って酸いぶどう酒を含ませ、アシの茎に巻いてイエスに飲ませようとした。49.しかしほかの人々が言った。「待て、エリヤが彼を助けに来るか見ていよう」。50.しかしイエスは再び大声で叫ばれ、息を引き取られた。
51.すると見よ、神殿の垂れ幕が上から下まで二つに裂け、地が震え、岩が裂け、52.墓が開いて、眠りについていた聖なる者たちの多くの遺体がよみがえらされた。53.そしてイエスの復活の後、彼らは墓から出て来て聖なる都に入り、多くの人々に現われた。
54.そこで百人隊長と、彼と一緒にイエスの見張りをしていた人々は、地震やいろいろな出来事を見て非常に恐れ、「本当に、この人は神の子であった」と言った。
55.そこには遠くから見守る多くの婦人たちがいた。この人たちはみなイエスに仕えるために、ガリラヤから彼について来たのである。56.その中にはマグダラのマリア、ヤコブとヨセフの母マリア、ゼベダイの子たちの母がいた。
57.さて、夕方となり、ヨセフという名のアリマタヤ出身の裕福な人が来た。この人もイエスの弟子とされた一人であった。58.この人がピラトのところへ行って、イエスの遺体を(引き取りたいと)願い出た。そこでピラトは(イエスの体を)引き渡すよう命じた。59.それからヨセフは遺体を引き取り、それをきれいな亜麻布でくるみ、60.岩に掘った自分の新しい墓に葬り、墓の入り口には大きな石を転がして立ち去った。61.そこにはマグダラのマリアと他のマリアもいて、彼女たちは墓に向かって座っていた。

62.次の日、すなわち準備の日の翌日、祭司長たちとファリサイ派の人たちはピラトのところに集まって、63.こう言った。「閣下、わたしたちはあの欺瞞者がまだ生きている時、『わたしは三日後によみがえる』と言ったのを思い出しました。64.ですから、三日目まで墓をしっかり見張るように命令を出してください。そうでないと、彼の弟子たちが来て遺体を盗み出し、民衆に『イエスは死者たちの中から甦った』と言いふらすかも知れません。そうなれば、遂には民衆が前よりもっとひどく欺かれることになるでしょう」。65.ピラトが彼らに言った。「あなたたちには番兵がいる。自覚しているとおり、行ってしっかりと見張りをさせよ」。66.そこで彼らは行って墓を石で封印し、番兵をつけてしっかりと見張った。


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●「自然の中で聴く聖書」マタイによる福音書  27章



ἔτυπτον εἰς τὴν κεφαλὴν αὐτοῦ 30
 「彼らはイエスの頭をたたいていた」  

ἔτυπτον は未完了過去形で それは過去における行為の継続、反復を意味する。 故に、「何度もたたいた」または「たたき続けていた」という意味になる。  

καθήμεναι ἀπέναντι τοῦ τάφου 61) 
 「彼女たちは墓に向かって座っていた」  

ἀπέναντι (アペナンティ) は 「向かって」「~方を向いて」を意味する。故に、マリアたちが単に墓のそばにいたというのではなく、片時も目を離さず、墓の様子を注視していたかがうかがえる言葉である。   τάφου(タフー) は、岩を掘って(くり抜いて)造った墓のこと。それゆえ60節で、この墓を「岩を掘った墓」と説明されている。




2013年3月14日木曜日

新約聖書原典「マタイによる福音書」26章の翻訳(私訳)

