2015年3月20日金曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」18章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

18章


1.その後、パウロはアテネを去ってコリントへ行った。2.そこで、ポントス生まれのユダヤ人で、クラウディウス帝が、「全てのユダヤ人をローマから退去させよ」と命じたことにより、最近イタリアから来たアキラと、その妻のプリスキラに出会った。パウロは二人の所に行き、3.同業者であったので、彼らのところに泊って仕事をしていた。テント造りが職業であった。4.パウロは安息日ごとに会堂で論じては、ユダヤ人たちやギリシア人たちの説得にあたっていた。
5.シラスとテモテがマケドニアから下って来ると、パウロはみ言葉(を語ること)に専念し、イエスがキリストであることをユダヤ人たちに力強く証しした。6.しかし、彼らが(パウロに)反抗し、ののしり続けるので、パウロは上着を振り払って彼らに言った。「あなたがたの血はあなたがたの頭に(ふりかかれ)。わたしには責任がない。今からわたしは異邦人の方へ行く」。7.こうしてパウロはそこを立ち去って、神を敬うティティオ・ユストという名の人の家に行った。その人の家は会堂の隣にあった。8.それで、会堂長クリスポは家族一同と共に主を信じた。また、コリントの多くの人々も(パウロの言葉を)聞いて信じ、バプテスマを受けた。9.また、主が夜、夢のうちにパウロに(現れて)言われた。「恐れるな、語り続けなさい。黙っているな。10.わたしがあなたと共にいるので、誰もあなたに手をかけて、あなたに危害を加える者はいない。この町にはわたしの民が大勢いるのだから」。11.そこでパウロは一年六か月の間、彼らの間に滞在して、神の言葉を教えた。
12.ガリオンがアカイアの総督であったとき、ユダヤ人たちは一致してパウロに逆らい、彼を法廷に引いて行って、13.「この男は律法に逆らって、人々に神を拝むようそそのかしています」と言った。14.パウロが口を開こうとすると、ガリオンがユダヤ人たちに向かって言った。「これが不正や悪事のことであれば、ユダヤ人たちよ、諸君の訴えを聞き入れよう。15.しかし、問題が諸君に関する教えや名称や律法のことであれば、自分たちで解決するがよい。わたしはこのようなことの裁判人にはなりたくない」。16.そしてガリオンは彼らを法廷から追い出した。17.しかしみんなは会堂長のソステネを捕らえて、法廷の前で打ちたたいた。ガリオンは、そのようなことには無関心であった。
18.さて、パウロはなお多くの日数を過ごしてから兄弟たちに別れを告げ、シリアに向けて出帆した。プリスキラとアキラも一緒であった。パウロは誓願を立てていたので、ケンクレアイで頭を刈った。19.そして一行はエフェソに到着し、パウロは二人をそこに残して、自分だけ会堂に入ってユダヤ人たちと論じた。20.彼らは、長い期間滞在してくれるようにとパウロに頼んだが、パウロは聞き入れず、21.別れ際に、「神のみこころであれば、またあなたがたのところに戻ってこよう」と言ってエフェソから出帆した。22.そしてカイサリアに到着し、教会に挨拶するために(エルサレムに)上ってから、アンティオキアに下って行った。23.しばらくの時を経てから、パウロはガラテヤとフリギア地方を順次行き巡るために出掛け、すべての弟子たちを力づけた。

24.さて、アレクサンドリア生まれのユダヤ人で、聖書に精通したアポロという名の雄弁家がエフェソに来た。25.この人は主の道を教える人で、イエスのことについて熱心に語り、正確に教えていたが、ヨハネのバプテスマしか知らなかった。26.この人が会堂で大胆に語り始めた。しかし、アポロの話を聞いたプリスキラとアキラは彼を(家に)招いて、神の道をさらに詳しく説明した。27.さて、アポロがアカイアに行くことを望んでいたので、兄弟たちは(彼を)力づけてから、そこの弟子たちに彼を歓迎してくれるようにと手紙を書いた。アポロは到着すると、恵みによってすでに信者になっていた人たちを大いに助けた。28.彼が、イエスはキリストであることを聖書によって公衆の前に示して、熱烈にユダヤ人たちを論破したからである。



●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 18章



★「わたしには責任がない」(6)
 直訳は「わたしは潔白だ」である。

μὴ φοβοῦ, ἀλλὰ λάλει καὶ μὴ σιωπήσῃς (9)
「恐れるな。黙っていないで、語りつづけなさい」 μὴ σιωπήσῃς は不定過去の接続法なので9節はこのように訳すのがより正しい。



2015年3月12日木曜日

新約聖書原典「使徒たちの働き」17章の翻訳(私訳)


