2014年9月17日水曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」8章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

8章


1.サウロは、ステファノを殺すことに賛成していた。その日、エルサレムの教会に対して激しい迫害が起きた。使徒たち以外はみな、ユダヤとサマリアの地方に散らされていった。2.敬虔な人々はステファノを葬り、彼のために非常な悲しみに暮れた。3.しかしサウロは教会を荒らし、家々に押し入って男たちも女たちも引きずり出し、牢に引き渡していた。
4.一方、散らされた人々は、御言葉を宣べ伝えながら巡り歩いた。5.フィリポはサマリアの町へ下って行き、彼らにキリストを告げ知らせていた。6.人々はフィリポの話に耳を傾け、彼が行っていた奇跡を見て、思いを一つにして聞き入っていた。7.実際、汚れた霊につかれた多くの者たちからは、(霊が)大声を張り上げて出て行き、多くの中風の者たち、足の不自由な者たちも癒された。8.その町には、大きな喜びがわき起こった。
9.さて、その町には以前からシモンという名の男がいて、魔術を使ってはサマリアの人たちを驚かせ、自分を何か偉い者のように言っていた。10.小さな者から大きな者まで皆が、「この人こそ神の力、偉大な方と呼ばれる人だ」と言ってこの男に注目していた。11.人々がこの男に注目していたのは、長い間その魔術に驚かされていたからである。12.しかし、人々は、フィリポが語る神の国とイエス・キリストの名についての福音の知らせを信じた時、男も女もバプテスマを受け始めた。13.シモン自身も信じてバプテスマを受け、フィリポにひたすらついて行き、奇跡と大きな力が現わされるのを見て驚いていた。
14.エルサレムにいる使徒たちは、サマリア(の人々)が神の言葉を受け入れたことを聞いて、ペトロとヨハネを彼らのところに遣わした。15.(サマリアに)下って行った二人は、聖霊を受けるようにと彼らのために祈った。16.それは彼らがキリスト・イエスの名によるバプテスマを受けただけで、(聖霊は)まだ彼らの誰の上にも下っていなかったからである。17.二人が彼らの上に手を置くと、彼らは聖霊を受けた。18.ところがシモンは、使徒たちが手を置くと霊が与えられるのを見て、二人に金を持って来て、19.言った。「わたしが手を置くと聖霊が受けられるように、その力をわたしにも授けてください」。20.しかしペトロが彼に向って言った。「お前の金は、お前もろとも滅んでしまえ。神の賜物が金で得られると思うからだ。21.このことは、お前のあずかり知らぬこと、関係のないことだ。お前の心が神の御前に正しくないからだ。22.だから、お前のこれらの悪を悔い改め、主に願え。お前の心の思いが、あるいは赦されるかも知れない。23.お前が苦い胆汁と不義に縛られた者であることは、わたしにはわかっている」。24.そこでシモンは答えて言った。「あなたがたの言われたことがわたしの身に起こらないように、わたしのために主に願ってください」。
25.こうして二人の弟子は主の言葉を厳かに証しして語り、サマリアの多くの村々に福音を宣べ伝えながらエルサレムに帰って行った。
26.さて、主の天使がフィリポに言った。「立って南へ行き、エルサレムからガザに下る道を進みなさい。そこは荒野である」。27.そこでフィリポは立って進んで行った。すると見よ、エチオピアの女王カンダケの高官で、女王の財宝全てを管理しているエチオピア人の宦官が、礼拝のためにエルサレムに来ていた。28.そして帰途についていて、自分の馬車に乗って預言者イザヤの書を読んでいた。29.すると霊がフィリポに言った。「近づいて行って、その馬車にぴったりとついて行きなさい」。30.そこでフィリポは走って行き、その人が預言者イザヤの書を読んでいるのを聴いて、「あなたが読んでおられることがお分かりですか」と言った。31.そこでその人は言った。「誰かが手引きしてくれなくて、どうして分かるでしょうか」。それで、その人は、(馬車に)乗って一緒に座るようにとフィリポに頼んだ。32.その人が読んでいた聖書の箇所はここであった。
『彼は羊のように、ほふり場に引かれて行った。
そして、毛を刈る者の前で黙っている羊のように、
その口を開かない。
33.[彼の]卑しさのために、
彼の裁きも取り上げられた。
誰がその子孫のことを語るだろうか。
彼の命が地から取り去られるからである。』
34.宦官が答えてフィリポに言った。「お尋ねしますが、預言者はだれについてこう言っているのでしょうか。自分についてですか、それともほかの誰かについてですか」。35.そこでフィリポは口を開いて、この聖書(の箇所)から始めてイエスのことを彼に宣べ伝えた。36.二人が道を進んで行くと、水のある所に来たので宦官が言った。「ご覧ください、水です。わたしがバプテスマを受けるのに、なにかわたしに差し支えがありますか」。38.そして馬車を止めるように命じ、フィリポと宦官は一緒に水の中に下りて行き、フィリポは宦官にバプテスマを授けた。39.水から上がると、主の霊がフィリポを連れ去った。宦官はもはやフィリポを見ることはなかったが、彼は喜びながら旅を続けた。40.フィリポはアゾトに現れ、カイサリアに着くまですべての町々を巡り歩いて福音を宣べ伝えた。



