2013年10月20日日曜日

新約聖書原典「ルカによる福音書」21章の翻訳(私訳)

ルカによる福音書 

21章


1.イエスは見上げ、金持ちたちがささげものを献金箱に投げ入れるのを見られた。2.ところが、ある貧しいやもめがそこにレプトン銅貨二枚《1レプトンは当時の最小額青銅で、労働者一日分の賃金の128分の1で60~75円位い、レプトン2枚は120~150円位い》を入れるのをご覧になった。3.そして言われた。「よくあなたがたに言っておく。この貧しいやもめは、誰よりも多く投げ入れたのだ。4.これらの人たちはみな、有り余るものの中から献金として投げ入れたが、彼女は乏しい中から、持っている生活のすべてを投げ入れたのだから」。
5.ある人たちが神殿について、美しい石と奉納物で飾られていることを話していると、イエスが言われた。6.「あなたがたはこれらのものを見つめているが、一つの石も破壊されずに、その石の上に他の石が残ることもない日が来るだろう」。
7.そこで彼らはイエスに尋ねて言った。「先生、では、いつそのようなことが起こるのですか。また、そのようなことが起ころうとする時には、どんな兆候がありますか」。8.イエスは言われた。「惑わされないように気をつけていなさい。多くの者たちが、わたしの名によって『わたしがそれである』とか『時が近づいた』とか言って現われるからだ。彼らについて行ってはならない。9.戦争や騒乱のことを聞いても、怖がってはならない。これらのことは先ず起こらねばならないが、ただちに終わりでなないからである」。
10.さらに彼らに言われた。「民族は民族に、国は国に対して立ち上がり、11.大地震と飢餓と疫病が各地に起こるだろう。また、恐ろしいことや著しい兆候が天に現われるだろう。
12.しかし、全てこれらのことの前に、人々はあなたがたを手にかけて迫害し、諸会堂や牢獄に引き渡し、わたしの名の為に、王たちや総督たちのところへ引いて行く。13.あなたがたは証しすることになるだろう。14.だから、どう弁明しようかと前もって備えておくまいと、心に決めなさい。15.あなたがたに敵対するどんな者たちも、反対も反論もできない言葉と知恵をわたしが与えるからである。16.あなたがたは両親や兄弟たち、親族、友人たちからも裏切られ、ある者は殺されるだろう。17.あなたがたはわたしの名のために、多くの人々から憎まれるだろう。18.しかし、あなたがたの髪の毛一本も、決して失われることはない。19.あなたがたの忍耐によって、いのちを得なさい。
20.しかし、エルサレムが軍隊によって包囲されるのを見た時は、その荒廃が近づいたと知りなさい。21.その時は、ユダヤにいる人々は山へ逃げなさい。エルサレムの中にいる人々は(そこから)離れなさい。田舎にいる人々はエルサレムに入ろうとしてはならない。22.その日は、(聖書に)書かれている全てのことが成就する懲罰の日なのだから。23.それらの日には、身重の女たちと、乳飲み子を持つ女たちは不幸だ。地上には大きな苦難が、この民には大きな怒りが下るからである。24.人々は剣の刃によって倒れ、あらゆる国々に捕らえられて連れて行かれるだろう。そして、エルサレムは、異邦人の時が満ちるまで、彼らによって踏みにじられるだろう。
25.また、太陽、月、星にしるしが現われるだろう。また地上では人々が不安になり、海と大波のどよめきに途方に暮れる。26.人々は世界に起ころうとしていることを予測し、その恐ろしさから気を失うだろう。天の諸力が揺さぶられるからである。27.そして、その時、人々は、人の子が大いなる力と栄光と共に、雲に乗って来るのを見るだろう。28.これらのことが起こりはじめたなら、身を起こし、頭を上げなさい。あなたがたの解放が近づいているからである」。
29.そして、譬えを彼らに話された。「いちじくの木や、すべての木々を見なさい。30.葉が出ると、あなたがたはそれを見て、夏がすでに近いことを知る。31.このように、あなたがたも、これらのことが起きているのを見た時は、神の国が近づいたと悟りなさい。32.よく言っておくが、すべてのことが起こるまでは、この時代は決して滅びることはない。33.天と地とは滅びるだろう。しかし、わたしの言葉は決して滅びることはない。
34. 酩酊や泥酔や生活上の心配ごとで、あなたがたの心が弱り、その日が突如あなたがたを襲うことがないように気をつけていなさい。35.その日が、わなのように突然、地の全面に住む全ての人々に臨むからだ。36.しかし、あなたがたは、起ころうとしているこれら全てのことから逃れて、人の子の前に立つことができるように、いつも目を覚まして祈っていなさい」。

