2014年12月15日月曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」14章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

14章


1.イコニオンでも、二人は共にユダヤ人の会堂に入り同じように話したので、ユダヤ人も異邦人も大勢の群衆が信じた。2.しかし、従わなかったユダヤ人たちは、異邦人たちの心をそそのかし兄弟たちに対し敵意を起こさせた。3.それでも二人は長い間滞在して、主について大胆に語った。主は彼らの手によってしるしと不思議とを行われて、その恵みの言葉を証しされた。4.しかし、町の群衆は分裂し、ある者たちはユダヤ人の側に、ある者たちは使徒の側についた。5.異邦人たちとユダヤ人たちが、彼らの指導者たちと一緒になって暴動をおこし、二人を侮辱し石を投げつけようとした時、6.二人はそのことに気づき、リカオニアの町々であるリストラ、デルベとその周辺へと逃れ、7.そのところで福音を宣べ伝えていた。
8.リストラに、ある足のきかない男の人が座っていた。生まれながらに足が不自由で、歩いたことがなかった。9.この人はパウロが話しているのを聞いた。パウロは彼をじっと見つめ、救われる信仰があるのを知って、10.大声で言った。「あなたの足で真っすぐに立ちなさい」。すると彼は飛び上がって歩き出した。11.群衆はパウロが行ったことを見て声をあげ、リカオニアの言葉で、「神々が人間の姿をとって我々のところに下りて来たのだ」と言った。12.そして、バルナバをゼウスと呼び、パウロを、彼がおもに話す人であったのでヘルメスと呼んだ。13.町の門前にあるゼウスの神殿の祭司も、群衆と一緒になって数頭の雄牛と花輪を門に供えて、(二人に)犠牲をささげようとした。14.使徒のバルナバとパウロはこのことを聞いて、自分たちの上着を裂き群衆の中に駆け込み、叫んで、15.言った。「皆さん方、どうしてこんなことをするのですか。わたしたちも、あなたがたと同じ人間です。わたしたちは、あなたがたがこれらの無意味なことをやめて、生ける神に立ち帰るようにとあなたがたに宣べ伝えているのです。この神は空と、陸と、海と、それらの中の一切のものをお造りになられました。16.神は、過ぎ去った時代には、全ての異邦人たちをそれぞれの道におもむくままにされました。17.それにもかかわらず、神は、ご自分のことを証ししないまま、恵みを施さないでおられたわけではありません。天からあなたがたに雨を降らせ、実りの季節を与え、食物と喜びとであなたがたの心を満たしてくださったのです」。18.こう言って、やっと群衆が二人に犠牲をささげるのをやめさせることができた。
19.しかし、アンティオキアとイコニオンからユダヤ人たちがやって来て、群衆を説き伏せてパウロを石で撃ち、死んだと思って彼を町の外へ引いて行った。20.弟子たちがパウロを取り囲むと、彼は立ち上がって町へ入って行った。そして次の日、パウロはバルナバと共にデルベへ行った。21.二人はその町に福音を宣べ伝え、大勢の人々を弟子としてから、リストラ、イコニオン、アンティオキアへと戻って行き、22.弟子たちの魂を力づけ、信仰にとどまっているようにと、また、「わたしたちが神の国に入るには、多くの苦難を経なければならない」と励ました。23.そして、教会ごとに彼らのために長老たちを任命し、断食して祈り、彼らを信じている主にゆだねた。

24.そして二人はピシディアを通過してパンフィリアへ行った。25.そして、ペルゲで御言葉を語ってから、アタリアへ下って行った。26.そこから出航してアンティオキアに帰った。そこは彼らが、(今しがた)なし終えた働きのために、神の恵みによって送り出された場所であった。27.二人は到着して教会の人々を集め、神が彼らと共におられて、いかに大きなことをなしてくださったか、また、異邦人たちにも信仰の扉を開いてくださったことを報告した。28.そして、しばらくの期間、弟子たちと共に過ごした。



●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 14章




2014年12月5日金曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」13章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