●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 8章

Ἰδὼν δὲ ὁ Σίμων ὅτι διὰ τῆς ἐπιθέσεως τῶν χειρῶν τῶν ἀποστόλων δίδοται τὸ πνεῦμα
「シモンは使徒たちが手を置くと霊が与えられるのを見て」(8)

フィリポはサマリアの人々に「イエスの名による」バプテスマを授けていたが、聖霊はまだ誰の上にもそそがれていなかった(16参照)。そこでペトロとヨハネがエルサレムから派遣されて、聖霊の注ぎを彼らのために祈った。洗礼者ヨハネからはじまった水によるバプテスマは確かにイエスの名を告白し受け入れることの人間の側の具体的意思表現ではあるが、一方、バプテスマに伴う神の側の行為、つまり聖霊の注ぎなくしては真のバプテスマは成立しない。イエスが「だれでも水と霊によって生まれなければ神の国に入ることはできない。肉から生まれた者は肉のままであり、霊から生まれた者は霊です」(ヨハネ福音書3:5.6)と言われたのはそのためである。8章で登場するシモンという魔術師の男もイエスの名によるバプテスマを確かに受けたには受けたが、聖霊を伴っていなかったがために、聖霊を金で買うことを思いつくというとんでもない行為に及んでしまった。まさに肉のままであったのである。上句の8節はそんなシモンが目にした予想もしない光景である。それは使徒たちが手を置くだけでタダで無償で与えられるものであった。そしてこの聖霊の注ぎはこの腹黒いシモンでさえ見ることのできた神のおどろくべき行為であったのである。


τί κωλύει με βαπτισθῆναι;
「私がバプテスマを受けるのに、なにか私を妨げてますか」(36)

上記の訳は直訳である。もう少し砕けば、「私がバプテスマを受けるのに、何の不都合がありますか」となる。このエチオピア人の宦官はエルサレムに礼拝し、旧約聖書のイザヤ書を読んでいることから、以前からユダヤ人の習慣にそった神を敬う人物であったらしい。27節で彼のことを「カンダケ女王の高官で女王の財宝すべてを管理するエチオピア人」(27)と紹介されているが、太字のところは別のようにも訳しうる。「ガザ地方をつかさどる」となる。ガザはエルサレムを中心とするユダヤに隣接した地中海地方の町でエルサレムに比較的近距離にある。フィリポは聖霊によってガザに通じる道に行くようにと示しを受け、この宦官がエルサレム神殿での礼拝後、帰途にあるとき二人は出会う。ガザには宦官の住居があり彼はここの町の統治をカンダケから任されていたのかも知れない。それは彼の誠実で真摯な人物であったことをうかがわせる。さて彼がおそらく数時間?馬車のうえでフィリポから聖書(イザヤ書53章)とイエスのことを聞き、バプテスマ(洗礼)を受ける決心をした。36節はその時に宦官がフィリポに問いかけた言葉である。この問いかけにフィリポがどう答えたかは書かれていないが、その後の記録から、全面的に宦官の決心に賛同したことは明らかである。




2014年9月2日火曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」7章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

