2012年12月14日金曜日

新約聖書原典「マタイによる福音書」20章の翻訳(私訳)


マタイによる福音書 

20章


1.天の国は、自分のぶどう園に労働者たちを雇う為、朝早く出掛けた家の主人に似ている。2.さて、主人は労働者たちと一日一デナリオンの約束をして、彼らを自分のぶどう園へ遣わした。3.また、九時頃に出掛けると、広場で何もしないで立っている他の人たちを見て、4.その人たちに言った。『あなたがたもぶどう園へ行きなさい。公正な賃金を払うから』。5.そこで彼らは(ぶどう園へ)行った。また主人は十二時頃と三時頃にも出掛けて行き、同じようにした。6.また五時頃に出掛けると、他の人たちが立っているのを見て、彼らに『なぜ何もしないで一日中ここに立っているのか』と言った。7.彼らは主人に『だれもわたしたちを雇ってくれないのです』と言うと、主人は彼らに言った。『あなたがたもぶどう園へ行きなさい』。8.夕方となったので、ぶどう園の主人が自分の家令に言った。『労働者たちを呼んで、後の者たちから始めて、初めの者たちにいたるまで、彼らに賃金を払ってやりなさい』。9.そこで、五時頃に来た人たちから、各一デナリオンを受け取った。10.そこで最初に来た者たちは、自分たちはもっと多くもらえるだろうと思ったが、彼らも各一デナリオンを受け取った。11.受け取った者たちは、家の主人に対し不平を漏らして、12.言った。『この最後の者たちは一時間しか働きませんでした。なのに、あなたは暑い中を一日中、重い荷を運んだわたしたちを彼らと同じ扱いになさいました』。13.しかし、主人は彼らの一人に答えて言った。『友よ、わたしはあなたに不正なことはしていない。あなたはわたしと一デナリオンの約束をしたではないか。14.自分の賃金をもらって行きなさい。わたしはこの最後の者にも、あなたと同じように支払ってやりたいのだ。15.[それとも]わたしの物をわたしの思いどおりにすることがいけないのか。それとも、わたしが気前がよいので、ねたましく思うのか』。16.このように、あとの者たちは先になり、先の者たちはあとになるのである」。
17.イエスはエルサレムへ上るとき、十二人[の弟子たち]をひそかに連れて行かれたが、その道中、彼らに言われた。18.「見よ、わたしたちはエルサレムへ上って行くが、人の子は祭司長たちや、律法学者たちに引き渡され、彼らは彼に死を宣告し、19.彼をあざけり、鞭打ち、十字架にかけるために異邦人に引き渡すだろう。そして、彼は三日目に復活させられるだろう」。
20.その時、ゼベダイの息子たちの母親が、息子たちと一緒にイエスに近づいて来てひれ伏し、何かをイエスに願おうとした。21.そこでイエスは彼女に言われた。「何か願いがあるのか」。彼女はイエスに言った。「私のこれらの二人の息子たちが、あなたの国で、一人はあなたの右に、一人はあなたの左に座ることになるだろうと言ってください」。22.しかしイエスは答えて言われた。「あなたがたは、自分が何を願っているかわかっていない。あなたがたは、わたしが飲もうとしている杯を飲むことができるか」。彼らは「できます」と言った。23.イエスは彼らに言われた。「確かにあなたがたは、わたしの杯を飲むことになる。しかし、わたしの右、また左に座ることは、わたしが授けることではなく、わたしの父によって用意が整えられた人々に与えられるものである」。
24.十人の者はこれを聞き、二人の兄弟のことで憤慨した。25.そこでイエスは彼らを呼び寄せて言われた。「あなたがたが知っているように、異邦人たちの支配者は、民の上に権力をふるい、偉い者たちは民に対して権力をほしいままにしている。26.あなたがたの間では、そのようであってはならない。むしろ、あなたがたの間で偉くなりたいと思う者は、あなたがたに仕える者に、27.あなたがたの間で一番になりたい者は、あなたがたの僕となりなさい。28.人の子が仕えられるために来たのではなく、かえって仕えるために、そして、多くの人々のための身代金として、自分の命を与えるために来たのと同じように」。
29.一行がエリコから出て行くとき、多くの群衆がイエスに従った。30.すると見よ、道端に座っていた二人の盲人が、イエスの通られることを聞いて、叫んで言った。「[主よ、]ダヴィデの子よ、わたしたちを憐れんでください」。31.しかし、群衆は彼らを黙らせようと叱ったが、二人はますます叫んで言った。「主よ、ダヴィデの子よ、わたしたちを憐れんでください」。32.イエスは立ち止り、彼らに呼びかけて言われた。「何をしてほしいのか」。33.彼らはイエスに言った。「主よ、わたしたちの目を開けていただくことです」。34.そこでイエスは深い同情を寄せられ、彼らの目に触れられた。すると、彼らはすぐに見えるようになって、イエスに従った。


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●「自然の中で聴く聖書」マタイによる福音書  20章





2012年12月6日木曜日

新約聖書原典「マタイによる福音書」19章の翻訳(私訳)