13章


1.さて、アンティオキアには、そこにある教会に、バルナバ、ニゲルと呼ばれるシメオン、キレネ人のルキオ、領主ヘロデの乳兄弟のマナエン、サウロなどの預言者や教師たちがいた。2.彼らが主に礼拝をささげ断食していると、聖霊が言った。「さあ、バルナバとサウロをわたしのために聖別し、彼らを召し出しておいた働きにあたらせなさい」。3.そこで、彼らは断食して祈り、二人の上に手を置いてから送り出した。
4.さて、聖霊によって送り出された二人はセレウキアに下り、そこからキプロスに向けて船出した。5.サラミスに着くと、二人はユダヤ人の諸会堂で神の言葉を宣べ伝え始めた。彼らは助手のヨハネを連れていた。6.彼らは島全体をパフォスまで巡り歩いたが、偽預言者で、バルイエスと言う名のユダヤ人の魔術師の男に出会った。7.彼は地方総督セルギウス・パウルスのもとにいた。この総督は賢い人で、バルナバとサウロを招いて神の言葉を聞きたいものだと思った。8.しかし、魔術師エリマー彼の名を訳すとこのようになるーは彼らの邪魔をして、総督を信仰からそらそうとした。9.そこで、サウロ、又はパウロは、聖霊に満たされて男をにらんで、10.言った。「ああ、あらゆる偽りとあらゆる邪悪とに満ちた者、悪魔の子、あらゆる正義の敵。真っすぐな主の道を曲げることをやめないのか。11.だから見よ、今、主の手がお前に臨み、お前は盲人となり、しばらくの間は太陽を見ることができなくなる」。すると、たちまち彼の上に霧と闇が臨み、さまよいながら誰か手を引いてくれる人を探した。12.この出来事を見た総督は、主の教えにすっかり驚いて信じた。
13.パウロとその一行はパフォスから船出しパンフィリアのペルゲへ行ったが、ヨハネは一行から離れてエルサレムに帰ってしまった。14.一行はペルゲから巡り歩いて、ピシディアのアンティオキアに到着した。そして、安息日に会堂に入って席についた。15.律法と預言者たちの書が朗読された後、会堂長たちが二人のもとに(人を)やってこう言わせた。「兄弟諸君、民衆に対して何か奨励の言葉がありましたら、どうぞお話しください」。16.そこで、パウロが立ち上がり手を振って言った。
「イスラエルの諸君、また、神を畏れる方々よ、聞いてください。17.この民イスラエルの神は、わたしたちの先祖たちを選び、エジプトにおける寄留時に民を増やし、高く掲げた御腕をもって彼らをそこから導き出し、18.四十年の間、荒野で彼らを養われました。19.カナンの地では、七つの民族を滅ぼし、彼らの地を分配してくださいました。20.これは四百五十年にも及びました。その後、神は預言者サムエルの時まで、裁き人たちをお立てになりました。21.それから、人々は王を求めたので、神はベニヤミン族出身の人で、キシュの子サウルを四十年の間彼らにお与えになりました。22.神はサウルに替えて、ダヴィデを立てて王とされました。彼についてはこのように証しして言われました。『わたしはエッサイの子ダヴィデを見出した。彼はわたしの心にかなう者、彼はわたしの思いをすべて行なうであろう』。23.神はこの子孫から、約束に従ってイスラエルに救い主イエスをもたらしてくださいました。24.ヨハネはイエスの来られるに先んじて、イスラエルの全ての人々に、悔い改めのバプテスマをあらかじめ宣べ伝えました。25.ヨハネがその生涯を閉じようとしていた時、彼はこう言いました。『あなたがたはわたしを誰だと思うか。わたしは(あなたがたが期待しているような)者ではない。