37.イエスは、昼間は神殿の庭で教え、夜はオリーブと呼ばれる山へ出かけて行って過ごしておられた。38.民衆もみなイエスの話を聞くために、朝早くから神殿の庭にいるイエスのもとにやって来ていた。




2013年10月14日月曜日

新約聖書原典「ルカによる福音書」20章の翻訳(私訳)

ルカによる福音書 

20章


1.ある日のこと、イエスが神殿の庭で民衆を教え、良い知らせを告げておられると、祭司長たちと律法学者たちは、長老たちと一緒に(イエスに)のもとに来て、2.イエスに問うて言った。「なんの権威によってこれらのことをしているのか、また、この権威をあなたに与えたのは誰か、わたしたちに答えてください」。3.そこでイエスは答えて彼らに言われた。「わたしも一言あなたがたに尋ねよう。わたしに答えなさい。4.ヨハネのバプテスマは天からのものであったか、それとも、人々からのものであったか」。5.彼らは互いに相談して心の中で言った。「もし『天からのものだ』と言えば、『では、なぜ彼を信じなかったのか』と言うだろう。6.しかし、もし『人々からのものだ』と言えば、民衆がいっせいに我々に石を投げるだろう」。民衆は、ヨハネが預言者だと確信していたからである。7.そこで、彼らは「どこからのものか、わたしたちには分かりません」と答えた。8.イエスも彼らに言われた。「わたしも、何の権威によってこれらのことをしているのか、あなたがたに言わないでおこう」。
9.そこで、イエスは民衆にこの譬えを話し始められた。「ある人がぶどう園を造り、農夫たちにそれを貸して、長い旅に出かけた。10.収穫の時期となったので、彼はぶどう園の収穫を納めさせようと、僕を農夫たちの所へ遣わした。しかし、農夫たちは僕を殴って、から手で送り返した。11.そこでさらに、ほかの僕を遣わしたが、農夫たちはこの僕も殴って侮辱を加え、から手で送り返した。12.また、さらに三人目の僕を送ったが、彼らはこの僕にも傷を負わせて追い返した。13.そこで、このぶどう園の主人が言った。『どうしようか。わたしの愛する息子を送ろう。この息子なら、たぶん敬ってくれるだろう』。14.ところが農夫たちは息子を見て、互いに相談し合って言った。『これはあと継ぎだ。これを殺してしまおう。そうすれば、遺産は我々のものになる』。15.そうして、息子をぶどう園の外に放り出して殺した。さて、ぶどう園の主人はこれらの農夫たちをどうするだろうか。16.主人は帰って来て、これらの農夫たちを滅ぼし、ぶどう園を他の者たちに与えるだろう」。人々はこれを聞いて言った。「そんなことがあってはなりません」。17.イエスは彼らをじっと見つめて言われた。「では、こう書かれてあるのはなぜか。
『家造りたちが拒んで捨てた石が、隅のかしら石となった。』
18.その石の上に落ちる者はだれでも打ち砕かれるが、(その石が)その人の上に落ちれば、その人を押しつぶしてしまうだろう」。
19.その時、律法学者たちと祭司長たちが、イエスに手をかけようとした。なぜなら、この譬えが自分たちに対して言われたのだということを、彼らが知ったからである。しかし、彼らは民衆を恐れた。
20.慎重に機会を狙っていた彼らは、自分を正しい者と見せかけている密偵たちを遣わしてイエスの言葉尻をとらえて、総督の支配と権威とに彼を引き渡そうとした。21.そして、彼らはイエスに質問して言った。「先生、わたしたちは、あなたのお話しも教えも正しく、(人を)分け隔てなさらず、真理にもとづいて神の道を教えておられるのを知っています。22.皇帝に税を納めることはよいのでしょうか、それとも、よくないのでしょうか」。23.イエスは、彼らの悪巧みを見抜いて、彼らに言われた。24.「デナリオンを見せなさい。これは誰の肖像、誰の銘刻か」。彼らは言った。「皇帝のです」。25.イエスは彼らに言われた。「では、皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい」。26.彼らは民衆の手前、イエスの言葉尻をとらえることができず、その返答に驚いて黙ってしまった。
27.復活はないと[反対]論を唱えているサドカイ派のある人々が近寄って来て、イエスに質問して、28.言った。「先生、モーセはわたしたちに、『もし、ある兄に妻がいて、この人が、子供がいなくて死んだなら、彼の弟がその妻を迎え、兄のために子孫をもうけなければならない』と書きました。29.さて、ここに七人の兄弟がいました。長男は妻を迎えましたが、子供がいなくて死にました。30.次男も、31.そして三男も彼女を妻に迎え、こうして七人とも同じように子供を残さないで死にました。32.最後にはこの女も死にました。33.では、復活の時、この女は彼らの中の誰の妻となるのですか。七人が彼女を妻にしたのですが」。
34.イエスは彼らに言われた。「この世の子らは、めとったり嫁いだりする。35.しかし、かの世を受けるにふさわしく、また、死者たちの中から復活するにふさわしいとみなされた人々は、めとったり嫁いだりはしない。36.彼らはもう死ぬことはできないのだから。彼らは天使たちのようなものであって、復活の子として神の子供たちなのだから。37.死者が復活することについては、モーセも柴の個所で知らせている。彼が主を『アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神』と言っているように、38.神は死んだ者たちの神ではなく、生きている者たちの神である。全ての者はこの方によって生きるからである」。
39.そこで、ある律法学者たちが答えて言った。「先生、あなたが言われたことはまさにその通りです」。40.だから、もう誰も敢えてイエスに質問しようとはしなかった。
41.しかし、イエスは彼らに言われた。「人々がキリストをダヴィデの子と言っているのはどうしてなのか。42.ダヴィデ自身、詩篇の中でこう言っている。
『主は、わたしの主に言われた。
あなたは、わたしの右に座していなさい。
43.わたしがあなたの敵どもを、あなたの足台に据えるまで。』
44.このように、ダヴィデがキリストを主と呼んでいるのに、どうして彼がダヴィデの子なのだろうか」。

