2015年6月28日日曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」 27章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

27章


1.わたしたちがイタリアに向けて出航することが決まったので、彼らはパウロと他の囚人たちを、ユリウスという名の、皇帝の歩兵隊の百人隊長に引き渡した。2.一行はアジアに沿って各地を航行しようとしているアドラミティオンの船に乗って出航した。テサロニケ出身のマケドニア人アリスタルコもわたしたちと一緒であった。3.次の日、船はシドンに到着したが、ユリウスがパウロを親切に扱い、友人たちのところへ行ってもてなしを受けるのを許してくれた。4.そこから、わたしたちは船出したが、向かい風のためキプロス島の陰を航行し、5.キリキアとパンフィリアに沿って沖を航行してリキアのミラに到着した。6.そこで百人隊長がイタリア行きのアレクサンドリアの船を見つけて、わたしたちをその船に乗せた。7.幾日もの間、わたしたちはゆっくり航行し、ようやくクニドスの近くに来た。しかし、風に阻まれてそれ以上近づけず、サルモネ岬に沿ってクレタの島陰を航行し、8.ようやく島に沿って進み、ラサヤの町に近い「良い港」と呼ばれる所に着いた。
9.かなりの時が過ぎ、断食日もすでに過ぎていて、航海がすでに危険な状態になっていたので、パウロは忠告して、10.彼らに言った。「兄弟がた、この航海には、積荷や船体ばかりでなく、わたしたちの命の危険と多くの損失が伴っているとわたしは見ています」。11.しかし、百人隊長はパウロの言うことよりも、かじ手や船長のほう(の言うこと)を信用した。12.ただ、この港は冬を越すのには適さず、大多数の者たちが、そこから出航する意見に賛成したので、彼らはできるだけ、南西と北西に面したクレタの港フェニクスへ行って、(そこで)冬を過ごすことになった。
13.南風が静かに吹いてきたとき、彼らはその計画が達成できると考えて(錨を)上げ、クレタ島に沿って航行した。14.すると間もなく、エウラキロンと呼ばれる暴風が島から吹きおろして来た。15.船はそれに激しく引き回されて、風に向かって進めなくなり、流されるままになっていた。16.しかし、カウダと呼ばれる小さな島陰に来たので、かろうじて、小舟を自由に制御できるようになった。17.彼らはその小舟を引き上げてから、船体を、ロープを使って固く縛り、シルティスの浅瀬に座礁することを恐れて錨を降ろし、こうして流されるままになっていた。18.しかし、わたしたちは暴風に非常に悩まされたので、次の日には、人々は積荷を(海に)投げ捨て始め、19.そして三日目には、自らの手で船具を投げ捨てた。20.何日も太陽も星も現れず、嵐は激しく吹き荒れ、遂には、わたしたちの助かる望みはすべて絶たれようとしていた。
21.長い間、彼らは食事もとっていなかった。その時、パウロが彼らの真ん中に立って言った。「ああ、みなさん、こうなるのは当然です。わたしの忠告に従ってクレタ島から船出していなければ、こんな危険や損出は避けられたのです。22.ですから、今、わたしはあなたがたに勧めます。勇気を出しなさい。船以外に、あなたがたのうち、誰も命が失われることはないでしょう。23.昨夜、わたしが仕えている神の使いがわたしに現れて、24.こう言われました。『恐れるな、パウロ。あなたは皇帝の前に立たなければならない。見よ、神はあなたと共に航海している人々をみな、あなたに賜った』。25.だから、みなさん、勇気を出しなさい。神が、こうなるとわたしに話されたことは、その通りになるとわたしは信じていますから、26.わたしたちはどこかの島に打ち上げられる筈です」。
27.十四日目の夜となり、わたしたちがアドリア海を漂流していたとき、夜中に、船員たちはどこかの陸地に近づいていると感じはじめた。28.そこで、水深を測ったところ、約三十七メートルであることがわかった。さらに少し船を進めて再び測ったところ、約二十八メートルであることがわかった。29.船員たちは、(船が)岩礁に乗り上げるのではないかと恐れて、船尾から四つの錨を投げ込み、夜の明けるのを待った。30.しかし、船から逃げ出そうとしていた船乗りたちが、船首から錨を降ろすようなふりをして、小舟を海に降ろしたので、31.パウロが百人隊長と兵卒たちに言った。「もし、この人たちが船に残らなければ、あなたがたは助からない」。32.そのとき、兵卒たちは小舟のロープを切って、それが流されるままにした。
33.夜明けごろ、パウロはみんなの者たちに食事をとるように勧めて言った。「皆さんは今日までの十四日間、期待しながら何も食べずに頑張ってきました。34.ですから皆さんに食事をとるようにお勧めします。このことは、皆さんが生きるのに必要だからです。皆さんの頭から髪の毛一本も失われることはありません」。35.こう言ってからパウロはパンを取り、皆の前で神に感謝の祈りをささげて、それを裂いて食べ始めた。36.みんなの者は元気を取り戻し、彼らも食事をした。37.船の中には、わたしたち全部で二百七十六人がいた。38.充分に食事をしてから、彼らは穀物を海に投げ捨てて船を軽くした。