マタイによる福音書 

19章


1.イエスはこれらの言葉を語り終えると、ガリラヤを去り、ヨルダンの反対側のユダヤの地方へ行かれた。2.大勢の群衆もイエスに従った。イエスはその所で彼らを癒された。
3.すると、ファリサイ派の人々がイエスを試みようとして近づき、「人は何かの理由があれば、自分の妻を離縁することは許されるのでしょうか」と言った。4.イエスは答えて言われた。「『創造主は、初めから彼らを男と女とに造られた』ということを読んだことがないのか」。5.そして言われた。「『この故に、人は父と母を離れ、その妻と結ばれ、二人の者は一つの体となるであろう』。6.彼らはもはや二人ではなく、一つの体なのである。だから、神が結び合わされたものを、人がこれを引き離してはならない」。7.彼らはイエスに言った。「では、どうしてモーセは、離縁状を渡して[妻を]離縁するように命じたのですか」。8.イエスは彼らに言われた。「モーセはあなたがたの心が強情なので、妻を離縁することを許したが、初めからそうではなかった。9.しかし、わたしはあなたがたに言う。姦淫でもないのに自分の妻を離縁し、他の女と結婚する者は、姦淫の罪を犯すのである」。
10.弟子たちがイエスに言った。「男と女の関係がこのようなものなら、結婚しない方が得です」。11.しかし、イエスは彼らに言われた。「全ての者たちが[この]言葉を受け入れることができるのではなく、ただ(受け入れる能力を)与えられた者たちだけである。12.というのは、母の胎から生まれながらにして独身者となる者たちがいる。また人々によって独身者とされた者たちもいる。また天の国の為に自分から独身者となった者たちもいるからである。受け入れることのできる人は、受け入れなさい」。
13.その時、手を置いて祈っていただく為に、人々が幼い子供たちをイエスのところに連れて来た。しかし、弟子たちは彼らを叱った。14.しかしイエスは言われた。「幼子たちをそのままにしてあげなさい。わたしのところに来るのを妨げてはならない。天の国はこのような者たちのものなのだから」。15.そして、彼らに手を置いてから、そこから立ち去られた。
16.すると見よ、ひとりの人がイエスに近寄って来て言った。「先生、永遠の命を得るために、どんな善いことを行えばいいのでしょうか」。17.イエスは彼に言われた。「善いことについて、なぜわたしに尋ねるのか。善い方は一人だけである。しかし、もしあなたが命に入りたいと願うなら、戒めを守りなさい」。18.彼はイエスに言った。「どの戒めですか」。そこでイエスは言われた。「これである。『あなたは殺してはならない。あなたは姦淫してはならない。あなたは盗んではならない。あなたは偽証してはならない。19.父と母を敬え。また、自分を愛するように、あなたの隣人を愛せよ』」。20.青年はイエスに言った。「わたしはこれら全てを保ってきました。ほかに何が足りないでしょうか」。21.イエスは彼に言われた。「あなたが完全でありたいのなら、行ってあなたの財産を売って、貧しい人々に与えなさい。そうすれば、あなたは天に宝を持つことになる。それから来て、わたしに従いなさい」。22.しかし、青年はこの言葉を聞いて、悲しみながら立ち去った。沢山の財産を持っていたからである。
23.そこで、イエスは弟子たちに言われた。「あなたがたによく言っておく。金持ちが天の国に入るのはむずかしい。24.さらに言うが、金持ちが神の国に入るより、らくだが針の穴を通り抜ける方がずっと易しい」。25.しかし、弟子たちはこれを聞いて非常に驚き、「では、誰が救われることができるのだろうか」と言った。26.イエスは彼らを見つめて言われた。「これは人間にはできないが、神には全てがおできになる」。

27.そのときペトロが答えてイエスに言った。「御覧ください、わたしたちは一切を捨ててあなたに従いました。では、何がいただけるのでしょうか」。28.イエスは彼らに言われた。「あなたがたによく言っておく。あなたがたはわたしに従ったので、新しい世界の更新において、人の子がその栄光の王座に座る時、あなたがたもイスラエルの十二の部族を裁く十二の座に座ることになる。29.また、だれでも、わたしの名のために、家、兄弟、姉妹、父、母、子供、畑を捨てた者はその百倍を受け、永遠の命を受け継ぐだろう。30.しかし、多くの先の者たちはあとになり、あとの者たちは先になるだろう」。

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●「自然の中で聴く聖書」マタイによる福音書  19章


★ εἰ δὲ θέλεις εἰς τὴν ζωὴν εἰσελθεῖν, τήρησον τὰς ἐντολάς. (17)
「もし、あなたが命に入りたいと望むなら、戒めを守りなさい」


イエスがこの青年に言われた戒め(τὰς ἐντολάς・タス  エントラース)複数である。ἐντολάς はモーセの律法の個々の条文、この場合は特に十戒を意味していることは、その後のイエスの言葉、五条から十条を示して語られたことからわかる。
さらに、イエスの言われた「守りなさい」(τήρησονテーレーソン) は、救いの『結果』としての順守を意味するのに対して、20節でこの青年が答えた「わたしはこれらすべてを守って(保って)きました」の『守ってきました』は、救いの『手段』としての順守を意味するφυλάσσω(フュラッソー)が使われている。これは「番をする」「見張る」という意味で、囚人を監視する語(番人、看守)から作られた動詞。ゆえに「義務として守る」「義務として保つ」という意味合いが強い。ゆえに、イエスが言われた「守りなさい」と青年が答えた「守ってきました」には意味内容に違いがあった。