使徒たちの働き 

17章


1.一行は、アンフィポリスとアポロニアを通ってテサロニケヘ行った。そこにはユダヤ人たちの会堂があった。2.パウロは習慣に従い彼らのところに行って、三つの安息日にわたって彼らと聖書に基づいて論じた。3.キリストは苦しみを受け、死者たちの中から復活しなければならないこと、また、「この方こそ、わたしがあなたがたに伝えているキリスト・イエスである」と説明し、また論証もした。4.彼らの中のある者たちは納得して、パウロとシラスに従った。さらには神を敬うギリシア人も多数おり、おもだった婦人たちも少なくなかった。5.しかし(これを)ねたんだユダヤ人たちは、広場にいる幾人かのならず者たちを仲間に引き入れて暴動をおこし、町を混乱に陥れた。そしてヤソンの家に押しかけ、二人を集まった民衆の前に引き出そうとして捜した。6.しかし、彼らは二人を見つけることができなかったので、ヤソンと数人の兄弟らを町の役人たちのところへ引っ張って行って、こう叫んだ。「帝国中をかき乱してきた者たちが、ここにも来ています。7.彼らをヤソンが家に迎え入れました。そして彼らはみな『イエスという別の王がいる』と言って、皇帝の勅令に背く行動をしています」。8.こうしてユダヤ人たちは、これらのことを聞いた群衆と町の役人たちを扇動した。9.役人たちは、ヤソンとほかの者たちから保証金を取ったうえ彼らを釈放した。
10.そこで兄弟たちは、急いで夜の間にパウロとシラスをベレアヘ送り出した。そこに到着した二人は、ユダヤ人たちの会堂へ出かけて行った。11.ここにいるユダヤ人たちは、テサロニケにいるユダヤ人たちより素直な人たちで、大いに喜んで御言葉を受け入れ、はたしてその通りかどうか日々、聖書を調べていた。12.そこで、彼らの中の多くの者たちが信じ、上品なギリシア婦人たちと男たちも少なからずいた。13.ところが、テサロニケのユダヤ人たちは、ベレアでもパウロによって神の言葉が宣べ伝えられていることを知って、ここへもやって来て群衆を扇動し騒ぎを起こした。14.その時すぐに兄弟たちはパウロを送り出して海辺まで行かせたが、シラスとテモテはそこにとどまった。15.パウロに付き添っている人々は彼をアテネまで連れて行った。そして、シラスとテモテに出来るだけ早く自分のところに来るようにとの(パウロの)指示を受けて帰って行った。
16.パウロはアテネで彼らを待っている間に、町に偶像が満ちているのを見て心に憤りを感じた。17.そこで、会堂ではユダヤ人たちや神を敬う人たちと、また広場では居合わせた人たちと毎日論じ合っていた。18.また、エピクロス派やストア派の哲学者たちの幾人かも議論に加わっていた。そしてある者たちは、「このおしゃべりは何を言いたいのか」と言い、ある者たちは、「異国の神々を宣伝しているのだろう」と言っていた。パウロがイエスと復活を宣べ伝えていたからである。19.それで彼らは、パウロをアレオパゴスの丘に連れて行って言った。「あなたが話しているこの新しい教えがどんなものか、教えてもらえないだろうか。20.わたしたちに聞かせようと、あなたは何かびっくりするようなことを持ちこんでいるようだが、それが何を意味するのか知りたいのだ」。21.すべてのアテネ人たちや、そこに住む異国の人たちは、なにか新しいことを話したり聞いたりすること以外、何の目的もなく時を費やしていたのである。22.そこでパウロはアレオパゴスの真ん中に立って言った。
「アテネの諸君、あなたがたはあらゆる点において宗教心の厚い方々であるとわたしは見ています。23.わたしが(町を)歩きながら、あなたがたの拝んでいるものを注意深く観察しているとき、『知らない神に』と書かれた祭壇を見つけました。そこでわたしは、あなたがたが知らずに拝んでいるもの、これをあなたがたに教えてあげよう。24.この世界とその中の全てのものを造られた神は、天と地との主ですから、手で造った神殿などにはお住みになりません。25.また、何か不足でもしているかのように、人の手によって仕えられる必要もありません。あらゆるものに命と息と、すべてのものを与えておられるお方です。26.さらに、一人の人から全人類をおつくりになり、地の全面に住まわせ、時代と人々の住む境界とを定めてくださったのです。27.これは神を求めさせるためで、もし、人々が神を探し求めさえすれば、見出すことができるようになるのです。事実、神はわたしたち一人ひとりから遠く離れておられるのではありません。
28.あなたがたの中のある詩人たちも、『我々はその子孫である』と言ったように、確かに、わたしたちは神の内に生き、動き、存在しているのです。29.神の子孫なのですから、わたしたちは、人間の技術や考えで刻んだ金や銀や石の像を、神と同じものと考えるべきではありません。30.神はこのような無知な時代を見過ごして来られましたが、今は、どこにいる人々でも、みな悔い改めるようにと命じておられるのです。31.なぜなら、神は、定められた方により、義によってこの世界を裁こうとその日を定め、死者たちの中からその方を復活させ、全ての人々に確信を与えられたからです」。

32.死者の復活のことを聞くと、ある者たちはあざ笑い、ある者たちは「このことについては、また聞くことにする」と言った。33.こうしてパウロは、彼らの間から出て行った。34.しかし、パウロに従って信じた人々も幾人かはいた。その中には、アレオパゴスの(裁判人)ディオニシオ、またダマリスという名の婦人や、彼らと共に他の人々もいた。



●「自然の中で聴く聖書」使徒たちの働き 17章



★アレオパゴス
 
 アテネ市街のはずれにそそり立つアクロポリスの眼下にある岩山のこと。ここにパウロの時代に裁判所のような建物が建てられていた。今は岩山だけが残るが建物の跡らしいものは残っていない。この岩の上に立ってパウロは演説した。
アクロポリス中腹よりアレオパゴスの岩山とアテネ市街を望む。中央手前に岩山があり、人の姿が見える。
アレオパゴスの岩山。この上でパウロが演説を行った。
アレオパゴスの背後にアクロポリスがそびえ立ち、その切り立った丘の上に有名なパルテノン神殿がある。その前に立つのは筆者。