しかし見よ、わたしの後にその方は来られる。わたしはその方の足の履物をお脱がせする値打もない』と。26.兄弟諸君、アブラハムの子孫の方々、ならびにあなたがたの中の神を畏れる方々、この救いのことばはわたしたちに遣わされたのです。27.エルサレムに住む人々とその指導者たちは、この方を認めず、安息日ごとに読まれる預言者たちの声をも理解せず、(この方を)裁判にかけて(その預言を)成就させたのです。28.そして、死に当たる理由は何も見いだせなかったのに、彼らはピラトにこの方を殺すようにと要求したのです。29.この方について書かれていることを全て成し遂げると、人々は(遺体を)木から取り下ろし墓に納めました。30.しかし、神はこの方を死者たちの中から復活させられたのです。31.この方は、ご自分と一緒にガリラヤからエルサレムに上った人たちに、幾日にもわたって(ご自分を)現わされ、その人たちは[今]、民に対してその方の証人となっているのです。32.わたしたちは、神が先祖たちに対してなされた約束を、あなたがたにも告げ知らせているのです。33.すなわち、神はイエスを復活させて、わたしたち子孫のためにその約束を果たされました。それは詩篇の第二篇に、
『あなたはわたしの子、わたしは今日あなたを生んだ』
と書かれているとおりです。
34.また、神がイエスを死者たちの中から復活させて、もはや朽ち果てたままにはなさらないことについては、このように言われました。『わたしはダヴィデに約束した聖なる確かな祝福を、あなたがたに与えよう』と。35.なぜなら、別のところでもこう言われています。『あなたは、あなたの聖者を、朽ち果てたままにはなさらない』と。36.ダヴィデは自分の時代に神の計画に仕えましたが、眠りについてその先祖たちに加えられ、ついに朽ち果てました。37.しかし、神が復活させられた方は朽ち果てることがなかったのです。38.だから兄弟諸君、このことを知っていただきたい。あなたがたに罪の赦しが告げ知らされているのは、この方によるのだということを。モーセの律法では義とされることができなかったあらゆることから、39.信じる者はみなこの方によって義とされるのです。40.だから預言者たちによって言われていることが、あなたがたの身に起こらないように注意していなさい。
41.『あざける者たちよ、さあ、驚き隠れよ。
わたしはお前たちの時代にこの業を行う。
だれかが詳しくお前たちに語っても、
お前たちには決して信じられない業である。』
42.パウロとバルナバが(会堂から)出て行こうとすると、人々は次の安息日にもこれらの言葉を語ってくれるようにと頼んだ。43.集会が終わっても、大勢のユダヤ人たちと神を敬う異邦人求道者たちがパウロとバルナバについて来たので、二人は彼らと話し合い、神の恵みにとどまっているようにと彼らを説得した。
44.次の安息日になると町中の人々が、主の言葉を聞こうと集まって来た。45.しかし、ユダヤ人たちは群衆を見てねたましく思い、パウロの語ることに口汚くののしって反対した。46.そこでパウロとバルナバは大胆に語って言った。「神の言葉は、先ずあなたがたに語られなければならなかった。しかし、あなたがたはこの方を拒んで、自分自身を永遠の命にふさわしくない者と決めている。だから、見よ、わたしたちは異邦人たちの方へ向かう。47.主はわたしたちに、こうお命じになられたからだ。
『わたしはあなたを異邦人たちの光として立てた。
あなたが地の果てに至るまで救いをもたらすためである。』」。