39.朝となり、どこの陸地かわからなかったが、どこかの砂浜のある入江だとわかったので、できるだけ船をそこへ乗り上げようということになった。40.そして、錨を切り離して海に捨て、同時に舵のロープを緩め、風の向きに対して帆を上げ、砂浜に向かって進んでいた。41.すると、浅瀬のところに出くわして船を座礁させてしまい、船首がめり込んで動かなくなり、船尾も[波の]勢いによって壊れ出した。42.そこで、兵卒たちは、囚人たちが泳いで逃げ出さないように、彼らを殺してしまおうと計った。43.しかし、百人隊長はパウロを助けたいと思って彼らのその計画をやめさせ、泳げる者たちが先に(海に)飛び込んで、陸に上がり、44.それからあとの者たちには、板切れや、船から流れ出た何かにつかまって(泳いで)行くよう命じた。こうして全員が陸に上がって助かった。



●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 27章


紀元1世紀ころの地中海の船の航行の様子を表した壁画。
(イタリア・パルマのエヴァンゲリスタ教会付属図書館ホールにて:訳者撮影)

2015年6月9日火曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」26章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

26章


1.そこで、アグリッパはパウロに、「お前自身について話すことを許す」と言うと、パウロは手を差し延べて弁明をし始めた。
2.「わたしがユダヤ人たちによって告訴されているあらゆることについて、アグリッパ王よ、今日、あなたの前で弁明できることを幸いに思います。3.あなたは、ユダヤ人たちの習慣も論点も、全てをよくご存知です。ですから、どうかわたしの話すことに忍耐をもってお聞きください。
4.さて、同胞の間でもエルサレムでも、わたしが最初から行った若いころの生活ぶりは、ユダヤ人ならみな知っています。5.彼らは以前からわたしを知っているのです。もし、彼らが証言しようと思えば(できることですが)、わたしは、わたしたちの宗教の中でも最も厳格な派に従って、ファリサイ派の一員として生活していました。6.そして今、わたしは、神がわたしたちの先祖たちに約束された希望を抱いているために、裁判を受けているのです。7.その約束を手に入れるため、わたしたちの十二部族は、夜も昼も熱心に望み(神に)仕えてきました。王よ、わたしはこの希望のために、ユダヤ人たちから訴えられているのです。8.神が死者たちを復活させるのに、なぜ、あなたがたは信じ難いことと判断なさるのですか。
9.実は、わたし自身も、ナザレのイエスの名については、大いに反対すべきだと考えておりました。10.そして、そのことをエルサレムにおいて実行し、このわたしが祭司長たちからの権限を受けて、大勢の聖徒たちを獄に閉じ込め、彼らが死の宣告を受けたときには、(賛成の)票を投じたのです。11.そして、すべての会堂ごとに、たびたび彼らを罰し、(神を)汚す言葉を強要し、彼らに対してますます怒り狂い、エルサレム以外の町々に対しても迫害を続けていました。
12.そのような中、わたしは祭司長たちの権限と委任状を携え、ダマスコへ向かって旅を続けていますと、13.王よ、わたしはその途中、真昼に天から、太陽の輝き以上の光が、わたしとわたしに同行していた者たちを巡り照らすのを見ました。14.わたしたちは皆、地に倒れました。そして、わたしにヘブライ語でこう呼びかける声を聞いたのです。『サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害するのか。突き棒を蹴ると、けがをする』。15.そこでわたしは言いました。『主よ、あなたはどなたですか』。すると主が言われました。