マタイによる福音書 

26章


1.イエスはこれらすべての言葉を語り終えると、弟子たちに言われた。2.「二日後には過越祭となるのをあなたがたは知っている。しかし、人の子は十字架に架けられるために引き渡される」。
3.そのとき、祭司長たちや民の長老たちが、カヤファと呼ばれる大祭司の屋敷に集まり、4.イエスを策略により捕まえて殺そうと相談した。5.しかし、彼らは、「祭りの間はいけない。民衆の中に騒ぎが起こるといけないから」と言った。
6.さて、イエスがベタニアにある重い皮膚病を患うシモンの家におられると、7.ひとりの女が、非常に高価な香油の入った瓶を持ってイエスに近づき、食卓についておられるイエスの頭にそれを注いだ。8.しかし、それを見ていた弟子たちが憤慨して「なぜこんな無駄なことをするのか。9.これを高く売って、貧しい人たちに施すことができたのに」と言った。10.イエスはこれを知って彼らに言われた。「なぜこの女を困らせるのか。彼女はわたしに良い行いをしてくれたのだ。11.貧しい人々はいつもあなたがたと一緒にいるが、わたしはいつもあなたがたと一緒にいる訳ではない。12.彼女はこの香油をわたしの体に注いで、わたしを埋葬する準備をしてくれたのだ。13.よくあなたがたに言うが、この福音が宣べ伝えられる所では世界中どこでも、彼女が行ったことはその記念として語られるだろう」。
14.そのとき、十二弟子の一人でイスカリオテのユダという者が、祭司長たちのところへ行って、15.「わたしが彼をあなたがたに引き渡せば、いくらくださいますか」と言った。そこで、彼らはユダに銀貨三十枚を支払った。16.この時からユダは、イエスを引き渡すための良い機会を狙っていた。
17.さて、除酵祭の第一日目に、弟子たちがイエスのもとに来て「わたしたちはどこに、あなたのために過越の食事を準備すればいいでしょうか」と言った。18.そこでイエスは言われた。「町へ行き、ある人のところへ行ってその人に言いなさい。『わたしの時が近づいている。あなたの所で、わたしの弟子たちと一緒に過越の食事をする、と先生が言っておられます』」。19.そこで弟子たちは、イエスが命じられたとおりに行い、過越の食事を準備した。
20.夕方となり、イエスは十二弟子たちと一緒に食事の席につかれた。21.そして、彼らと食事をしているときに言われた。「よくあなたがたに言っておくが、あなたがたの中の一人がわたしを引き渡そうとしている」。22.弟子たちは非常に心を痛めて、それぞれがイエスに、「主よ、わたしではないでしょう」と言い始めた。23.そこでイエスは答えて言われた。「わたしと一緒に手を鉢の中に浸している者が、わたしを引き渡すだろう。24.人の子は、彼について聖書に書かれているように去って行こうとしている。しかし、人の子を裏切るその人はわざわいだ。その人は生まれてこなかった方が、彼にとってよかったのだ」。25.イエスを裏切ろうとしているユダが答えて言った。「まさかわたしではないでしょう、先生」。イエスは彼に言われた。「そう言っているあなたがそれである」。
26.さて、彼らとの食事のとき、イエスはパンを取り祝福の祈りをささげて裂き、弟子たちに与えて言われた。「取って食べなさい。これはわたしの体である」。27.また、杯を取って感謝の祈りをささげ、彼らに与えて言われた。「みな杯から飲みなさい。28.これは罪の赦しが得られるよう、多くの人々のために流される契約のわたしの血である。29.しかし、わたしはあなたがたに言う。わたしの父の国で、あなたがたと一緒に新しい飲み物を飲むその日まで、わたしは今後ぶどうの実から作ったものを飲む事は決してない」。
30.一同は賛美の歌を歌ってから、オリーブ山へ出かけて行った。
31.その時イエスは彼らに言われた。「あなたがたは皆、今夜、わたしにつまずくだろう。こう書かれているからである。
『わたしは羊飼いを打つ。
群の羊たちは散らされるであろう。』
32.しかし、復活の後、わたしはあなたがたより先にガリラヤへ行く」。33.しかしペトロが答えてイエスに言った。「仮にみんなの者があなたにつまずいても、わたしは決してつまずきません」。34.イエスはペトロに言われた。「あなたによく言っておく。今夜、鶏が鳴く前に、あなたは三度わたしを知らないと言うだろう」。35.ペトロがイエスに言った。「たとえあなたと一緒に死ななければならないとしても、決してあなたを知らないなどとは言いません」。ほかの弟子たちも皆、同じように言った。
