2013年7月25日木曜日

新約聖書原典「ルカによる福音書」9章の翻訳(私訳)

ルカによる福音書 

9章


1.イエスは十二人を呼び寄せ、彼らにあらゆる悪霊どもに対して、病気を癒す力と権能とをお授けになった。2.そして彼らに神の国を宣べ伝え、また[病気の人々を]癒すために遣わされた。3.そして彼らに言われた。「旅には何も持って行くな。杖も旅の袋もパンもお金も二枚の下着も持って行くな。4.またある家に入ったら、そこに滞在し、そこから出掛けなさい。5.また、誰もあなたがたを歓迎しないなら、その町から出ていく時、彼らに対する証明のため、あなたの足から埃を払い落としなさい」。6.そこで彼らは出掛けて行き、村ごとを巡って福音を宣べ伝え、至る所で癒しを行った。
7.領主ヘロデは、あらゆる出来事を聞いて途方にくれていた。それはある人々が「ヨハネが死者たちの中から生き返ったのだ」と言い、8.またある人々が「エリヤが現れたのだ」と言い、また他の人々が「誰か昔の預言者がよみがえったのだ」と言っていたからである。9.そこでヘロデが言った。「わたしがヨハネの首を切ったのだ。では、わたしがいろいろと聞いているこの者は一体誰か」。ヘロデはイエスに会って見たくなった。
10.使徒たちは戻って来て、自分たちが行ったことをみなイエスに語って聞かせた。それから、イエスは彼らを連れて、秘かにベトサイダと呼ばれる町へ退かれた。11.しかし、群衆がそれを知ってイエスについて来た。イエスは彼らを受け入れ、彼らに神の国について語られ、癒しを必要とする人々を癒しておられた。
12.日が暮れかかったので、十二人の弟子たちがイエスに近寄って来て言った。「群衆を解散させて、彼らに付近の村々や集落へ行かせて宿をとらせ、また何か食べ物を手に入れさせてください。わたしたちはこんな人里離れたところにいるのですから」。13.ところがイエスは弟子たちに言われた。「あなたがたが彼らに食べ物を与えなさい」。彼らは言った。「わたしたちには、五つのパンと二匹の魚以外に何もありません。わたしたちがこの全ての人々のために、食べ物を買いに行くのでなければ」。14.そこには男が五千人ほどいたからである。しかし、イエスは弟子たちに言われた。「彼らをそれぞれ五十人ごとの組にして座らせなさい」。15.弟子たちはそのようにみんなを座らせた。16.そこでイエスは五つのパンと二匹の魚を取り、天を見上げそれらを祝福して裂き、群衆に配るために弟子たちに渡された。17.みんなは食べて満腹した。裂いたかけらの余りが寄せ集められたが、十二のかごがそれらのものでいっぱいになった。
18.イエスが一人で祈っておられると、弟子たちがイエスのもとに集まって来たので、イエスは彼らに、「人々は、わたしを誰だと言っているか」とお尋ねになった。19.それで弟子たちは答えて言った。「バプテスマのヨハネだと言う者、またエリヤだと言う者、また昔の預言者が生き返ったのだという者もいます」。20.そこでイエスは彼らに言われた。「では、あなたがたはわたしを誰だと言うか」。ペトロが答えて言った。「神の(子)キリストです」。21.するとイエスは彼らを諭し、「このことを誰にも言わないように」とお命じになって、22.人の子は多くの苦しみを受けなければならず、長老たちや祭司長たち、律法学者たちからも拒絶されて殺され、三日目によみがえるべきことをお話しになった。
23.そして皆の者たちに言われた。「誰でも、わたしについて来たいと思うなら、自分を否定し、自分の十字架を日々背負ってわたしに従いなさい。24.自分の命を救おうと思う者はそれを失い、わたしのために自分の命を失くそうとする者こそ、それを救うことになる。25.人が全世界を手に入れても、自分自身を滅ぼしたり、損害を受けたりしたら何の得になるだろうか。26.わたしと、わたしたちのこれらの言葉を恥じる者は、人の子がその栄光と、父と聖なる天使たちの栄光の内に来る時、その者を恥じるだろう。27.まことにあなたがたに言うが、神の国を見るまでは、決して死を経験しない者たちが、ここに立っている者たちの中にいる」。
28.これらの言葉を語られたのち八日ほど経って、イエスはペトロとヨハネとヤコブを連れて、祈るために山に登られた。29.イエスが祈っておられると、その姿かたちが変わり、その衣が電光のように白く輝いた。30.すると見よ、二人の人がイエスと話をしていた。彼らはモーセとエリヤであった。31.二人は栄光の内に現れ、イエスがエルサレムで成就しようとしておられるご自身の最期について話しをしていた。32.ペトロと彼と一緒にいた弟子たちは、眠りに落ち入りそうであったが、イエスの栄光とイエスと一緒に立っている二人の人を、目を凝らしながら見た。33.二人の人がイエスから離れ去ろうとした時、ペトロがイエスに言った。「先生、わたしたちがここにいるのは尊いことです。ですから仮小屋を三つ建てましょう。一つはあなたのために、一つはモーセのために、一つはエリヤのために」。ペトロは自分でも何を言っているのか、わからなかった。34.ペトロがそう言っていると、雲が現われてその人たちをおおいはじめた。その人たちが雲の中に入って行くので弟子たちは恐ろしくなった。35.すると雲の中から声がして言った。「これはわたしの選ばれた子、これに聞け」。36.その声がした時、そこにはイエスだけがおられた。三人の弟子たちは口を閉ざして、その頃は彼らが見た事を誰にも何も知らせなかった。
37.翌日、一行が山から下ると、多くの群衆がイエスを迎えた。38.すると見よ、群衆の中から一人の男の人が叫んで言った。「先生、お願いですからわたしの息子に目を留めてやってください。わたしにとってただ一人の息子なのです。39.霊がこの子に取りつくと、この子は突然叫び出し、泡を吹いてけいれんを起こさせ、この子を打ちのめしてなかなか離れないのです。40.そこで、あなたのお弟子さんたちに、霊を追い出してくださるようお願いしましたが、できませんでした」。41.そこでイエスは答えて言われた。「ああ、なんと不信仰で曲がった時代だろう。わたしはいつまであなたがたのもとにいられようか。またいつまであなたがたに我慢できようか。あなたの息子をここに連れて来なさい」。42.息子が来る間にも、悪霊はその子を引き倒し、けいれんさせた。そこでイエスは汚れた霊を叱り、その子を癒して父親にお返しになった。43.人々は皆、神の偉大さにびっくりしていた。
皆がイエスのなされたすべての業に驚いているとき、イエスは弟子たちに言われた。44.「これらの言葉をあなたがたの耳に留めなさい。人の子が人々の手に渡されようとしているからである」。45.しかし、彼らにはその言葉の意味がわからなかった。それがわからないように、彼らには隠されていたのである。彼らは、その言葉についてイエスに尋ねることを恐れていた。
46.さて、弟子たちの間で、自分たちのうち誰が一番偉いかと論争が生じた。47.イエスは彼らの心の論争を見抜いて、幼子の手をとり、ご自分のそばに立たせて、48.彼らに言われた。「わたしの名のゆえに、このような幼子を受け入れる者は、わたしを受け入れるのである。わたしを受け入れる者は、わたしをお遣わしになった方を受け入れるのである。だから、あなたがたみんなの中で最も小さい者こそ、最も偉いのである」。
49.ヨハネが答えて言った。「先生、わたしたちは、あなたの名によって悪霊を追い出している人を見かけましたが、わたしたちの仲間ではないので、やめさせました」。50.イエスは彼に言われた。「止めてはいけない。あなたがたに反対しない者は、あなたがたの味方なのである」。
51.イエスの(天に)上げられるまでの日数が満ちてきたので、イエスはエルサレムへ行こうと顔を向けられ、52.ご自分より先に使者たちを遣わされた。そして、彼らがイエスのために準備をしようと歩いて行き、サマリア人たちの村に入った。53.しかし、村人たちはイエスを歓迎しなかった。イエスのみ顔がエルサレムに向いて進んでいたからである。54.弟子のヤコブとヨハネがそれを見て言った。「主よ、いかがでしょう。天から火を降らせて、彼らを焼き払いましょうか」。55.イエスは振り向いて二人を戒められた。56.それから一行は他の村へ行った。