45.民衆がみなこれを聞いているとき、イエスは弟子たちに言われた。46.「長い衣を着て歩きたがる律法学者たちに気をつけなさい。彼らは広場で挨拶されることを好み、諸会堂では最上席を、宴会では最上座を好む。47.彼らはやもめたちの家を食いつぶし、見せかけの長い祈りをする。この人たちはいっそう厳しい裁きを受けるだろう」。






★「そんなことがあってはなりません」(16)
 μή γένοιτο
  新約聖書の中ではめずらしい『希求法』で書かれていて、ローマ書の中でパウロが数回使っている。『そんなことがあってたまるか!』という強い否定願望を表す。

  ἰσάγγελοι γάρ εἰσιν (36)
「彼らは天使たちのようなものである」(36)  

36節は「彼らは天使たちに等しい」とも訳せる。天使たちには死がないと同じように、復活にあずかる者たちには、再び死ぬと言うことはあり得ないという意味。




2013年10月9日水曜日

新約聖書原典「ルカによる福音書」19章の翻訳(私訳)

ルカによる福音書 

19章


1.イエスはエリコに入り、そこを通って行かれた。2.すると見よ、(その町に)ザアカイという名の人がいた。この人は徴税人の頭で金持ちであった。3.彼は、イエスがどんな方か見ようと試みたが、群衆にさえぎられて見ることができなかった。身長が低かったからである。4.そこで、先頭の方へ走り寄り、イエスを見るためにいちじく桑の木に登った。イエスがそこを通り過ぎようとしておられたからである。5.イエスはその所まで来られると、上を見上げて彼に言われた。「ザアカイよ、急いで降りてきなさい。今日、わたしはかならずあなたの家に泊まることにしているから」。6.そこで彼は急いで降りてきて、喜んでイエスを(自分の家に)迎え入れた。7.多くの者たちはこれを見て「あの人は罪深い男の所へ入って行って、客となった」と言って互いにつぶやいた。8.ザアカイは立って主に言った。「主よ、御覧ください、わたしは自分の財産の半分を貧しい人々に施します。また、もし誰かから何かゆすり取ったものがあるなら、四倍にして返します」。9.イエスは彼に「今日、救いがこの家に来た。この人もアブラハムの子なのだから。10.人の子は、失われたものを捜して救うために来たのである」と言われた。
11.人々がこれらのことを聞いているとき、イエスは更にある譬えを話された。それは、イエスがエルサレムに近づいておられたので、彼らは、神の国はもうすぐ現れるものと思っていたからである。12.そこで言われた。「ある身分の高い人が、王位を受けて帰ろうと遠い所へ旅に出た。13.そこで、彼は十人の自分の僕たちを呼んで、彼らに十ムナを与えて彼らに言った。『わたしが帰って来るまで、これで商売をしていなさい』。14.しかし、彼の(町の)住民たちは彼を憎んでいたので、あとから使者を遣わして『我々の上に、この人を王にするのは望まない』と言った。15.この人が王位を受けて帰って来たとき、銀貨を預けていたこれらの僕たちを呼んで、どれほどの儲けがあったかを知ろうとした。16.そこで、最初の僕が来て言った。『ご主人様、あなたの一ムナでわたしは他に十ムナを儲けました』。17.主人は僕に言った。『よくやった。良い僕よ。あなたは小さな事に忠実だったから、さらに十の町を治める者となりなさい』。18.また、二番目の僕が来て言った。『ご主人様、あなたの一ムナでわたしは五ムナを儲けました』。19.主人はこの僕にも言った。『あなたはさらに五つの町を治める者となりなさい』。20.また、ほかの僕が来て言った。『ご主人様、ご覧下さい。わたしが預かっていたあなたの一ムナを、手ぬぐいにしまっておきました。