36.それから、イエスは弟子たちと共にゲッセマネと呼ばれる場所に行かれ、弟子たちに「わたしが向こうに行って祈っている間、ここに座っていなさい」と言われた。37.そして、ペトロとゼベダイの二人の息子たちを伴って行かれ、悲しみ苦しみ始められた。38.そのとき彼らに言われた。「わたしの魂は悲しくて死ぬほどである。ここにいて、わたしと一緒に目を覚ましていなさい」。39.そして少し進んで行かれ、ご自分の顔を伏せて祈って言われた。「わたしの父よ、もし出来ることなら、この杯をわたしから過ぎ去らせてください。ただ、わたしの願いどおりではなく、あなたの御心のように(なさってください)」。40.そして弟子たちのところに戻られ、彼らが眠っているのをご覧になり、ペトロに言われた。「あなたがたは、こんなにひと時も、わたしと一緒に目を覚ましている事ができなかったのか。41.誘惑に陥らないように、目を覚まして祈っていなさい。霊は熱心でも、肉は弱いのだ」。42.また二度目に行って祈って言われた。「わたしの父よ、わたしがこれを飲む以外にこの杯を過ぎ去らせることができないのなら、あなたの御心が行われますように」。43.そして再び戻り、眠っている弟子たちをご覧になった。彼らの目が重かったからである。44.そして彼らを離れ、再び行って三度目に同じ言葉でまた祈られた。45.イエスは弟子たちのところに戻られたとき、彼らに言われた。「まだ眠っているのか、休んでいるのか。見よ、時が近づいた。人の子が罪人たちの手に引き渡されるのだ。46.起きなさい、さあ行こう、見よ、わたしを引き渡す者が近づいて来た」。
47.まだイエスが話しておられると、見よ、十二人の一人のユダがやって来た。また彼と一緒に祭司長たちや民の長老たちから遣わされた大勢の群衆も、剣やこん棒を持ってやって来た。48.イエスを引き渡す者が彼らに合図を与えて言った。「わたしが接吻をする者がその人だ。その人を捕まえよ」。49.そしてすぐに彼はイエスに近づき「ようこそ、先生」と言ってイエスに接吻した。50.イエスが彼に「友よ、しようとしていることをしなさい」と言われると、人々は近寄りイエスに手をかけて捕らえた。51.すると見よ、イエスと一緒にいた者の一人が手を伸ばし、自分の剣を抜いて大祭司の僕を打って、その片耳を切り落とした。52.そのときイエスが彼に言われた。「あなたの剣を元の場所に収めなさい。剣をとる者たちはすべて剣によって滅びるのだから。53.それとも、わたしの父にお願いして、今すぐにでも、十二軍団以上の天使たちをわたしに送ってもらうことができないとでも思うのか。54.それでは、『このように起こらねばならない』という聖書の言葉がどうして成就されようか」。55.その時イエスは群衆に言われた。「あなたがたは強盗でも捕まえるように、剣とこん棒とを持ってわたしを捕まえようとして出て来たのか。わたしはいつも神殿の庭で座って教えていたが、あなたがたはわたしを捕らえなかった。56.しかし、こうなったのはすべて、預言者たちが書いた聖書の言葉が成就するためである」。そのとき、弟子たちは皆、イエスを見捨てて逃げ去った。
57.さて、イエスを捕らえた人々は、彼を大祭司カイアファのところへ連れて行った。そこに律法学者たちや長老たちが招集された。58.しかしペトロは遠くからイエスのあとについて大祭司の屋敷まで行き、事の結末を見ようと中に入って、下役たちと一緒に座っていた。
59.さて、祭司長たちとサンヘドリンの全会衆はどうにかしてイエスを殺そうと、彼についての偽りの証言を探していた。60.うその証言をする者たちが大勢進み出たが、見つからなかった。最後に二人の者が進み出て、61.言った。「この人は『わたしは神の神殿を壊して、三日で建て直すことができる』と言いました」。62.大祭司が立ち上がってイエスに言った。「この人たちがお前について不利な証言をしているのに、何も答えないのか」。63.しかしイエスは黙っておられた。また大祭司がイエスに言った。「生ける神に誓って我々に答えよ。お前は神の子キリストなのか」。64.イエスは彼に言われた。「あなたの言うとおりである。しかし、わたしはあなたがたに言っておく。あなたがたはやがて人の子が力ある方の右に座し、天の雲に乗って来るのを見るだろう」。65.その時、大祭司は自分の上着を引き裂いて言った。「彼は神を汚した。もはや何の証言の必要があろうか。見よ、今、あなたがたはこの汚しごとを聞いた。66.あなたがたはどう思うか」。人々は答えて言った。「その男は死を免れない」。
67.それから人々はイエスの顔に唾をはき、そしてこぶしで殴り、ある者たちは平手でたたいて、68.言った。「キリストよ、言い当ててみよ、お前を打ったのは誰か」。
69.ペトロは外で中庭に座っていたが、一人の女の召使いが彼に近寄って来て「あなたはガリラヤのイエスと一緒でした」と言った。70.しかしペトロがみんなの前で打ち消して言った。「あなたが何を言っているのか、わたしにはわからない」。71.他の女の召使いも、ペトロが門の方へ出て行くのを見て、そこにいる人々に言った。「この人はナザレのイエスと一緒でした」。72.ペトロが再び「わたしはその人を知らない」と誓って打ち消した。73.しばらくして、そこに立っていた人々が近寄って来てペトロに言った。「確かにあなたも彼らの仲間だ。あなたの話しぶりでそれが分かる」。74.そのときペトロは、そんな人は知らないと激しく呪って誓いはじめた。するとすぐに鶏が鳴いた。