48.異邦人たちはこれを聞いて喜び、主の言葉をほめたたえた。そして永遠の命に(あずかるように)定められていた人々はみな信じた。49.こうして主の言葉は、その地方全体に広まっていった。50.しかし、ユダヤ人たちは、神を敬う貴婦人たちや町の有力者たちをそそのかしてパウロとバルナバを迫害させ、二人を彼らの地方から追い出した。51.二人は彼らに対し足のほこりを払い落し、イコニオンへ行った。52.弟子たちはそれでも、喜びと聖霊とに満たされていた。



●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 13章


★2節のさあ、バルナバとサウロをわたしのために聖別し、彼らを召し出しておいた働きにあたらせなさい」の、”さあ”は、”直ちに”と訳すこともできる。

★「モーセの律法では義とされ得なかったあらゆることから、39.この方を信じる者はみな義とされるのです」(38.39)

パウロの神学の中心となる思想。パウロがローマ書、ガラテヤ書を書くはるか以前に、彼の第一回目の伝道旅行中にすでにこの思想が彼の宣教の中心にあった。

ἐπειδὴ ἀπωθεῖσθε αὐτὸν καὶ οὐκ ἀξίους κρίνετε ἑαυτοὺς τῆς αἰωνίου ζωῆς, ἰδοὺ στρεφόμεθα εἰς τὰ ἔθνη (46)
しかしあなた方はこの方を拒んだので、自分自身を永遠の命にふさわしくない者と決めている。見よ、私たちは異邦人たちの方へ向かう」。

「向かう」と訳している στρεφόμεθα  は文字通り「向きを変える」「方向転換する」を意味する 。ユダヤ人たちがパウロの宣教を受け入れず、そこで証しされているイエスを拒んで、『自分自身を永遠の命にふさわしくない者と決めた』がゆえに、パウロは召命に従って(イザヤ49:6)ユダヤ人から異邦人への宣教へと方向を転換することとなった。

★ ἐπίστευσαν ὅσοι ἦσαν τεταγμένοι εἰς ζωὴν αἰώνιον (48)

永遠の命に定められていた人々はみな信じた

これを書いたルカもパウロと同じく(エフェ1:4,5)神の選びの予知を知っていたのであろう。




2014年11月4日火曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」12章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

12章


1.その頃、ヘロデ王は教会のある人々に迫害の手を伸ばし、2.ヨハネの兄弟のヤコブを剣で殺した。3.これがユダヤ人たちに喜ばれたのを見て、さらにペトロをも捕らえようとした。-それは除酵祭の時期であったー。4.そしてペトロを捕らえて牢に入れ、四人一組の兵士、四組に引き渡して彼を監視させた。過越祭の後、彼を民衆の前に引き出そうと考えていたのである。5.こうして、ペトロは牢で監視されていたが、教会では彼のために祈りが熱心に神にささげられていた。
6.ヘロデがペトロを(民衆の前に)引き出そうとしていたその夜、ペトロは二本の鎖に縛られて二人の兵士の間で眠っていた。また、扉の前では番兵たちが牢を見張っていた。7.すると見よ、主の天使が現れ、光が牢の中を照らした。そして、ペトロの脇腹を揺らし、彼を起こして「急いで立ちなさい」と言った。(二本の)鎖がペトロの両手から外れ落ちた。8.天使がペトロに言った。「帯を締め、履物を履きなさい」。ペトロは(天使が)言う通りにした。また天使が言った。「上着を着て、わたしについてきなさい」。9.そしてペトロは外に出てついて行ったが、天使によって行われていることが現実のことのようには思われず、幻を見ているように思われた。10.二人は第一と第二の見張所を通り抜け、町に通じる鉄の門のところまで来ると、ひとりでにそれらが開き、そこから出て最初の通りを進んで行った。するとすぐ、天使はペトロから離れ去った。11.ペトロは我に返って言った。「わたしは今、よくわかった。主がその天使を遣わしてくださり、ヘロデの手とユダヤの民衆のあらゆるたくらみからわたしを助け出してくださった」。
12.そうと分かったので、ペトロはマルコと呼ばれるヨハネの母マリアの家に行った。そこには大勢の人々が集まって祈っていた。13.ペトロが入口の戸を叩くと、ロデという名の女中が応対するために出て来た。14.するとペトロの声だとわかり、喜びの余り戸も開けないで(家の中に)駆け込み、ペトロが門の前に立っていることを伝えた。15.しかし、人々は、「あなたは気が狂っているのだ」と言ったが、彼女は「本当のことだ」と言い張った。しかし、人々は「それはペトロの御使いだろう」と言った。16.しかし、ペトロが(戸を)叩き続けていたので、彼らが開けたところペトロだとわかったので、彼らはびっくり仰天した。17.ペトロは彼らに静まるように手で合図をし、主がどのように自分を牢から導き出してくださったかを詳しく話してから、「ヤコブと兄弟たちに、これらのことを知らせなさい」と言ってから、そこを出てほかのところへ出かけて行った。
18.さて、夜が明けて、「ペトロはどうなったのか」と兵士たちの間で大騒ぎとなっていた。19.そこでヘロデはペトロを捜したが見つからなかったので、番兵たちを取り調べ死刑に処するように命じてから、ユダヤからカイサリアに下ってそこに留まった。
20.ところで、ヘロデはティルスとシドンの人々に非常な怒りを抱いていた。そこで、その住民たちはこぞって王のもとを訪ね、王の侍従ブラストを説得して和解を求めた。彼らの地方が、王の国から食料を得ていたからである。21.定められた日に、ヘロデが王服を着て裁判の席について演説していると、22.会衆がこう叫び始めた。「神の声だ、人間の声ではない」。23.するとたちまち、主の使いがヘロデを撃った。神に栄光を帰さなかったからである。そして、虫にかまれて息絶えた。
24.しかし、神の言葉はますます栄え、広がっていった。