21.あなたは預けないものを取り立て、蒔かないものを刈り取る厳しい方なので、わたしはあなたを恐れていたからです』。22.主人は彼に言った。『悪い僕よ、わたしはおまえの口から出た(言葉)によってお前を裁く。お前は、わたしが預けないものを取り立て、蒔かないものを刈り取る厳しい人であるのを知っていたのか。23.ではどうして、わたしの金を銀行に預けておかなかったのか。そうすればわたしが帰って来た時、利子と一緒にそれを引き出せたであろうに』。24.そして、そばに立っていた者たちに言った。『彼から一ムナを取り上げて、十ムナを持っている者に与えなさい』。25.すると、彼らは主人に言った。『ご主人様、彼はすでに十ムナを持っています』。26.(主人が言った)『あなたがたに言っておくが、だれでも持っている者にはさらに与えられる。しかし、持っていない者からは、持っているものまでも取り上げられるだろう。27.さて、わたしを彼らの上に立てて王にさせたくなかったこれらの敵対する者どもをここに連れて来て、わたしの前で彼らを打ち殺してしまえ』」。
28.これらのことを話されてから、イエスは先頭を歩いてエルサレムへと上って行かれた。
29.そして、オリーブとよばれる山のふもとのベトファゲとベタニアに近づいたとき、イエスは二人の弟子をお遣わしになって、30.言われた。「向こうの村へ行きなさい。村へ入って行くと、まだ誰も乗ったことがないロバの子がつながれているのを見つけるだろう。そのロバの子を解いて引いてきなさい。31.もし、誰かがあなたがたに『なぜロバの子を解くのか』と聞くなら、このように言いなさい。『ロバの子のご主人様がご入り用なのです』と」。32.そこで、遣わされた弟子たちが出かけると、主が彼らに言われたとおりであることがわかった。33.さて、二人がロバの子を解いていると、その飼い主である主人たちが彼らに言った。「なぜそのロバの子を解くのか」。34.そこで、彼らは『ロバの子のご主人様がご入り用なのです』と言った。35.そして、彼らはロバの子をイエスのところへ引いて行き、その上に自分たちの上着をかけ、イエスをお乗せした。36.イエスが進んで行かれると、人々は自分たちの上着を道に敷いた。37.イエスがオリーブ山の下り道に近づかれたとき、弟子たちの群れはみな喜びにあふれ、彼らが見た力ある全てのことにつき、大声で神を賛美し始めて、
38.こう言った。
『主の名によって来られる方、
王に祝福があるように。
天には平和、
いと高きところには栄光があるように。』
39.しかし、あるファリサイ派の人たちが群衆の中からイエスに言った。「先生、あなたの弟子たちを叱ってください」。40.するとイエスは答えて言われた。「あなたがたに言うが、もし、この人たちが黙れば、石が叫ぶだろう」。
41.イエスが(エルサレムに)近づかれた時、その町をご覧になり、そのために泣いて、42.言われた。「もし、お前がこの日に、平和に至る道を知っていたなら。しかし今、お前の目からは隠されてしまった。43.お前の敵が、お前に対し塁壁を築いてお前を取り囲み、あらゆる方角から攻め込む日が、お前の上に臨むだろう。44.そして、お前と、その中にいるお前の子供たちとを滅ぼし尽し、お前の中にある石の一つをも、(他の)石の上に残してはおかないだろう。なぜなら、お前が自分に対する(神の)訪れの時を悟らなかったからだ」。
45.そして、イエスは神殿の庭に入って行かれ、商売をしている人たちを追い出し始められ、46.彼らに言われた。「聖書に、『わたしの家は祈りの家となるだろう』と書かれている。それなのに、あなたがたはそれを『強盗どもの巣窟』にしてしまった」。

