2012年4月6日金曜日

新約聖書原典「マルコによる福音書」15章の翻訳(私訳)

マルコによる福音書 

15章


1.夜が明けるとすぐ、祭司長たちは、長老たちや律法学者たち、そして全議会と共に相談してイエスを縛り、ピラトの所へ連れて行って引き渡した。
2.ピラトはイエスに尋ねた。「あなたはユダヤ人たちの王なのか」。そこで、イエスは答えてピラトに言われた。「あなたの言うとおりである」。3.すると祭司長たちはイエスについて、いろいろな事を訴えはじめた。4.そこでピラトは再びイエスに尋ねて言った。「何も答えないのか。見よ、あなたについて、人々があれほど多くのことを訴えているのに」。5.しかし、ピラトが驚くほど、イエスはもう何もお答えにならなかった。
6.さて、祭りではその度ごとに、人々が願い出る囚人一人を釈放することになっていた。7.さて、ここに反逆者たちと共に捕らえられていたバラバという男がいた。彼らはみな、謀反により殺人を犯した者たちであった。8.そこで群衆は押しかけて来て、ピラトが彼らのためにいつもしているようにしてほしいと要求し始めた。9.そこで、ピラトは彼らに答えて言った。「あなたがたに、あのユダヤ人たちの王を赦してほしいのか」。10.(ピラトがそう言ったのは)祭司長たちがイエスを引き渡したのは、ねたみのためだと分かっていたからである。11.しかし、祭司長たちは、なんとしてもバラバの方を釈放してもらうよう、群衆を扇動した。12.ピラトは再び彼らに答えて言った。「では、あなたがたがユダヤ人たちの王[と呼んでいる者]は、どうして[ほしい]のか。13.群衆は再び叫んだ。「十字架にかけよ」。14.ピラトが彼らに言った。「彼がどんな悪事をしたのか」。しかし、群衆はますます叫んだ。「十字架にかけよ」。
15.そこでピラトは群衆を満足させようと思い、バラバを彼らのために釈放し、イエスをむち打ってから十字架にかける為に引き渡した。
16.兵卒たちはイエスを官邸の中庭、すなわち総督官邸の中庭へ連れて行き、部隊全員を召集した。17.そして、イエスに紫の衣を着せ、茨の冠を編んでかぶらせ、18.イエスに「ユダヤ人たちの王、ようこそ」と言って挨拶しだした。19.また、イエスの頭をこん棒でたたき、唾をはき、ひざをついて拝んだりした。20.イエスをあざけってから、紫の衣を脱がせ、自分の外套を着せて、十字架にかけるために連れ出した。21.するとアレクサンドロとルフォスの父で、シモンというキレネ人が田舎から出て来て通りかかったので、彼らはイエスの十字架を無理やり彼に背負わせた。
22.そしてイエスをゴルゴタ、これは訳せば「されこうべ(頭蓋骨)」という所に連れて行った。23.人々はイエスに没薬を混ぜたぶどう酒を与えたが、イエスはお受けにならなかった。24.彼らはイエスを十字架にかけてから、誰がどの衣服を取るか、互いにくじを引いてイエスの衣服を分け合った。25.さて、彼らがイエスを十字架にかけたのは午前九時であった。26.またイエスの罪状書きがあって、それには「ユダヤ人たちの王」と書かれていた。
27.彼らはイエスと一緒に二人の強盗を、一人は右に、一人は左に十字架にかけた。29.そして人々は、彼らの傍らを通り過ぎながらイエスをののしり、自分たちの頭を振りながら言った。「ああ、神殿を壊して三日で建てる者よ。30.十字架から降りて来て自分を救え」。31.同じように、祭司長たちも、律法学者たちと一緒になって、あざけりながら言った。「他人を救ったが、自分を救えない。32.キリストよ、イスラエルの王よ、今、十字架から降りてみよ。それを見たら信じよう」。イエスと一緒に十字架にかけられている者たちも、イエスをののしった。
33.そして十二時となり、地上の全面が暗くなり三時に至った。34.三時になって、イエスは大声で叫ばれた。
『エロイ、エロイ、レマ、サバクタニ。』
これを訳せば、「わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか」という意味である。35.そばにいたある者たちが(これを)聞いて言った。「見よ、エリヤを呼んでいるのだ」。36.そこで、誰かが走って行き、酸いぶどう酒を含ませた海綿を葦の茎に巻きつけ、イエスに飲ませようとして、「待て、エリヤが彼を引きおろしに来るかどうか見ていよう」と言った。37.しかし、イエスは大きな叫び声を上げて、息を引き取られた。
38.すると、神殿の幕が上から下まで二つに裂けた。39.イエスの向かい側に立っていた百人隊長は、イエスがこのようにして息を引き取られたのを見て、「本当に、この人は神の子であった」と言った。
40.また、婦人たちもいて、遠くから見守っていた。その中には、マグダラのマリア、若いヤコブとヨセの母マリア、サロメがいた。41.彼女たちは、イエスがガリラヤにおられた時、イエスに従い仕えていた人たちである。また他にも大勢の婦人たちが、イエスと共にエルサレムに上って来ていたのである。

