2013年12月12日木曜日

新約聖書原典「ルカによる福音書」23章の翻訳(私訳)

ルカによる福音書 

23章


1.そこで彼ら全員が立ち上がり、イエスをピラトのところへ引いて行った。
2.そして彼らは、「我々は、この男が我々の国民をそそのかして、皇帝に税金を納めるのを妨げ、自分が王なるキリストだと言っているのを目撃しました」と言って訴え始めた。3.そこでピラトはイエスに「あなたはユダヤ人たちの王なのか」と問うた。するとイエスは彼に答えて言われた。「あなたの言う通りである」。4.ピラトは祭司長たちと群衆に対して言った。「わたしはこの人の中に、なんの理由も見出せない」。5.しかし、彼らはますます強く主張して「この男はガリラヤから始めてこの都に至るまで、ユダヤ中で教えて民衆を扇動している」と言った。
6.ピラトはそれを聞いて、この人がガリラヤ人かどうか尋ね、7.それがヘロデの権限に属する者だと分かると、彼はイエスの身柄をヘロデのところへ送った。ヘロデもその当時はエルサレムにいたからである。
8.さて、ヘロデはイエスを見て非常に喜んだ。というのは、彼はイエスに関するうわさを聞いていて、イエスによって起こされる何か奇跡を見たいと期待していたので、ずっと以前からイエスに会いたいと思っていたからである。9.そこでヘロデは、いろいろとイエスに質問していたが、イエスご自身は何もお答えにならなかった。10.しかし、祭司長たちと律法学者たちとはそこに立っていて、イエスを激しく訴えていた。11.ヘロデも自分の兵卒達と一緒になってイエスを侮辱したりあざけったりして、華やかな衣をイエスに着せ、ピラトのところへ送り返した。12.ヘロデとピラトは、その日に互いに親しくなった。というのは、彼らは以前には互いに憎み合っていたからである。
13.そこでピラトは、祭司長たち、役人たち、民衆を招集して、14.彼らに言った。「あなたがたは、この人が民衆をそそのかしているかのようにわたしのもとに連れて来たが、わたしがお前たちの前で調べたところ、この人の中に、お前たちが訴えているような理由は何も見出せなかった。15.ヘロデとしても見つけられなかった。だから我々のもとにこの人を送り返してきたのだ。この人は死に値するようなことは何もしていない。16.だから、懲らしめた上で、この人を赦してやることにしよう」。
18.しかし、人々は一斉に叫んで「この男を殺せ。そしてバラバを赦せ」と言った。19.このバラバは、都でおきたある暴動と殺人のゆえに投獄されていたのである。20.ピラトは再び彼らに、イエスを赦そうと呼びかけた。21.しかし、彼らはわめき立て「その男を十字架にかけろ、十字架にかけろ」と言った。22.ピラトは三度目に彼らに言った。「では、この人はどんな悪事をしたのか。この人には死に値する理由は何もみつからない。だから、こらしめてから赦してやることにしよう」。23.しかし彼らは大声で詰め寄り、イエスを十字架にかけるよう要求し、彼らの声が勝った。
24.ピラトは彼らの要求をかなえる決定を下した。25.すなわち、暴動と殺人のゆえに投獄されていたが、民衆が(赦しを)求めていた者を放免し、イエスを彼らの望みどおりに引き渡した。
26.彼らがイエスを引いて行く途中、田舎から出て来たキレネ人シモンという者を捕らえ、この人に十字架を背負わせ、イエスの後ろから運ばせた。
27.大勢の民衆と、嘆き悲しむ婦人たちの群がイエスに従っていた。28.イエスは彼女たちの方を振り向いて言われた。「エルサレムの娘たちよ、わたしのために泣くな。むしろ自分と自分の子供たちのために泣きなさい。29.なぜなら、見よ、『子を産めない女たちと産んだことのない胎、乳を飲ませたことのない乳房とは幸いだ』と言う日が来ようとしているからだ。30.その時、人々は山々に向かって『我々の上に倒れてくれ』、また丘に向かっても『我々を覆い隠してくれ』と言い始めるだろう。31.生木においてこうしたことが起こるとすれば、枯れ木においてはどうなるだろうか」。
32.さて、ほかにも二人の犯罪人がイエスと一緒に処刑されるために引かれて行った。33.彼らが、「されこうべ(頭蓋骨)」と呼ばれる場所に来た時、人々はそこでイエスを十字架にかけ、犯罪人たちも一人を(イエスの)右に、一人を左にかけた。34.【イエスは言われた。「父よ、彼らをお赦しください。彼らは何をしているのか分からないのですから」。】『彼らは、くじを引いてイエスの衣を分けた。』
35.民衆は見つめながら立っていた。役人たちもあざ笑いながら言った。「彼は他人を救ったのだ。もしこれが選ばれた者、神の(子)キリストなら自分を救え」。36.兵卒たちも近寄ってイエスをあざけり、酸いぶどう酒を差し出して、37.「もしお前がユダヤ人たちの王なら自分を救え」と言った。38.イエスの頭の上方には、「これはユダヤ人たちの王」と書かれた罪状書きがあった。
39.十字架にかけられた犯罪人の一人がイエスを冒涜して言った。「お前はキリストではないか。自分と我々をも救ってみろ」。40.すると別の犯罪人が答えて彼を叱って言った。「お前はその人と同じ刑罰を受けているのに、神を畏れないのか。41.我々は自分の行ったことのふさわしい報いを受けているのだから当然だ。しかし、この人は何も間違ったことはしておられない。42.そして言った。「イエスよ、あなたが御国に行かれる時は、わたしを思い出してください」。43.するとイエスは彼に言われた。「あなたによく言っておく。今日、あなたはわたしと一緒に楽園にいるだろう」。
44.時はすでに十二時頃であった。地は全面暗くなり、三時に至った。45.太陽は光を失い、神殿の垂れ幕が真ん中から裂けた。46.そしてイエスは大声を上げて言われた。「父よ、わたしの霊をあなたの御手にお委ねします」。こう言って息を引き取られた。
47.この出来事を見た百人隊長は、神を賛美して「この人は本当に義なるお方であった」と言った。48.この光景を見に集まっていた群衆もみな、これらの出来事を見て胸を打ちたたきながら帰って行った。
49.イエスの知人たちと、ガリラヤからイエスに共に従ってきた婦人たちは皆、遠くから立ってこれらのことを見ていた。
50.さて、ここにヨセフという名の裕福な議員がいた。この人は善良な正しい人であった。51.―この人は議員たちの意見や行動には賛成していなかったーユダヤ人たちの町アリマタヤの出身で、彼は神の国を待ち望んでいた。52.この人がピラトのところへ行って、イエスの遺体を引き取りたいと願い出た。53.そして遺体を(十字架から)降ろして亜麻布でくるみ、岩に掘って作りまだ誰も葬られたことのない墓に納めた。54.その日は準備の日であって、安息日が始まりかけていた。