47.イエスは毎日、神殿の庭で教えておられた。しかし、祭司長たちと律法学者たち、民衆の指導者たちも、イエスを殺そうとねらっていた。48.しかし、彼らはどうしてよいかわからなかった。民衆が皆、イエスの言われることに熱心に聞き入っていたからである。






★「人の子は、失われたものを捜して救うために来たのである」(10)

 「失われたもの」=失われた羊  のこと。
 ここで使用されているものが『中性』を示す冠詞だからである。それは転義で人を意味する。

ἐπορεύετο ἔμπροσθεν (28)   
「イエスは先頭を歩いて行かれ…」エルサレムへと上って行かれた。(28)

エリコにおけるエルサレム入場直前の説教を終えると、イエスは意を決したかのように、ご自分の最終使命を果たすべく、エルサレムへ向かわれた。28節はその時のイエスの心情をよく表している。エリコはガリラヤからエルサレムに向かう旅程にある最後の町。エリコからエルサレムまでは直線距離で20Kあまり。一日で行ける距離である。エリコでの民衆を教えた後、イエスの隊列は12弟子のほか、多くの民衆も同伴したはずである。突然イエスはその先頭に立たれ、エルサレムに向かわれたのである。  


ἀνθʼ ὧν οὐκ ἔγνως τὸν καιρὸν τῆς ἐπισκοπῆς σου(44)  
 「なぜなら、お前が自分に対する(神の)訪れの時を悟らなかったからだ」(44)

イエスのエルサレム滅亡の預言。このエルサレムの徹底的な壊滅の預言(一つの石が他の石の上に残らない)はAD70年に実現したが、その原因が 「お前が自分に対する神の訪れの時を悟らなかったからだ」 とイエスは言われた。イエスのエルサレム入場はまさに、神の訪れの時であったし、十字架の死の出来事はまさにその時の成就を意味する。がしかし、その時は今日的な意味に解釈することもできる。エルサレム滅亡の預言が世界の滅亡という終末的出来事として捉えなおす時、今こそが我々にとって神の訪れの時なのである。44節は今日の我々へのメッセージ(警告)なのである。




2013年10月1日火曜日

新約聖書原典「ルカによる福音書」18章の翻訳(私訳)