25.バルナバとサウロはエルサレムに対する務めを果たし、マルコと呼ばれるヨハネを連れて(アンティオキアに)戻って来た。



●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 12章
https://www.youtube.com/watch?v=IWVOlIaAGfU


★「ヤコブと兄弟たちに、これらのことを知らせなさい」(17)

12:2で主の弟子であったヨハネの兄弟のヤコブはすでにこのときヘロデによって殺されているから、17のヤコブは主イエスの兄弟のヤコブであろう。とするならば、このときすでにエルサレムでは、主の兄弟ヤコブがそのリーダー的存在であったことを暗示している。


★Βαρναβᾶς δὲ καὶ Σαῦλος ὑπέστρεψαν εἰς Ἰερουσαλὴμ πληρώσαντες τὴν διακονίαν, συμπαραλαβόντες Ἰωάννην τὸν ἐπικληθέντα Μᾶρκον.(25)

上記の文中、前半を Βαρναβᾶς δὲ καὶ Σαῦλος ὑπέστρεψαν εἰς Ἰερουσαλὴμ (バルナバとサウロはエルサレム戻り) と訳すか、Βαρναβᾶς δὲ καὶ Σαῦλος ὑπέστρεψαν (バルナバとサウロは[エルサレムから]戻った)
εἰς Ἰερουσαλὴμ πληρώσαντες τὴν διακονίαν, (エルサレムに対する務めを果たしてから)と訳すかで意味はまったく逆となる。今、バルナバとサウロはその務めのためにエルサレムにいる(11:30)のだから、文脈から後者の訳が正しい。




2014年10月20日月曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」11章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

