2015年2月17日火曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」16章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

16章


1.パウロはデルベおよびリストラへと下って行ったが、見よ、そこにテモテという名の弟子がいた。信仰深いユダヤ婦人の子で、父はギリシア人であった。2.彼はリストラとイコニオンの兄弟たちの間で、評判のよい人であった。3.パウロはこの人を自分と一緒に連れて行きたかったので、そこの地方にいるユダヤ人たちの手前、彼に割礼を受けさせた。彼の父親がギリシア人であることを、その地方にいる者たちは皆、知っていたからである。4.さて、一行は町々を巡回しながら、エルサレムにいる使徒たちや長老たちによって決められた規定を守るようにと彼らに伝えた。5.こうして諸教会は信仰が強められ、日ごとに人数が増えていった。
6.しかし、彼らはアジアで御言葉を語ることを聖霊によって禁じられたので、フリギアとガラテヤ地方を通って行った。7.彼らがミシアのあたりに来たとき、ビティニアに進んで行こうとしたが、イエスの御霊が彼ら(の計画)をお許しにならなかった。8.そこで、ミシアを通過しトロアスへ下って行った。9.ところが夜、パウロに幻が示され、一人のマケドニア人が立ってパウロに、「マケドニアに渡って来て、わたしたちを助けてください」と懇願するのであった。10.パウロが幻を見たとき、神が彼らに福音を伝えるために自分たちを召しておられるのだとの結論に至ったので、わたしたちは急いでマケドニアへ出かけることにした。
11.それから、わたしたちはトロアスから出航してサモトラケ島に直航し、次の日ネアポリスの港に着いた。12.そこからフィリピへ行った。この町はマケドニア地方の主要都市で(ローマの)植民地であった。わたしたちはその町に幾日か滞在していた。13.安息日に、わたしたちは(町の)門の祈りの場所と思われる川岸に出掛けて行って腰をおろし、集まって来た婦人たちに話をしていた。14.そこにティアティラの町の紫布の商人で、神を敬うリディアという名の婦人が聞いていた。主はパウロによって語られる言葉に注意を向けさせようと、彼女の心を開かれた。15.それから彼女も、その家族もバプテスマを受けたとき、懇願して、「もし私を、主を信じる者とお思いでしたら、私の家に来てお泊りください」と言って、強いてわたしたちを引き止めた。
16.わたしたちが祈りの場所に行こうとして歩いていると、ひとりの占いの霊につかれた女奴隷に出会った。この女は運勢を予言して、主人たちに多くの利益を得させていた。17.この女がパウロやわたしたちについて来て、「この人たちはいと高き神のしもべたちで、救いの道をあなたがたに伝える方々だ」と言って叫んでいた。18.幾日もこのようなことをしていたので、パウロは困り果て振り向いて霊に言った。「イエス・キリストの名によってお前に命じる。彼女から出て行け」。すると霊はちょうどその時に出て行った。
19.ところが、彼女の主人たちは、自分たちの商売の望みがなくなってしまったのを知ってパウロとシラスを捕らえ、役人たちに訴えるために広場へ引っ張って行った。20.そして二人を長官たちのところへ連れて行って言った。「この者たちはユダヤ人でありまして、わたしたちの町をかき乱しております。21.また、ローマ市民であるわたしたちには受け入れることも実行することも許されない慣習を宣伝しております」。22.群衆も彼らと一緒になって責め立てたので、長官たちは二人の衣服をはぎ取り、鞭で打つように命じた。23.何度も鞭打ってから二人を牢に閉じ込め、看守には二人をしっかり見張るように命じた。24.このような命令を受けた看守は二人を奥の牢に入れ、彼らの足を木の足かせにつないでおいた。
25.ところが、夜中に、パウロとシラスが神に祈り、讃美の歌を歌っていて、囚人たちが二人の讃美に聞き入っていた。26.すると突然、大きな地震がおこった。そのために牢の土台が揺れ動き、たちまち戸がみな開き、全ての鎖も外れてしまった。27.看守は目を覚ましたが、牢の戸が開いているのを見て囚人たちが逃げてしまったものと思い、剣を抜いて自殺しようとした。28.しかしパウロが大声で叫んで、「自害してはいけない。わたしたちは皆ここにいる」と言った。29.看守は明かりを要求して(牢の中に)駆け込み、震えおののきながらパウロとシラスの前にひれ伏し、30.二人を外へ出して言った。「ご主人様方、わたしが救われるために何をすべきでしょうか」。31.二人は言った。「主イエスを信じなさい。そうすれば、あなたもあなたの家族も救われます」。32.そして二人は、看守と彼の家にいる者たち全員に主の言葉を語った。33.看守はその夜の時間に、二人を引き取ってその打ち傷を洗い、看守もその家族の者たちも皆、直ちにバプテスマを受けた。34.それから看守は二人を自分の家に連れて行って食事を提供し、神を信じる者になったことを家族共に喜んだ。

35.朝になると、長官たちは下役たちを送って、「あの人たちを釈放せよ」と言わせた。36.看守は、[これらの]言葉をパウロに伝え、「長官たちが(お二人を)解放するようにと(下役たちを)よこしました。ですから今、(ここを)出て、安らかにお行きください」と言った。37.しかし、パウロは下役たちに言った。「彼らはローマ帝国の市民であるわたしたちを裁判にもかけないで、公衆の面前で鞭打ち牢に入れておきながら、今ひそかにわたしたちを(牢から)出そうとするのか。それはいけない。長官たちが来てわたしたちを連れ出しなさい」。38.そこで下役たちは、これらの言葉を長官たちに報告した。すると彼らは、二人がローマ帝国の市民であると聞いて恐れ、39.やって来て二人を呼んで(牢から)連れ出し、この町から立ち去ってくれるようにと頼んだ。40.そこで二人は牢を出てリディアのところに行き、兄弟たちに会って彼らを励ましてから出発した。



●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 16章


★10~16節で突然「私たちは」と一人称複数となっていることから、「使徒たちの働き」の著者であるルカがパウロの第二次伝道旅行にリストラで加わったティモテと共に加わったか、アンティオキアから同行したと思われる。

τί με δεῖ ποιεῖν ἵνα σωθῶ; (30)
 
 「わたしが救われるために何をすべきでしょうか」 δεῖ は(…ねばならない)の意味。この看守は救いのためにどんなことをすべきかをまず考えたのであった。人は救われるためには「なにかをしなければならない」と考えるかもしれないが、パウロの答えはただひとつ、「主イエスを信じなさい」であった。