2012年7月5日木曜日

新約聖書原典「マタイによる福音書」9章の翻訳(私訳)

マタイによる福音書

9章


1.イエスは舟に乗り(湖を)渡ってご自分の町へ行かれた。2.すると見よ、人々が中風の人を、寝床に寝かせたままイエスのもとに運んできた。イエスは彼らの信仰をご覧になって、中風の人に言われた。「子よ、元気を出しなさい。あなたの罪は赦されている」。3.すると見よ、ある律法学者たちが心の中で、「この人は神を冒涜している」と言った。4.するとイエスは彼らの考えを見抜いて言われた。「どうしてあなたがたは、心の中で悪い考えを抱くのか。5.『あなたの罪は赦されている』と言うのと、『起きて歩け』と言うのと、どちらが易しいか。6.しかし、人の子はこの地上で、罪を赦す権能を持っていることが、あなたがたに分かるために」と言い、中風の人に言われた。「起きて、あなたの寝床を持ち上げて自分の家に帰りなさい」。7.するとその人は起き上り、自分の家に帰って行った。8.群衆は、これを見て畏れ、このような権威を人々にお与えになった神をほめたたえた。
9.さて、イエスはそこから進んで行かれると、マタイという人が収税所に座っているのをご覧になって、彼に「わたしに従いなさい」と言われた。すると彼は立ち上がり、イエスに従った。
10.さて、イエスは(マタイの)家で食事の席についておられた。大勢の徴税人たちや罪人たちも来て、イエスやその弟子たちと一緒に食事の席についていた。11.するとファリサイ派の人々がこれを見て、イエスの弟子たちに言った。「どうしてあなたがたの先生は、徴税人たちや、罪人たちと一緒に食事をするのですか」。12.しかし、イエスはこれを聞いて言われた。「じょうぶな人々には医者はいらない。いるのは病人たちである。13.『わたしが欲するのは憐みであって、いけにえではない』とはどういうことか、行って学んできなさい。わたしは、義人たちを招くために来たのではなく、むしろ罪人たちを招くために来たのだから」。
14.その時、ヨハネの弟子たちがイエスに近づいて来て言った。「わたしたちとファリサイ派の人たちが[きちんと]断食をしているのに、どうしてあなたの弟子たちは断食をしないのですか」。15.イエスは彼らに言われた。「婚礼の子らは、花婿が彼らと一緒にいるのに、悲しむことが出来るだろうか。しかし、花婿が彼らから奪い去られる日が来る。その時、彼らは断食するだろう。16.誰も、真新しい布切れで、古い衣服の上につぎを当てたりはしない。そのつぎが(古い)衣服を引き裂き、破れが更にひどくなるからである。17.また、新しいぶどう酒を、古い皮袋に入れたりもしない。そんなことをすれば皮袋は引き裂かれ、ぶどう酒は流れ出て、皮袋もだめになる。むしろ新しいぶどう酒は、新しい皮袋に入れるものだ。そうすれば両方ともに守られる」。
18.イエスがこれらのことを彼らに話しておられると、見よ、一人の司が来てイエスにひれ伏し、「わたしの娘がただ今死にました。どうぞ来て、あなたの手を娘の上に置いてやってください。そうすれば娘は生き返ります」。19.そこでイエスは立ち上がり、司について行かれた。弟子たちもついて行った。
20.すると見よ、十二年間も出血病を患っている女が近寄って来て、後ろからイエスの衣の裾に触れた。21.それは、イエスの衣に触りさえすれば、助けていただけるだろうと思っていたからである。22.イエスは振り向き、彼女を見て言われた。「娘よ、元気を出しなさい。あなたの信仰があなたを救ったのだ」。女はその時から救われた。
23.さて、イエスが司の家に行かれると、笛を吹く人たちや、騒いでいる群衆をご覧になって、24.言われた。「退きなさい。少女は死んだのではなく、眠っているのだから」。人々はイエスをあざ笑っていた。25.群衆を外に出してから、イエスは中へ入って行かれ、彼女の手をしっかりと握られた。すると少女は起き上った。26.この知らせは、その地方全体に広まった。
27.イエスがそこを去って行かれると、二人の盲人が[イエスに]ついて来て、叫んで「ダヴィデの子よ、わたしたちを憐れんでください」と言った。28.イエスが家に入られると、盲人たちがイエスに近寄って来たので、イエスは彼らに「わたしにこれを行うことができると信じるか」と言われた。彼らはイエスに「はい信じます、主よ」と言った。29.イエスは彼らの目に触れて、「あなたがたの信仰どおりに、あなたがたになるように」と言われた。30.すると、彼らの目が開かれた。イエスは彼らに、「あなたがたが見えていることを、誰にも知らせてはいけない」と厳しくお命じになった。31.しかし、彼らは出かけて行って、その地方全体にイエスのことを言い広めた。
32.さて、彼らが出かけて行くと、見よ、人々は悪霊にとりつかれて口の利けない男の人を、イエスのもとに連れて来た。33.悪霊が追い出されて、口の利けない男の人が話し始めると、群衆は驚いて、「こんなことは、イスラエルの中でも見たためしがない」と言った。34.しかし、ファリサイ派の人たちが言った。「あの男は悪霊どものかしらによって、悪霊どもを追い出しているのだ」。