7章


1.大祭司が言った。「そのとおりか」。2.ステファノは言った。「兄弟たち、父たちよ、お聞きください。栄光の神は、ハランに住む以前のメソポタミアにいるわたしたちの父アブラハムに現れ、3.彼に言われました。『あなたは自分の土地と親族を出て、あなたに示す地に来なさい』。4.そこで彼はカルデアの地を出てハランに住みました。彼の父の死後、神はあなたがたが今住んでいるこの地に彼を移住させられました。5.神はこの地では、一歩の幅すら彼に分け前を与えられませんでした。しかし神は、子供のいなかった彼にその死後、この地を所有として彼の子孫に与えると約束されたのです。6.神はこのように言われました。『彼の子孫は他の地で寄留者となり、人々は子孫を奴隷とし、四百年の間虐待するであろう』。7.また神は言われました。『わたしは奴隷とする異邦人を裁く。その後(その地を)出て、彼らはこの場所でわたしを礼拝するであろう』。8.そして神はアブラハムと割礼の契約を結ばれました。こうしてアブラハムはイサクをもうけ、八日目にイサクに割礼を施し、イサクはヤコブに、ヤコブは十二族長に割礼を施しました。
9.族長たちはヨセフをねたんでエジプトに売り渡してしまいましたが、神は彼と共におられました。10.神はヨセフをさまざまな試練から救い出し、エジプトの王ファラオの前に恵みと知恵とを授けられました。そしてファラオは彼をエジプトと王家の全体をつかさどる者に任命しました。11.しかし、エジプトとカナンの全土に飢饉が起きて大きな苦難が襲い、わたしたちの父祖たちは食糧を得ることができなくなりました。12.しかしヤコブはエジプトに穀物があると聞き、まずわたしたちの父祖たちをそこへ遣わしました。13.二度目のとき、ヨセフは自分のことを兄弟たちに打ち明け、ファラオにもヨセフの家族のことが知れることとなりました。14.そこでヨセフは使いをやって自分の父ヤコブと、七十五人の親族すべてを(エジプトに)呼び寄せました。15.ヤコブはエジプトへ下り、やがて彼は死に、わたしたちの父祖たちも死んで、16.シケムへ移され、アブラハムがシュケムでハモルの子らから幾らかの銀貨で買っておいた墓に納められました。
17.こうして神がアブラハムに誓われた約束の時が近づくにつれ、エジプトでは民が増え広がり、18.[エジプトに]ヨセフを知らない別の王が現れるまで(続きました)。19.この王はわたしたちの民を不当に扱い、[わたしたちの]父祖たちを苦しめ、赤子たちを捨てさせ、生かしておけないようにしました。20.この時期にモーセが生まれました。この子は神の(御心にかなった)美しい子で、父の家で三か月の間育てられました。21.しかし(その後)捨てられたのをファラオの娘が拾い上げ、その子を自分の子として育てました。22.モーセはエジプトのあらゆる知恵をもって教育を受け、言葉にも業にも力がありました。
23.モーセが四十歳になったころ、自分の兄弟であるイスラエルの子らに尽くそうと思い立ちました。24.そしてある人が虐待されているのを見て仕返しをし、不当に扱った人に復讐してそのエジプト人を打ち倒してしまいました。25.彼は、自分の手によって神が同胞に救いを与えられる、と兄弟たちが理解しているものと思っていたのですが、彼らは理解していませんでした。26.次の日、モーセは彼らが争っているのを見て仲直りさせようとして、『君たち、あなたがたは兄弟ではないか。どうして互いに傷つけ合うのか』と言いました。27.しかし、仲間を傷つけていた者がモーセを突き飛ばして言いました。『だれがあなたを立てて、我々の支配者また裁判人にしたのか。28.きのう、エジプト人を殺したように、わたしをも殺したいのか』。29.その言葉によってモーセは逃れ、ミディアンの地で放浪者となり、そこで二人の男子をもうけました。
30.四十年が満ちた時、シナイ山の荒野で天使が柴の燃える炎の中でモーセに現れました。31.モーセはその光景を見て驚きましたが、(その理由を)知ろうとして彼が近づいたとき主の声がしました。32.『わたしはあなたの父祖たちの神、アブラハム、イサク、ヤコブの神である』。モーセは恐ろしくなり、あえてそれ以上見ようとはしませんでした。33.そこで主は彼に言われました。『あなたの足の靴を脱ぎなさい。あなたが立っている場所は聖なる地だから。34.わたしはエジプトにいるわたしの民の苦しみを見、彼らのうめきを聞いた。だから彼らを助け出すためにわたしは下りて来た。さあ、今からあなたをエジプトに遣わそう』。