42.さて、すでに夕方となっていた。その日は準備の日、すなわち安息日の前日であったので、43.アリマタヤの出身で、有力な議員のヨセフという人が来て―この人も神の国を待ち望んでいたー勇気を持ってピラトの所に行って、イエスの体を(引き取りたいと)願い出た。44.そこで、ピラトは(イエスが)既に死んだかどうか不安に思い、百人隊長を呼び寄せ、とっくに死んだかどうかを尋ねた。45.ピラトは百人隊長に確かめた上で、ヨセフに遺体を引き取らせた。46.ヨセフは亜麻布を買い、遺体を十字架から取り降ろして亜麻布に包み、岩に掘られた墓に納めた。そして石を墓の入り口にころがしておいた。47.マグダラのマリアとヨセの母マリアは、イエスが納められた場所を見届けた。




●「自然の中で聴く聖書」マルコによる福音書 15章

★ Ὁ δὲ Πιλᾶτος βουλόμενος τῷ ὄχλῳ τὸ ἱκανὸν ποιῆσαι (15)
「そこでピラトは、群衆を満足させようと思い

マルコ15章の前半を詳しく読むと、裁判官としてのピラトがイエスを訴える群衆にいかに容易に飲み込まれて行ったかをうかがい知ることができる。何度かの祭司長たちを含めた群衆とのやり取りの中で、ピラトは確かに最初の内はイエスの十字架刑には疑問を抱いていた。それは彼の群衆に対する少なくとも三度の質問で推測できる(9.12.14)。質問を繰り返すうちに彼の疑問は徐々に群衆の意見に飲まれてゆき、ついには、上記(15)の決断へと至るのである。 βουλόμενος (ブーロメノス) は、「~しようと欲す」と訳され、「意思」を現わす時に使われる言葉である。ピラトがイエスを群衆に引き渡したのは、まさに自分の意思からであった。したがって15節の意味する所は、ピラトは自分のローマ総督としての立場から、人々の尊敬を勝ち取るため、群衆を満足させることの方をイエスの釈放より優先させたのであった。

★ ὁ κεντυρίων ὁ παρεστηκὼς ἐξ ἐναντίας αὐτοῦ  (39)

 イエスの向かい側に立っていた百人隊長は」

39節の表現を見ると、このローマの百人隊長はとてもイエスを尊敬していたことがうかがえる。
 παρεστηκὼς(パレステーコース) だけであるなら、ただ「傍らに立っていた」百人隊長というだけのことであったが、ἐξ ἐναντίας αὐτοῦ (エクス  エナンティアス  アウトゥウ)「イエスに向かい合って」 という言葉が付け加えられていることによって、マルコは、この百人隊長が、イエスを真に「神の子」として信じ、意思表示していたことを示したかったのであろう。上記の一文を直訳すると、「イエスの傍らでイエスに向かい合って立っていた百人隊長は」となる。この「イエスに向かい合って」という言葉は、彼が真剣に十字架のイエスに向かい合っていることを示しており、「本当にこの人は神の子であった」という次に来る彼の信仰告白へと繋がっていく。

★ Ησαν δὲ καὶ γυναῖκες ἀπὸ μακρόθεν θεωροῦσαι, (40) 

 「また、婦人たちも(そこに)いて、遠くから見守っていた」

  καὶ ἄλλαι πολλαὶ αἱ (41)
 他にも大勢の婦人たちも」

  ὃς καὶ αὐτὸς ἦν προσδεχόμενος τὴν βασιλείαν τοῦ θεοῦ (43)  

 この人も神の国を待ち望んでいた

イエスの十字架の周りには、イエスを神の子と信じ、神の国を待ち望む人たちが、百人隊長以外にも大勢いた。ギリシア語文法の中で、名詞の前に使われる καὶ(カイ) は重要である。40、41、43で使われている καὶ  はそのような用法で、「~も」と訳す。マルコは καὶ  をここで続けて使用することで、十字架の周りには、百人隊長以外にもなお多くの主を信じる仲間がいたことを示そうとしたのである。

★ ἐπὶ τὴν θύραν τοῦ μνημείου(46)
 「墓の入り口の
 ἐπὶ (エピ) のもっとも一般的な意味は「上」である。したがってイエスが納められた墓の形状がこれによってある程度推測される。墓の入り口の上に蓋のように石が転がされて置かれたという表現から、入り口は上方向にあり、遺体を納める場所はその下方にあった事が想像される。




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