2010年10月27日水曜日

新約聖書原典「ヨハネによる福音書」19章の翻訳(私訳)

ヨハネによる福音書 

19章


1.そこで、ピラトはイエスを引き取って鞭打ちにした。2.それから、兵卒たちは、いばらで冠を編んでイエスの頭に載せ、紫色の衣を着せて、3.イエスのそばに来て「ユダヤ人たちの王、ようこそ」と言いながら、イエスに平手打ちをくらわせた。4.ピラトは再び外へ出て来て、彼らに言った。「見よ、わたしは彼を外へ連れ出す。そうすれば、わたしが彼の内に何の過ちも見出せないことが、あなたがたにもわかるだろう」。5.そこでイエスは、いばらの冠をかぶり、紫色の衣をまとって外に出て来られた。そしてピラトが彼らに言った。「見よ、この人だ」。
6.すると、祭司長たちや下役たちがイエスを見て、叫んで言った。「十字架にかけよ。十字架にかけよ」。ピラトが彼らに言った。「あなたがたが彼を引き取って十字架にかけるがよい。わたしとしては、彼の内に何の過ちも見出せないのだから」。7.ユダヤ人たちがピラトに答えた。「我々には律法があります。律法によれば、その男は死ぬのが当然です。自分を神の子としたのだから」。8.するとピラトはこの言葉を聞いて、ますます恐れた。9.そして再び官邸に入って行ってイエスに言った。「あなたはどこから来たのか」。しかしイエスは何も彼にお答えにならなかった。10.そこでピラトはイエスに言った。「わたしに話さないのか。わたしには、あなたを赦すことも十字架につけることもできる権限があるのを知らないのか」。11.イエスは[彼に]答えられた。「天から与えられたのでなければ、誰もわたしに対して何の権限もない。だから、わたしをあなたに引き渡した者の罪はより大きい」。12.このときから、ピラトはイエスを赦そうとしたが、ユダヤ人たちは叫んで言った。「もしこの男を赦すなら、あなたは皇帝の味方ではありません。誰でも自分を王とする者は、皇帝に背くのです」。13.そこでピラトはこれらの言葉を聞くと、イエスを、「敷石」、すなわちヘブライ語で「ガバタ」と呼ばれる場所へ連れ出し、裁判の席についた。14.その日は過越の準備の日で、時は昼の十二時頃であった。そして、ユダヤ人たちに言った。「見よ、あなたがたの王だ」。15.すると、そこにいる人々が叫んだ。「殺せ、殺せ、彼を十字架にかけろ」。ピラトが彼らに「あなたがたの王をわたしが十字架にかけるのか」と言うと、祭司長たちが答えた。「わたしたちには皇帝以外に王はいない」。16.そこで、ピラトはイエスを十字架にかけるため、彼らに引き渡した。
こうして彼らはイエスを引き取った。17.それから、イエス自ら十字架をかつぎ「されこうべ(頭蓋骨)」と呼ばれる所、すなわちヘブライ語で「ゴルゴタ」と呼ばれる所へ出て行かれた。18.その所で、彼らはイエスを十字架にかけた。またイエスと一緒に他の二人の者を、イエスを真ん中にして両側に十字架にかけた。19.ピラトは罪状書きも書いて、十字架の上に掲げた。そこにはこう書かれていた。
「ナザレ人イエス、ユダヤ人たちの王」。20.多くのユダヤ人たちがこの罪状書きを読んだ。イエスが十字架にかけられた場所が、都に近い所にあったからである。それはヘブライ語、ラテン語、ギリシア語で書かれていた。21.すると、ユダヤ人の祭司長たちがピラトに「『ユダヤ人たちの王』と書かないで、その男が『自分はユダヤ人たちの王であると、ただ言っただけ』と書いてください」と言った。22.ピラトが答えた。「わたしが書いたものは、わたしが(権限で)書いたのだ」。
 23.さて、兵卒たちは、イエスを十字架にかけてから、その上衣を取り四つに分け、それぞれの兵卒の分け前とした。下着も手にしたが、その下着には縫い目がなく、上部から一度に織られたものであった。24.そこで彼らは互いに言った。「それを裂かないで、それが誰のものになるか、くじで決めよう」と言った。それは、
『彼らは、自分のために、わたしの上衣を分け、
わたしの衣服については、くじ引きにした』
[と言う]聖書の言葉が成就するためである。
だから、兵卒たちはこれらのことを行ったのである。
25.さて、イエスの十字架のそばには、イエスの母とイエスの母の姉妹、クロパの妻マリアとマグダラのマリアとが立っていた。26.するとイエスは、母と、そばにいたイエスの愛しておられた弟子を見て、母に言われた。「婦人よ、御覧、あなたの息子です」。27.次にこの弟子に言われた。「御覧、あなたの母です」。そしてこの時から、この弟子は彼女を自分の家に引き取った。
28.この後、イエスはついに全てが成し遂げられたことを悟り、聖書が成就されるために「わたしは渇く」と言われた。29.そこには、酸いぶどう酒が満たされた器が置いてあった。そこで人々は、その酸いぶどう酒をいっぱいに含ませた海綿をヒソプに巻きつけ、イエスの口元に差し出した。30.するとイエスはその酸いぶどう酒を受けられると、「成し遂げられた」と言われ、頭をたれ、息を引き取られた。
31.その日は準備の日であったので、ユダヤ人たちは、それらの遺体を安息日にーその安息日は大事な日であったー十字架上に残したままにしないために、彼らの足を折ってから取り除くようピラトに願い求めた。32.そこで、兵卒たちが来て、イエスと一緒に十字架にかけられた最初の男の足と、もう一人の男の足を折った。33.ところが、彼らがイエスの所に来たが、イエスがすでに死んでおられたのを見たので、その足を折ることをしなかった。34.しかし、兵卒の一人が自分の槍でイエスのわき腹を突き刺した。するとすぐに、血と水が流れ出た。35.そしてこれを見た者が証しした。そして、彼の証しは真実である。その人は、真実を語っていることを知っている。それは、あなたがたも信じるようになるためである。36.これらの事が起こったのは『彼の骨は折られることはない』という聖書の言葉が成就されるためである。37.さらに、また聖書の別の個所では、『彼らは自分たちが刺し通した方を見るであろう』とも言っている。