『わたしは、あなたが迫害しているイエスである。16.起き上がって、あなたの足で立ちなさい。わたしがあなたに現れたのは、あなたを(わたしの)奉仕者として定め、あなたが[わたしを]見たこと、わたしがあなたに示そうとすることの証人とするためである。17.わたしはあなたを、この民と異邦人たちの中から選び出し、わたしがあなたを彼らに遣わす。18.それは、彼らの目を開いて暗闇から光へ、サタンの支配から神に立ち返らせ、彼らが、わたしへの信仰によって罪の赦しを受けて、聖なる者とされた人々の中にあって、(御国を)受け継ぐようになるためである』。
19.それですからアグリッパ王よ、わたしは天からの啓示に逆らわず、20.最初にダマスコにいる人々、それからエルサレムにいる人々、それからユダヤの全地域と異邦人たちに至るまで、わたしは悔い改めて神に立ち帰り、悔い改めにふさわしい行いをするようにと伝えてきました。21.そのためにユダヤ人たちは、神殿の庭にいたわたしを捕まえて殺そうと企てました。22.けれども、わたしは神からの助けを受けて、今日まで、小さな者にも大きな者にも証しを立ててきました。わたしは預言者たちやモーセが、やがて起ころうとしていると語った事柄以外には、何も話してはいないのです。23.キリストは、苦しみを受けられ、死者たちの中から最初に復活されたからには、その光を、この民にも異邦人たちにも知らせようとされたのです」。
24.ところが、パウロがこう弁明していると、フェストゥスが大声で言った。「パウロ、お前は気が狂っている。博学がお前を狂わせているのだ」。25.しかしパウロが言った。「フェストゥス閣下、わたしは気が狂ってはいません。ただ、真実と良識をもって言葉を話しているのです。26.王はこれらのことについては理解しておられますので、これについては、わたしは率直に申し上げます。このことは片隅で起こった事ではありませんので、王はこれらの[何にも]気づかれてないことはないとわたしは確信しております。27.アグリッパ王よ、あなたは預言者たちを信じておられますか。信じておられることは、わかっています」。28.しかし、アグリッパ王はパウロに向かって(言った)。「お前は、僅かな言葉で、わたしをクリスチャンにしようとしている」。29.そこでパウロが(言った)。(言葉が)短かろうと長かろうと、わたしが神に願うのは、あなただけでなく、今日、わたしの言葉を聞いておられる全ての方々が、わたしのようになってくださることです。これらの鎖は別ですが」。

30.そこで、王と総督、ベルニケ、そして彼らと一緒に(裁判の席に)ついていた人々も立ち上がり、31.互いに、「この人は、死刑や投獄に値することは何一つしていない」と言いながら引き上げて行った。32.そしてアグリッパはフェストゥスに、「あの人は、皇帝に上訴していなかったなら、釈放されていただろう」と言った。


●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 26章


★「約束された希望を抱いているために」(6)
  「この希望のために」(7)
 「キリストは確かに苦しみを受けられ、死者たちの中から最初に復活されたのですから、」(23)

パウロの弁明の中心はあくまでも「復活の希望」についてであった。この信仰は、ファリサイ派の支持を得て、パウロにとってこの裁判は有利なものとなったが(31、32)、すでにパウロはこのとき、皇帝への上訴を希望していたので、カイサリアでの裁判は結審されず、パウロの身柄はローマへと送られることになった。

2015年6月2日火曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」25章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