11章


1.さて、使徒たちとユダヤにいる兄弟たちは、異邦人たちも神の言葉を受け入れたことを聞いた。2.ペトロがエルサレムに上った時、割礼のある者たちは彼を非難して、3.「あなたは割礼のない人々のところへ出かけて行って、彼らと一緒に食事をした」と言った。4.そこでペトロは彼らに順序正しく説明し始めて言った。5.「わたしがヤッファの町にいて祈っていると、夢心地に幻を見ました。大きな布のような入れ物が四隅を吊るされて、天からわたしのところまで下りて来たのです。6.その中を良く見ると、地の四足の動物たちや獣たち、は虫類、空の鳥などが入っていました。7.そしてわたしにこう語りかける声を聞きました。『ペトロよ、立って、ほふって食べなさい』と。8.しかし、わたしは言いました。『主よ、とんでもありません。わたしはこれまで、不浄なものや汚れたものをわたしの口に入れたことは一度もありません』。9.すると二度目に天から声がして、『神が清めたものを、あなたが不浄なものとしてはならない』との返事がありました。10.こんなことが三度あってから、再び全てのものが天に引き上げられました。11.するとすぐに、カイサリアからわたしのもとに遣わされた三人の人たちが、わたしたちのいた家に着きました。12.そこで、霊がわたしに、『ためらわずに、彼らと一緒に行くように』と言われました。そこで、これらの六人の兄弟たちもわたしと一緒に行き、わたしたちはその人の家に入ったのです。13.その人は、自分の家で天使が立っていたのを見たこと、また、こう告げたことを、わたしたちに報告してくれました。『ヤッファに(人を)遣わして、ペトロと呼ばれているシモンを招きなさい。14.彼は、あなたと、あなたのすべての家族を救う言葉を語ってくれるだろう』。15.わたしが話し始めると、聖霊が、最初にわたしたちに下ったように、彼らにも下りました。16.わたしは、『ヨハネは水でバプテスマを授けたが、あなたがたは聖霊によってバプテスマを受けるだろう』と言われた主の言葉を思い出しました。17.ですから、神が、主イエス・キリストを信じたわたしたちに与えてくださったのと同じ賜物を、彼らにも与えてくださったのなら、どうしてわたしが、神(がそのようになさるの)を妨げることができるでしょうか」。18.彼らはこれらのことを聞くと黙ってしまい、神を賛美して、「それでは、神は、異邦人たちにも命にいたる悔い改めを与えてくださったのだ」と言った。
19.さて、ステファノの身に起きた迫害によって散らされた人々は、フェニキア、キプロス、アンティオキアに至るまで行き巡ったが、ユダヤ人たち以外にはみ言葉を語らなかった。20.しかし、彼らの中にはキプロスとキレネ出身の人たちがいて、彼らはアンティオキアに行って、ギリシア人たちにも語って主イエスを宣べ伝えた。21.そして、主の御手が彼らと共にあったので、大勢の数の者たちが信じて主に立ち帰った。
22.彼らについてのこのうわさが、エルサレムにある教会の(人たちの)耳に聞こえたので、彼らはバルナバをアンティオキアに[行くよう]派遣した。23.バルナバは(アンティオキアに)到着し、神の恵みを見て喜び、心を堅固にして主にとどまっているようにと、みんなの者を励ました。24.彼は立派な人で、聖霊と信仰とに満ちていたからである。そして大勢の人々が主(の群れ)に加えられた。25.それからバルナバはサウロを捜しにタルソスへ出かけて行って、26.(彼を)見つけ、アンティオキアに連れて帰った。二人は丸一年教会に一緒にいて、多くの人々を教えた。このアンティオキアで弟子たちが初めてクリスチャンと呼ばれたのである。

27.さて、そのころ、預言者たちがエルサレムからアンティオキアに下って来た。28.彼らの中の一人で、アガボという名の者が立って、「大きな飢饉が全世界の上に臨もうとしている」と霊によって予言したが、はたしてそれがクラウディウス帝の時に起こった。29.また、弟子のある者たちは、自分たちの富に応じて、それぞれがユダヤに住んでいる兄弟たちに対して援助を送ることを決めた。30.そしてそれを実行し、バルナバとサウロの手によって(エルサレムの)長老たちに届けた。


●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 11章


★「しかし、彼らの中にはキプロスとキレネ出身の人たちがいて、彼らはアンティオキアに行って、ギリシア人たちにも語って主イエスを宣べ伝えた」20

エルサレムにおける迫害を逃れて、離散したユダヤ人キリスト教徒たちは、同胞のユダヤ人以外にはみ言葉を語らなかった(19)というから、アンティオキアに行ってギリシア人に福音を伝えたというこのキプロスとキレネ出身者はギリシア系ユダヤ人なのかもしれない。「使徒たちの働き」2章5節によると、迫害の前、エルサレムには諸外国からのユダヤ人が住んでいたとある。だとしたら、かれらの関心はギリシア人に宣教することであったに違いない。このギリシア系ユダヤ人によるギリシア人への宣教によって、アンティオキアにユダヤ以外の最初の教会が組織され、かれらは、キリスト教会最初の「クリスチャン」と呼ばれたのである(26)




2014年10月8日水曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」10章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