38.これらの後、イエスの弟子で、ユダヤ人たちを恐れてそのことを隠していたアリマタヤ出身のヨセフが、イエスの遺体を取りおろしたいとピラトに願い求めた。それでピラトが許したので、彼は行ってイエスの遺体を取りおろした。39.また以前、夜にイエスのもとに行ったことがあるニコデモも、百リトラ程《約三十二キログラム》の没薬とアロエを混ぜたものを携えてやって来た。40.こうして彼らはイエスの遺体を引き取り、ユダヤ人の埋葬の習慣に従い、香料と一緒にそれを亜麻布で巻いた。41.さて、イエスが十字架にかけられた場所には園があった。その園には、まだ誰も葬られたことのない新しい墓があった。42.その日はユダヤ人たちの準備の日であり、この墓が近かったので、彼らはそこにイエスを納めた。


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●「自然の中で聴く聖書」ヨハネによる福音書 19章



◆23 Οἱ οὖν στρατιῶται, ὅτε ἐσταύρωσαν τὸν Ἰησοῦν, ἔλαβον τὰ ἱμάτια αὐτοῦ καὶ ἐποίησαν τέσσαρα μέρη, ἑκάστῳ στρατιώτῃ μέρος, καὶ τὸν χιτῶνα. ἦν δὲ ὁ χιτὼν ἄραφος, ἐκ τῶν ἄνωθεν ὑφαντὸς διʼ ὅλου.
 
23.兵卒たちは、イエスを十字架にかけてから、その上衣を取り四つに分け、それぞれの兵卒の分け前とした。下着も手にしたが、その下着には縫い目がなく、上部から一度に織られたものであった。 

複数形の名詞を、その通りに訳すのはむずかしい。だからほとんどの訳では「上着を取り」(口語訳)、「服を取り」(新共同訳)、「着物を取り」(新改訳)というように単数で訳している。しかし単数では、その後の言葉 ἐποίησαν τέσσαρα μέρη,(四つに分けた)が理解困難となる。「一枚の衣服を四つに分けた」と受けとられかねない。ἔλαβον τὰ ἱμάτια αὐτοῦは直訳すると「彼の複数の上衣を受けとり」であって、明らかに数枚の上衣をイエスは着ていたのである。それを四つに分けたのだから、イエスの時代の一般的な服装が、外套と合わせて数枚の上衣を着ていたことになる。 καὶ τὸν χιτῶνα(下着も)の下着は単数である。当時の下着は、膝まである下着であった。この一枚の下着が一度織りのものだったため、今度は四つに分けることが出来ず、くじで決めたのだった。

13 ὁ οὖν Πιλᾶτος ἀκούσας τῶν λόγων τούτων ἤγαγεν ἔξω τὸν Ἰησοῦν καὶ ἐκάθισεν ἐπὶ βήματος εἰς τόπον λεγόμενον Λιθόστρωτον, Ἑβραϊστὶ δὲ Γαββαθα.

13.ピラトはこれらの言葉を聞くと、イエスを外に連れ出し、「敷石」、すなわちヘブライ語で「ガバタ」と呼ばれる場所へ行き、裁判の席についた ( ἐκάθισεν ἐπὶ βήματος

ここで問題なのは、裁判の席についたのはイエスなのか、それともピラトなのかということである。
新共同訳はイエスだとしており、口語訳、新改訳はピラトだとしている。 ἐκάθισεν (ついた)は3人称単数、アオリストだから、自動詞では「彼は座った」、他動詞では「彼を座らせた」となり、どちらでも訳は可能。しかし、その後の ἐπὶ βήματος(エピ  ベーマトス) は一段高くなった裁判の席を意味し、ピラトはその上に座したのである。このことから裁判官であるピラトが一段高くなった裁判の席についたとするのが自然である。罪人が裁判官より高い位置に座すということはあり得ないからである。







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