25章


1.フェストゥスは州(の総督)に着任すると、三日後にカイサリアからエルサレムに上った。2.すると、祭司長たちと、ユダヤ人のおもだった人たちが総督のところに来て、パウロを訴えて、3.彼を、「エルサレムに連れ戻すよう取り計らっていただきたい」と懇願した。彼らは途中で待ち伏せして彼を殺そうと陰謀をたくらんでいたのである。4.そこで、フェストゥスは、「パウロはカイサリアで監禁されていて、自分も急いで戻ろうとしているのだ」と答え、5.「それでは、もし、あの男に何か不都合なことがあるなら、あなたがたの中の有力者たちが一緒に下って来て、彼を告発するがよい」と言った。
6.総督は、八日か十日ほど彼らの間で過ごしてから、カイサリアへ下って行き、翌日、裁判の席に着き、パウロを連れて来るように命じた。7.パウロが現れると、エルサレムから下って来た多くのユダヤ人たちが彼を取り囲み、多くの厳しい罪状を持ち出してはみたが、それらを立証することはできなかった。8.パウロは、「わたしは、ユダヤ人たちの律法に対しても、神殿に対しても、ローマ皇帝に対しても、何も罪を犯してはいません」と弁明した。9.しかし、フェストゥスは、ユダヤ人たちに気に入られようとして、パウロに答えて言った。「お前はエルサレムに上って行って、そこでこれらの件について、わたしの前で裁判を受けたいか」。10.そこでパウロが言った。「わたしは皇帝の法廷に立っているのです。ここでわたしは裁きを受けるべきです。わたしがユダヤ人たちに対して何も悪いことをしていないことは、あなたもよくご存知です。11.そこで、もし、わたしが悪を行い、何か死に価することをしたのであれば、わたしは死を免れようとは思いません。しかし、もし、この人たちが訴えているようなことをしていないのなら、誰もわたしを彼らに引き渡すことはできません。わたしは皇帝に上訴します」。12.その時フェストゥスは、陪審員と相談の上、「お前は、皇帝に上訴したのだから、皇帝のもとに行くように」と答えた。
13.数日が経ち、アグリッパ王とベルニケがフェストゥスを表敬訪問するためカイサリアに下って来た。14.二人は幾日もそこに滞在していたので、フェストゥスは王に、パウロのことについて説明して言った。「フェリクスが囚人として残して行った男がいます。15.彼については、わたしがエルサレムに行ったとき、祭司長たちと、ユダヤ人の長老たちが訴えて来て、罪の宣告を要求したのです。16.彼らには、『その前に、訴えられた人が、その告発について、訴えた人たちの面前で弁明の機会も与えられないで引き渡されるのは、ローマ人の慣習ではない』と答えました。17.それで、彼らは(わたしと)一緒にこの地に来ましたので、わたしは延ばすことなく次の日、裁判の席に着いて、その男を連れて来るように命じました。18.その男について告発人たちは立ち上がりましたが、わたしが予想していた責めを負うべき何の悪も指し示すことができませんでした。19.ところで、彼らがこの男に対して抱いている論点は、彼ら自身の宗教に関することと、パウロが『生きている』と証言しているところの、死んだイエスという者に関することなのです。20.わたしは、これらについてはどう調査してよいか分からないので、彼には、『エルサレムへ行って、そこでこれらの件について裁判を受けたいか』と尋ねました。21.しかし、パウロは皇帝の審判を(受ける)まで自分を(カイサリアに)とどめてほしいと願いましたので、わたしは皇帝のもとに送り届けるまで、彼をとどめておくように命じました」。22.そこで、アグリッパがフェストゥスに、「わたしも、その人の話を聞いてみたい」と言ったので、(フェストゥスは)「では明日、彼から話をお聞きください」と言った。

 23.さて、翌日、アグリッパとベルニケは見せびらかしの装飾を身につけて現れ、千人隊長たちや町のおもだった人々と共に聞き取り所に入り、フェストゥスの命令でパウロが連れて来られた。24.そして、フェストゥスが言った。「アグリッパ王とご列席の方々、この男をご覧ください。ユダヤ人たちの誰もが、もはや生かしておくべきではないと叫んで、エルサレムでもここでも、わたしに告訴しているのはこの男のことです。25.しかし、わたしは、この男には死に当たる行為は何もないことが分かりました。この者は皇帝に上訴しましたので、わたしは(この者を皇帝に)送ることに決めました。26.(しかし、)この者について、主君には確かな事が何も書けません。ですから、あらかじめ、彼をあなたがたの前に、特にアグリッパ王よ、あなたの前に彼を連れて来ました。調査してみれば、わたしが(主君)に書くものが、何か得られるかも知れません。27.囚人を護送するのに、その理由を示さないというのは、理に合わないとわたしには思えるからです」。


●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 25章



パウロが囚われの身となったカイサリア。この町でパウロはカイサリア州総督フェリクスとフェストのもと囚人としての日々を過ごした。
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