10章


1.さて、カイサリアにコルネリウスという名の人がいた。イタリア隊と呼ばれる歩兵隊の百人隊長で、2.信仰深く、家族そろって神を畏れ、民衆に多くの施しを行い、絶えず神に祈っていた。3.ある日の午後三時ころ、幻で、神の使いが彼のところに入って来て、「コルネリウスよ」と言うのをはっきりと見た。4.彼は御使いをじっと見つめたが、恐ろしくなって、「主よ、何でしょうか」と言った。すると御使いが彼に言った。「あなたの祈りとあなたの施しは、神の御前に上って覚えられている。5.今、ヤッファへ人々を遣わし、ペトロと呼ばれるシモンという人を招きなさい。6.この人は、皮なめし職人シモンという人の客となっている。その人の家は海辺にある」。7.彼に語った天使はこう話してから離れ去った。そこでコルネリウスは二人の召使いと、彼にひたすら仕える信仰深い兵卒一人を呼んで、8.事の次第を詳しく話してから、彼らをヤッファへ遣わした。
9.次の日、一行が旅を進めて町に近づいたとき、ペトロは昼の十二時の祈りをするために屋上に上がった。10.ところが彼は空腹になり、(何か)食べたいと思った。人々が食事の準備をしているうちに彼は夢心地になり、11.天が開かれて、大きな布のような入れ物が四隅を吊るされて地上に下りて来るのを見た。12.その中には、四足のあらゆる動物、地を這うもの、空の鳥などが入っていた。13.そして彼に向って、「ペトロよ、立ってほふって食べなさい」という声がした。14.しかしペトロが言った。「主よ、とんでもないことです。わたしは不浄なもの、汚れたものは決して食べたことがありません」。15.すると二度目にまた声がした。「神が清められたものを、あなたが不浄なものとしてはならない」。16.このようなことが三度あってから、その入れ物はすぐに天に引き上げられた。
17.ペトロが(今)見た幻は何のことだろうと思い当惑していると、見よ、コルネリウスから遣わされた人たちがシモンの家を探し当てて入口に立ち、18.「ペトロと呼ばれるシモン様はここにお泊りですか」と呼びかけて尋ねた。19.ペトロは幻について思い巡らしていたが、霊が[彼に]言った。「見よ、三人の者たちがあなたを探している。20.さあ、立って下りて行き、何もためらわないで彼らと一緒に行きなさい。わたしが彼らを遣わしたのだから」。21.そこでペトロはその人たちのところに降りて行って言った。「ご覧ください、あなたがたが探しておられるのは、このわたしです。どうしてここへおいでになったのですか」。22.彼らは言った。「百人隊長のコルネリウス様は正しい人で神を畏れ、すべてのユダヤ国民からも評判のよい方ですが、この人が自分の家にあなたを招いて、あなたから御言葉を聞くようにと、聖なる天使からお告げを受けたのです」。23.そこでペトロは彼らを招き入れて泊らせた。
次の日、ペトロは立って彼らと一緒に出かけた。ヤッファから数人の兄弟たちも彼に同行した。24.さて翌日、ペトロはカイサリアに入った。コルネリウスは自分の親類や親しい友人たちを呼び集めて一行を待っていた。25.ペトロが(町へ)入って行くと、コルネリウスはペトロを迎え、その足元にひれ伏して拝した。26.ペトロは彼を起こして言った。「お立ちください。わたしも同じ人間です」。27.こう話してからペトロは(コルネリウスの家に)入り、大勢の人々が集まっているのを見て、28.彼らに言った。「あなたがたがご存じのように、ユダヤ人が他民族の人と協力したり交際したりすることは(律法で)禁じられています。しかし神は、人を不浄な者とか汚れた者などと言ってはならないことをわたしに示されました。29.ですから、お招きいただいた時、わたしはためらわずに来たのです。そこでお尋ねしますが、どんな御用でわたしをお招きくださったのですか」。30.コルネリウスは言った。「四日前のこの時間に、わたしが自分の家で午後三時の祈りをしていますと、輝く衣を着た一人の方がわたしの前に立って、31.こう言うのです。「コルネリウスよ、あなたの祈りは聞き入れられ、あなたの施しは神の御前に覚えられた。32.だからヤッファに(人を)やってペトロと呼ばれているシモンを招きなさい。この人は海辺の皮なめし職人シモンの家で客となっている」。33.そこでただちに、あなたのもとに(人を)送ったのです。よくおいでくださいました。ですから今、わたしたちは皆、主があなたに命じられた全てのことを聞くために、神の御前に集っているのです」。
34.ペトロは口を開いて言った。「神は差別をなさらないお方であることが、本当によく分かりました。35.どんな国の人であっても、神を畏れ、義を行なう人は、神がその人を受け入れてくださるのです。36.神はイエス・キリストをとおして平和を告げ知らせるために、イスラエルの子らにことばを遣わされました。この方こそ全ての者の主です。37.あなたがたは、ヨハネが叫んだバプテスマの後、ガリラヤから始まってユダヤの全土で起こったこの事をご存じです。38.ナザレのイエスのことです。神は聖霊とみ力によってこの方に油を注がれました。この方は、良い業をして行き巡られ、悪魔によって抑圧されているすべての人々を癒されました。神が彼と共におられたからです。39.わたしたちは、彼がユダヤの地方とエルサレムで行った全ての事の証人です。しかし、人々はこの方を木に吊るして殺したのです。40.神はこの方を三日目に復活させ、彼を見えるように現してくださいました。41.それは全ての人にではなく、神によってあらかじめ選ばれた証人、すなわち、イエスが死者たちの中から復活した後、彼と一緒に食べたり飲んだりしたわたしたちに対してです。42.そしてイエスはわたしたちに、ご自分こそ生きている者と死んだ者を裁く者として、神によって定められた者であることを人々に宣べ伝え、力強く証しするようにとお命じになりました。43.預言者たちも皆、この方について、彼を信じる者は誰でもその名によって罪の赦しが得られることを証ししているのです」。

