2011年6月30日木曜日

新約聖書原典「マルコによる福音書」4章の翻訳(私訳)

マルコによる福音書 

4章


1.イエスは再び湖のほとりで教え始められた。おびただしい群衆がイエスのもとに集まってきた。そのためイエスは湖で小舟に乗り込まれて座られたが、群衆はみな湖のそばで陸地にいた。2.イエスは彼らに多くの譬えによって教えておられ、その教えの中で彼らに言われた。
3.「聞きなさい。見よ、種をまく人が種まきに出かけた。4.まいていると、ある種は道端に落ちた。すると鳥たちが来て、それを食べ尽くしてしまった。5.また他の種は石地に落ちた。そこは土が少なく、すぐに芽を出したが、土が深くないので、6.日が昇ると焼けて、根がないために枯れてしまった。7.また他の種はいばらの中に落ちた。するといばらが伸びてそれを窒息させたので、実を結ばなかった。8.また他の種は良い地に落ちた。すると発芽し成長して実を結び、あるものは三十倍、あるものは六十倍、あるものは百倍の実を結んだ」。9.そして言われた。「聞く耳のある者は聞きなさい」。
10.そして一人だけになられた時、十二弟子たちと一緒にイエスの周りにいた人々が、それらの譬えについてイエスに尋ねた。11.そこでイエスは彼らに言われた。「あなたがたには神の国の奥義が与えられているが、外のこれらの人たちには、すべてが譬えによって語られる。12.それは、
『彼らは見ることは見るが認めず、
聞くことは聞くが理解せず、
立ち返って赦されることのない』ためである」。
13.そして彼らに言われた。「あなたがたはこの譬えを悟らないで、どうしてすべての譬えを理解することが出来るだろうか。14.種をまく人は、御言葉をまくのである。15.道端にまかれたものとは、こういう人たちのことである。そこに御言葉がまかれ、彼らが聞くと、すぐにサタンが来て、彼らにまかれた御言葉を取り上げてしまう。16.また石地の上にまかれたものとは、こういう人たちのことである。彼らは御言葉を聞くと、すぐに喜んでそれを受け入れるが、17.自分の内に根が無いので、少しの間は続いても、やがて、御言葉のゆえに苦難や迫害がやってくると、すぐにつまずいてしまう。18.またほかのものは、茨の中にまかれる人たちのことである。彼らは御言葉を聞く人たちであるが、19.この世の心配ごとと、富の享楽、その他いろいろな欲望が(心に)入り込み、御言葉を窒息させ、実を結ばせない。20.また良い地にまかれたものとは、つぎのような人たちのことである。彼らは御言葉を聞いて受け入れ、あるものは三十倍、あるものは六十倍、またあるものは百倍の実を結ぶ」。
21.また彼らに言われた。「あかりがもたらされるのは、升の下や寝台の下に置くためだろうか。燭台の上に置くためではないか。22.だから隠れているもので現れないものはなく、秘密のもので明るみに出ないものはない。23.聞く耳のある者は聞きなさい」。24.また彼らに言われた。「あなたがたは何を聞くのかに、注意を払いなさい。あなたがたが量るそのはかりで、あなたがたも量られ加えられる。25.持っている人は更に与えられ、持っていない人は持っているものも、その人から取り上げられるだろう」。
26.また言われた。「このように神の国は、地の上に種をまく人のようなものである。27.彼が、夜また昼と寝起きするうちに、種は芽を出し成長するが、どうしてそうなるのか、その人は知らない。28.地はひとりでに実を結ぶ。初めに茎と葉、次に穂、次に穂の中にいっぱいに実をつける。29.実が熟すと、すぐに鎌が入れられる。収穫の時期となったからである」。
30.また言われた。「神の国をどのように譬えようか。あるいはそれをどんな譬えで示そうか。31.それはちょうど、からし種のようなものである。それが土の上にまかれると、地上のどんな種よりも小さいが、32.まかれると成長して、どんな野菜よりも大きくなり、また大きな枝をはり、その木陰に空の鳥たちが巣を作れるほどになる」。
33.このようにイエスは彼らが聞いて理解できるように、多くの譬えで彼らに御言葉を語っておられた。34.譬えを用いないで彼らにお話になることはなかったが、ご自分の弟子たちにはひそかに、全てを説明しておられた。

35.その日の夕方になって、イエスは弟子たちに、「向こう岸へ渡ろう」と言われた。36.そこで一行は群衆を残し、弟子たちはイエスを舟に乗せたまま漕ぎ出した。ほかの数双の舟も一緒であった。37.すると激しい突風が起こり、高波が舟を襲い、そのためついに舟は水浸しになった。38.イエスは船尾で枕をして眠っておられたが、弟子たちはイエスを起こし、「先生、わたしたちが死んでもかまわないのですか」と言った。39.イエスは起き上がって風を叱り、湖に「静まれ、黙れ」と言われると、風はおさまり大凪になった。40.そして彼らに言われた。「なぜ怖がるのか。まだ信仰を持てないのか」。41.彼らは非常な恐れを抱いて、「風も湖もこの方に従うとは、この方はいったいどなただろう」と、互いに言い合っていた。



●「自然の中で聴く聖書」マルコによる福音書 4章
 
 
★受動態の意味すること
 
συνάγεται πρὸς αὐτὸν ὄχλος πλεῖστος (1)
 「おびただしい群集(人々)がイエスの傍らに集まってくる」。

4章の1節の συνάγεται は受動態であるから「集められる」と訳すほうがより原文の意味するところに近い。群衆は最初は興味半分で遠巻きにしてイエスを眺めているのだが、次第にイエスの教えに引きつけれ、導かれるようにして彼のそばに集まって来た(集められた)のだった。
 
καὶ διεγερθεὶς  「イエスは起き上がり」39
これも受動態である。38節で波にのまれそうになった弟子たちが、舟の艫のほうで寝ているイエスを起こした時の様子である。原文の意味は 「イエスは起こされて立ち上がり」 である。あの嵐の最中、波が舟に入り込んで、弟子たちが危険な状態となっているまさにその時にも、イエスは起こされるまで安心して寝ておられたのだろう。
 
★単数と複数
 
 種を蒔く人の譬えでは4種類の場所に種が蒔かれたとある。興味深いのは前の3つの場所(道端、石地、いばらの中)に落ちた種は、いずれも一粒の種(単数)であり(4~7節)、良い地に蒔かれた種は数粒又はそれ以上の種(複数)であること。良い地に蒔かれた種は30倍、60倍、100倍にも増えた。それは、「良い地」であることが、神のみ言葉の成長にとって重要な要素であるとともに、良い地にはより多くのみ言葉が蒔かれ成長するものである事も教えている。24、25節参照。