55.婦人たちは(ヨセフの)後からついて行った。彼女たちはガリラヤからイエスと一緒に来ていた婦人達で、墓とイエスの遺体が納められた様子を見届け、56.それから帰って香料と香油とを準備した。それから彼女たちは、戒めに従って安息日を休んだ。






  καὶ ἔλεγεν· Ἰησοῦ, μνήσθητί μου ὅταν ἔλθῃς εἰς τὴν βασιλείαν σου. (42)
 καὶ εἶπεν αὐτῷ· ἀμήν σοι λέγω, σήμερον μετʼ ἐμοῦ ἔσῃ ἐν τῷ παραδείσῳ.(43)

「そして言った。『イエスよ、あなたが御国に行かれる時には、私を思い出してください』」(42)
「するとイエスは彼に言われた。『あなたによく言っておく。今日、あなたはわたしと一緒に楽園(天の国)に居るだろう』」(43)

42と43節は、四つの福音書の中で、ルカだけが記録したイエスと犯罪人との言葉のやりとりである。42と43節で注目したいのは、救済の時に関するイエスと犯罪人のやりとりである。犯罪人はイエスに救いを求めたが、それはイエスが御国に行かれるであろう仮定の時を期待した。ὅταν ἔλθῃς は「仮定法(ギリシア語の接続法)」で、「もし行かれることになれば、その時は…」というニュアンスがこめられている。それに対してイエスの返答は非常に重要な意味を持っている。「よくあなたに言っておく」。これはイエスが常に重要な教えを語る時に言われるフレーズ。「これからあなたに大切なことを話します」という意味。そのあと、σήμερον(今日)が文頭に置かれ、「今日、あなたはわたしと一緒に楽園(天の国)に居るだろう」。「あなたの救いはあなたが信じた今日なのだ」と、「今日」という時がここで強調されているのである。新約聖書ギリシア語には、重要な言葉をまず最初にもってくるという特徴がある。
※43節はある一部の人々が、人が死んだら直ちにその人の霊が天国に行くとする一例と解釈するが、そうではなく、『あなたの救いは、あなたが信じた今日なのだ』、『今日、救いがあなたに訪れた』(ルカ19:9参照)

★「父よ、わたしの霊をあなたの御手にお委ねします」(46)
 「わたしの霊」=「わたしの息(神の命の息として与えられたもの)」