35.イエスはすべての町々や村々をめぐり歩いて、彼らの諸会堂で教え、御国の福音を宣べ伝えながら、あらゆる病気、あらゆる病弱をお癒しになった。36.また、群衆が『羊飼いのいない羊たちのように』疲れ果て、力なく倒れ伏しているのをご覧になって、彼らに深い同情を寄せられた。37.その時、イエスは弟子たちに言われた。「収穫は多いが、働き人たちが少ない。38.だから、主の収穫のために働き人たちを送り出してもらうよう、収穫の主に願いなさい」。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
  ●「自然の中で聴く聖書」マタイによる福音書  9章

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

τέκνον, ἀφίενταί σου αἱ ἁμαρτίαι (2)
「子よ、あなたの諸罪は赦されている
 
中風の人が、床に寝かされたまま、人々によってイエスのいる所に運ばれてきた。上記は、イエスがこの中風の人に言われた言葉である。マタイはここで ἀφίενταί (アフィエンタイ・赦されている)と 現在形(受動態)を使っており、今まさにイエスによってこの中風の人の身に今起っている出来事としてし描いている。『罪』も複数となっている。
 
ἥψατο τοῦ κρασπέδου τοῦ ἱματίου αὐτοῦ· (20)
「イエスの衣の裾をつかんだ
 
ἥψατο は「触れる」「さわる」の他、「つかむ」と言う積極的な意味もある。20節の場合はこの女がイエスの背後から、人目を避けて、遠慮気味に行ったことから「触れた」が正しいと思われる。
 
★ ἐὰν μόνον ἅψωμαι τοῦ ἱματίου αὐτοῦ σωθήσομαι (21)

「イエスの衣の裾に触りさえすれば、助けていただけるだろう…と」

  ἡ πίστις σου σέσωκέν σε (22)
  「あなたの信仰があなたを救った

  ἐσώθη ἡ γυνὴ ἀπὸ τῆς ὥρας ἐκείνης (22)
  「女はその時から救われた

上記21~22のアンダーラインがついている言葉はいずれも同じ σῴζω (ソーゾー・救う、助ける)という言葉が使われていて、文脈により適宜に使い分ける。21は彼女の第一関心事は病気の治癒だったはずであるから、「助けて治していただけるだろう」と訳すのが良いかもしれない。22は、病気の癒しは罪の赦しの象徴的出来事であり、イエスにとっての第一関心事はこの女の救いである。ゆえに、22のイエスの言葉は「あなたの信仰があなたを救った」と訳すべき。後半の「女はその時から癒された」は、イエスの先の言葉を受けて訳すと「救われた」と訳され得る。救いの出来事がこの女の癒しの奇跡を超えた最終到達点である。




0 件のコメント:

コメントを投稿