75.するとペトロは「鶏が鳴く前に、あなたは三度わたしを知らないと言うだろう」とイエスの言われた言葉を思い出し、外に出て激しく泣いた。

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●「自然の中で聴く聖書」マタイによる福音書 26章


★「友よ、しようとしていることをしなさい」50
上の訳は意訳で、直訳は「友よ、あなたはその目的(捕まえる)のために来ているのだ」である。
 ἕως τῆς ἡμέρας ἐκείνης ὅταν αὐτὸ πίνω μεθʼ ὑμῶν καινὸν ἐν τῇ βασιλείᾳ τοῦ πατρός μου. 29 
 「わたしの父の国で、あなたがたと一緒に新しい飲み物を飲むその日まで…」  

αὐτὸ πίνω μεθʼ ὑμῶν καινὸν  「あなた方と一緒に新しい飲み物を飲む」。明らかに「新しい飲み物」が、その前句の「ぶどうの実から造ったもの」と対比されている。

★「あなたの話しぶりでそれが分かる」(73)
上記の訳は意訳。直訳は「あなたの話しぶりが、あなたを明らかにしている」である。




2013年3月7日木曜日

新約聖書原典「マタイによる福音書」25章の翻訳(私訳)

マタイによる福音書 

25章


1.「そこで、天国は十人の乙女に譬えられる。彼女たちはそれぞれに自分のランプを携えて、花婿を迎えようと出て行った。2.しかし、彼女たちの内の五人は愚かで、五人は思慮深かった。3.なぜなら、愚かな乙女たちは自分たちのランプを携えていたが、それらと一緒に油を携えていなかったからである。4.しかし、思慮深い乙女たちは自分たちのランプと一緒に、容器の中に油を携えていた。5.花婿が来るのが遅れたので、みんな眠くなり眠ってしまった。6.夜中に、『見よ、花婿だ、[彼を]迎えに出なさい』という叫び声が上がった。7.その時、それらの乙女たちはみな起き上って、それぞれのランプを整えた。8.しかし、愚かな乙女たちが思慮深い乙女たちに言った。『私たちにあなたたちの油を分けてください。私たちのランプが消えかかっていますから』。9.そこで思慮深い乙女たちが答えて言った。『私たちとあなたたちとに足りる分はおそらくないでしょう。それより、店に行って自分たちの分を買いなさい』。10.ところが、彼女たちが(油を)買いに出掛けている間に花婿が到着した。(油を)用意していた乙女たちが花婿と一緒に婚宴の部屋に入ると、戸が閉められた。11.その後、ほかの乙女たちも帰って来て、『ご主人様、ご主人様、開けてください』と言った。12.しかし、主人は答えて言った。『よく言っておく。わたしはあなたたちを知らない』。13.だから目を覚ましていなさい。あなたがたには、その日その時が分からないからである。
14.だから(天国は)ちょうど旅に出る人が自分の僕たちを呼んで、自分の財産を彼らに預けるようなものである。15.そして、ある者には五タラントン《一タラントンは六千デナリオンに相当し、労働者六千日分の労賃。五タラントンはその五倍》、ある者には二タラントン、ある者には一タラントンを、それぞれの力に応じ、ひとりひとりに預けて旅に出た。すぐに、16.五タラントンを受け取った者が行ってそれをもって商売をし、ほかに五タラントンを儲けた。17.同じように、二タラントンの者も別に二タラントンを儲けた。18.しかし、一タラントンを受け取った者は行って地に穴を掘り、主人の銀貨を隠した。19.さて、だいぶ時を経てから、それらの僕たちの主人が帰って来て、彼らと清算を行った。20.すると、五タラントンを受け取っていた僕が進み出て、他の五タラントンを差し出して言った。『ご主人様、あなたはわたしに五タラントンをお預けになりました。ご覧ください。わたしは他に五タラントンを儲けました』。21.主人は彼に言った。『よろしい、良い忠実な僕よ。あなたは僅かなものに忠実であったから、多くのものを任せよう。主人と一緒に喜んでくれ』。22.また、二タラントンの僕も進み出て言った。『ご主人様、あなたはわたしに二タラントンをお預けになりました。ご覧ください。わたしは他に二タラントンを儲けました』。23.主人は彼に言った。『よろしい、良い忠実な僕よ、あなたは僅かなものに忠実であったから、多くのものを任せよう。主人と一緒に喜んでくれ』。24.また、一タラントンを受け取っていた僕も進み出て言った。『ご主人様、わたしはあなたが蒔かない所から刈り取り、散らさない所から集める厳しいお方であるのを知っていました。25.ですから、恐ろしくなり、行ってあなたの一タラントンを地の中に隠しておきました。ご覧ください、これがあなたの分です』。26.そこで主人は答えて彼に言った。『悪い怠惰な僕よ、おまえはわたしが蒔かない所から刈り取り、散らさない所から集めることを知っていたのか。27.それなら、わたしの銀貨を銀行に預けておくべきだった。そうすれば、帰って来たとき、わたしの銀貨を利子と一緒に返してもらえただろうに。28.さあ、タラントンを彼から取り上げて、十タラントンを持っている者に与えなさい。29.だれでも持っている者は与えられ更に豊かになるが、持っていない者は持っている物までも彼から取り上げられるだろう。30.この役立たずの僕を外の暗闇に放り出せ。そこで彼は泣き叫んだり歯ぎしりしたりするだろう』。
31.人の子は、その栄光とすべての天使たちと共に来る時、その栄光の御座に着くだろう。32.そして、彼の前にすべての国民が集められ、ちょうど羊飼いが山羊たちから羊たちを分けるように、彼らを互いに分け、33.羊たちを彼の右に、山羊たちを左に立たせるだろう。34.そのとき、王は右にいる者たちに言うだろう。『来なさい。わたしの父に祝福された人たちよ。世の初めからあなたがたのために用意された御国を受け継ぎなさい。35.なぜなら、あなたがたはわたしが空腹であったときに食べものを与え、わたしが渇いていたときに飲みものを与え、旅先にいたときにわたしに宿を貸し、36.裸であったときにわたしに着せ、病気であったときにわたしを見舞い、獄にいたときに来てくれたからである』。37.そのとき、正しい者たちが王に答えて言うだろう。『主よ、わたしたちはいつ、あなたが空腹でいるのを見て食物を与え、渇いているのを見て飲ませましたか。38.また、いつあなたが旅先にいるのを見て宿を貸し、裸でいるのを見て着せましたか。39.また、いつあなたが病気でいるのを見て、あるいは、獄にいるのを見てあなたのところに行きましたか』。40.すると王は答えて彼らに言うだろう。『よくあなたがたに言うが、わたしのこれらの小さな兄弟たちの一人にしたのは、わたしにしたのである』。