44.ペトロがまだこれらの言葉を語っていると、この言葉を聞いている全ての人々に聖霊が下った。45.すると、割礼を受けている信者でペトロに随行して来た者たちは皆、聖霊の賜物が異邦人の上にも注がれたことに驚いた。46.彼らが自分たちの国語で語り、神を賛美しているのを聞いたからである。その時ペトロが答えた。47.「わたしたちと同じように彼らが聖霊を受けたからには、彼らが水でバプテスマを受けるのをいったい誰が阻止できようか」。48.そこでペトロは彼らに、イエス・キリストの名によってバプテスマを受けるようにと指示した。こうして人々はペトロに、なお数日滞在するようにと願った。



●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 10章



κοινὸν καὶ ἀκάθαρτον (14)
「不浄なもの、汚れたもの」

「不浄なもの κοινὸν 」は偶像に捧げてけがれたもの、「汚れたもの ἀκάθαρτον 」はレビ記11章にあるユダヤ人には食べることを禁じた動物。

★「そしてイエスは~」(42)
42節の主語は「彼は」であり、これが「神」であるか「イエス」であるかは文脈で判断するしかない。文脈で判断すれば「神」(口語訳はそうしている)であるが、意味上は「イエス」とするのが正しい(新共同訳、新改訳)。訳者も後者を採用した。

αὐτῶν λαλούντων γλώσσαις (46)
「彼らが自分たちの国語で語り…」
「自分たちの」 が、その言葉を聞いているペトロに随行した「ユダヤ人たちの」と解釈するのが正しい。、外国人(異邦人)がユダヤの言語を話しているわけだから、ユダヤ人たちから見れば、自分たちの母国語、つまり「異言」(外国語)を語っていたということになる。このことが異邦人にも「聖霊の賜物」が注がれた証拠であるとしてユダヤ人を驚かせた(45)。五洵節の日にエルサレムで起きた出来事もこれと同じであった(2:1~参照)