35.人々が、『誰があなたを指導者また裁判人に立てたのか』と言って拒んだこのモーセを、神は指導者また解放者として、柴の中で彼に現れた天使の御手によって(エジプトヘ)遣わされました。36.この人はエジプトの地でも紅海でも荒野でも、不思議と奇跡とを行いながら四十年の間、人々を導きました。37.このモーセがイスラエルの子らにこう言いました。『神はあなたがたの兄弟たちの中から、わたしのような預言者をあなたがたのために立てられるだろう』。38.この人は荒野の集会で、シナイ山で彼に語った天使とわたしたちの父祖たちとの間にいた人ですが、この人が生きた言葉を受けてわたしたちに与えたのです。39.しかし、わたしたちの父祖たちはこの人に従おうとはせず、彼を退けてエジプトをなつかしみ、40.『わたしたちに先だって歩いてくれる神々を作ってください。エジプトの地からわたしたちを導き出したあのモーセはどうなったかわかりませんから』とアロンに言いました。41.そうした頃に、彼らは子牛を作ってその偶像に犠牲をささげ、自分たちの手のなした業に喜んでいました。42.しかし神は背を向けられ、彼らが天の星を拝むままにされました。それは預言者たちの巻物にこう書いてあるとおりです。
『イスラエルの家よ、
あなたがたは荒野にいる四十年、
わたしに犠牲と供え物とを捧げたことがあったか。
43.あなたがたはモレクの宮を担ぎ、
[あなたがたの]神ライファンの星を担いだ。
あなたがたは、これらの偶像を拝むために作った。
だからわたしは、あなたがたをバビロンのかなたへ移住させる。』
44.荒野では、わたしたちの父祖たちのために証しの幕屋がありました。それは、示された型に従って作るようにとモーセにお語りになった方がお命じになったとおりのものでした。45.わたしたちの父祖たちはその幕屋を受け継ぎ、神がわたしたちの父祖たちの前から異邦人たちを追い出して、彼らの(土地を)占領するときには、ヨシュアと共にそれを(その地に)運び入れました。それはダヴィデの時代まで続きました。46.ダヴィデは神の御前に恵みを得て、ヤコブの家に(神が)宿られる場所を得たいと願いました。47.ところがソロモンが、神のために家を建てたのです。48.しかし、至高なる方は、(人の)手で造った家には住まわれません。預言者が言うように。
49.『天はわたしにとっての玉座、
地はわたしの足台である。
あなたがたは、わたしのためにどんな家を建てようと言うのか、
わたしの休む場所はどこか、と主は言われる。
50.これらはすべて、わたしの手が造ったものではないか。』
51.強情で心にも耳にも割礼のない者たちよ、あなたがたはいつも聖霊に逆らっている。あなたがたの父祖たちがそうしたように、あなたがたも(そうしている)。52.あなたがたの先祖たちが迫害しなかった預言者が一人でもいたでしょうか。彼らは、正しい方が来られることについて予告した人たちを殺したのです。そして今、あなたがたはその方を裏切る者、殺す者となったのです。53.あなたがたは天使たちの奉仕によって律法を受けたのに、誰もそれを守らなかったのです」。
54.人々はこれらのことを聞いて、気が狂わんばかりにステファノに対し歯ぎしりをした。55.ステファノは聖霊に満たされて天を見つめていたが、神の栄光とイエスが神の右に立っておられるのを見た。56.そして言った。「見よ、天が開けて、人の子が神の右に立っておられるのが見える」。57.すると彼らは大声を張り上げ自分たちの耳をふさぎ、ステファノめがけて一斉に突進し、58.都の外に連れ出して石打ちにしはじめた。立会人たちは、自分たちの上着をサウロという若者の足元に敷いた。59.人々はステファノを石打ちにしていたが、彼は上に呼びかけてこう言った。「主イエスよ、わたしの霊をお受けください」。60.それから、両ひざをついて大声で叫んだ。「主よ、この罪を彼らに負わせないでください」。こう言って彼は眠りについた。


●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 7章