41.そのとき、王は左にいる者たちにも言うだろう。『呪われた者たちよ、わたしから離れ去って、悪魔とその使いたちのために用意された永遠の火に行ってしまえ。42.わたしが空腹であったのにあなたがたはわたしに食べものを与えず、渇いていたのにわたしに飲ませず、43.旅先にいたのにわたしに宿を貸さず、裸でいたのにわたしに着せず、病気や獄にいた時にもわたしを訪ねてくれなかったからである』。44.そのとき、彼らも答えて言うだろう。『主よ、わたしたちはいつ、あなたが空腹でいるのを見て、渇いているのを見て、旅先にいるのを見て、裸でいるのを見て、病気や獄にいるのを見てお世話をしませんでしたか』。45.そのとき王は彼らに答えて言うだろう。『あなたがたによく言っておく。これらの小さな者たちの一人にしなかったのは、わたしにしなかったのである』。46.こうして、これらの者たちは永遠の刑罰に至るが、正しい者たちは永遠の命に至るだろう」。


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●「自然の中で聴く聖書」マタイによる福音書  25章


★21節、23節の「主人と一緒に喜んでくれ」は、直訳は「主人の喜びに入ってくれ」である。
κληρονομήσατε τὴν ἡτοιμασμένην ὑμῖν βασιλείαν ἀπὸ καταβολῆς κόσμου 34
世の基礎が据えられた時から、あなた方のために用意された御国を相続しなさい」

ἀπὸ καταβολῆς κόσμου は 「世界の創造から」「世界の初めから」(意訳) とも訳せる。  

ὥσπερ ὁ ποιμὴν ἀφορίζει τὰ πρόβατα ἀπὸ τῶν ἐρίφων 32
「ちょうど羊飼いが山羊たちから羊たちを分けるように」

τὰ πρόβατα ἀπὸ τῶν ἐρίφων は単に山羊と羊を分けるのではなく、「 山羊たちの群から羊たちを分離するのである。