ルカによる福音 

18章


1.イエスは弟子たちに、望みを捨てないでいつも祈るべきことを、譬えでお話しになった。2.「ある町に、神を恐れず、人を人とも思わない裁判官がいた。3.さて、その町に一人のやもめがいて、裁判官のもとに来ては『私を訴える者から私を擁護してください』と言っていた。4.しばらくの間は聞こうとしなかったが、その後、心の中で言った。『わたしは決して神を恐れず、人を人とも思わないが、5.このやもめがわたしに面倒をかけるから、彼女を擁護してやろう。そうでないと、いつまでもやって来て、わたしをしつこく悩ますにちがいないから』」。6.そこで主は言われた。「この不正な裁判官がどう言ったかを聞きなさい。7.まして神は、昼も夜もご自分を呼び求める選ばれた人々を擁護なさらず、彼らをほうっておかれることがあるだろうか。8.あなたがたに言うが、神はすみやかに彼らを擁護してくださるだろう。ただ、人の子が来る時、この地上に信仰が見られるだろうか」。
9.イエスは、自分に信頼している人々、すなわち、自分を正しいとし、それ以外の人たちを軽視する人々に対し、この譬えを話された。10.「ふたりの人が祈るために神殿に上った。一人はファリサイ派の人で、もう一人は徴税人であった。11.ファリサイ派の人は、立って自分に対してこう祈った。『神よ、わたしは他の人たちの様に強欲な者、不正な者、姦淫する者、また、この徴税人の様な者でもないことをあなたに感謝します。12.わたしは週に二度断食をしており、全収入の十分の一を納めています』。13.しかし、徴税人は、遠く離れた所で立とうともせず、目を天に上げようともしないで、しかも、自分の胸を打ちたたきながら『神様、罪人のわたしを憐れんでください』と言った。14.あなたがたに言うが、義とされて自分の家に帰って行ったのは、あの(ファリサイ派の)人ではなく、この人である。だれでも、自分を高くする者は低くされ、自分を低くする者は高くされるだろう」。
15.イエスに触れていただこうと、人々が自分の幼子たちをイエスのもとに連れて来た。しかし、弟子たちはこれを見て彼らを叱った。16.しかし、イエスはその子たちを招いて言われた。「幼子たちを、わたしのもとに来るままにさせておきなさい。その子たちを妨げてはならない。神の国は、このような者たちのものだから。17.あなたがたによく言っておく。幼子のように神の国を受け入れる者でなければ、決してそこに入ることはできない」。
18.ある役人がイエスに質問して言った。「善い教師よ、永遠の命を得るには何をすれば良いのでしょうか」。19.イエスは彼に言われた。「どうしてわたしを『善い』と言うのか。神お一人のほかに善い方はおられない。20.あなたは『姦淫してはならない。殺してはならない。盗んではならない。偽証してはならない。あなたの父と母とを敬え』という律法を知っているはずだ」。21.彼は言った。「それらは全て若い頃から保ってきました」。22.イエスはこれを聞いて彼に言われた。「あなたに足りないことがまだ一つある。あなたが持っている物を全て売って、貧しい人々に分け与えなさい。そうすればあなたは天に宝を持つことになる。それから来て、わたしに従いなさい」。23.しかし、彼はこれを聞いてとても悲しんだ。大金持ちだったからである。
24.イエスは、彼が[深く悲しむのを]見て言われた。「財産のある者たちが神の国に入るのは、なんとむずかしいことか。25.金持ちが神の国に入るより、らくだが針の穴を通る方がずっと易しい」。26.人々はこれを聞いて言った。「では、誰が救われることができるのだろうか」。27.イエスは言われた。「人にはできないが、神にはおできになる」。
28.そこでペトロが言った。「ご覧ください。わたしたちは自分の持ち物を捨てて、あなたに従いました」。29.イエスは彼らに言われた。「あなたがたによく言っておく。誰でも、神の国のために、家、妻、兄弟たち、両親、子供たちを捨てた者は、30.この世では何倍もの(報いを)受けない者はなく、来るべき世でも永遠の命を受ける」。
31.イエスは十二人をそばに呼んで、彼らに対して言われた。「見よ、わたしたちはエルサレムへ上って行こうとしている。そして、人の子について、預言者たちによって書かれたことがすべて成就されるだろう。32.彼は異邦人たちに引き渡されてあざけられ、暴行を受け、唾を吐かれ、33.人々は彼を鞭打って殺すだろう。そして、三日目に復活するだろう」。34.弟子たちには、これらのことが何も理解できなかった。この言葉が彼らには隠されていて、話されていることが分からなかったのである。

35.イエスがエリコに近づかれると、ある盲人が道端に座って物乞いをしていた。36.彼は、群衆が通って行くのを聞いて「これはいったい何事ですか」と尋ねた。37.人々が彼に「ナザレのイエスが通られるのだ」と知らせると、38.彼は「ダヴィデの子イエスよ、わたしを憐れんでください」と言って叫んだ。39.前を行く人々が彼を黙らせようと叱ったが、彼はますます叫んだ。「ダヴィデの子よ、わたしを憐れんでください」。40.しかし、イエスは立ち止まり、その人をご自分のところに連れて来るようにお命じになった。その人が近づくと、イエスは彼にお尋ねになった。41.「何をしてほしいのか」。その人は言った。「主よ、見えるようになることです」。42.イエスは彼に言われた。「見えるようになれ。あなたの信仰があなたを救ったのだ」。43.すると、ただちに見えるようになって、神をほめたたえながらイエスに従った。群衆もみなこれを見て、神に賛美を捧げた。




★彼は言った。「それらは全て若い頃から保っています」。(21)

「保っています」については本ブログ、マタイによる福音書19章の解説を参照ください。