57.一行が旅を続ける途中で、ある人がイエスに言った。「あなたが行かれるところなら、どこへでも従ってまいります」。58.イエスは彼に言われた。「狐たちには穴があり、空の鳥たちには巣がある。しかし、人の子には頭を横たえる場所もない」。59.また他の人に言われた。「わたしに従いなさい」。その人が言った。「[主よ、]先ずわたしの父を葬りに行くのをお許しください」。60.イエスは彼に言われた。「死人たちに、自分たちの死人を葬らせなさい。しかし、あなたは行って、神の国を宣べ伝えなさい」。61.また、他の人も言った。「主よ、あなたにお従いします。でも、その前にわたしの家の者たちに、別れを言いに行くのをお許しください」。62.そこでイエスは[彼に向って]言われた。「だれでも、手を鋤にかけてから後ろを見る者は、神の国にふさわしくない」。






  αὐτὸς τὸ πρόσωπον ἐστήρισεν τοῦ πορεύεσθαι εἰς Ἰερουσαλήμ (51)
「イエスの(天に)上げられるまでの日数が満ちてきたので、イエスはエルサレムへ行く決意を固められた」(51)

ὅτι τὸ πρόσωπον αὐτοῦ ἦν πορευόμενον εἰς Ἰερουσαλήμ (53)
「しかし、村人たちはイエスを歓迎しなかった。イエスのみ顔がエルサレムに向いて進んでいたからである」 (53)

上の2節は十字架に向かってのイエスの並々ならぬ決意を示すものである。51節の「イエスはエルサレムへ行く決意を固められた」の『決意を固められた』は、原文の直訳では、『み顔を(エルサレムに向け)しっかり据えられた』である。 53節でサマリヤ人たちがイエスを歓迎しなかったのは、『イエスのみ顔がエルサレムに向いて進んでいたからだ』とルカは表現した。

ἄφες τοὺς νεκροὺς θάψαι τοὺς ἑαυτῶν νεκρούς (60)
「死人たちに、自分たちの死人(複数)を葬らせなさい」(60)

νεκρούς は「死人たち」を意味する名詞(複数形)。60節で二度使われている。前者は肉体的死人ではなく、霊的に死んだ状態にある人、もしくは埋葬を仕事とする人たちと解すべきであろう。イエスがここでこのような言い回しで話されたのは、まさに今、イエスに従うと決めた人たちは霊的にイエスによって生かされている人たちなのであり、「死んだ人々」とは区別されているのである。 




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